僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

じゅういっかいめ いざ、都市生活体験かな?

 旅立ち。
 普通なら泣かれるなり喜ばれるなりというテンプレが正しいイメージがある名称。
 しかし。
 ひゅ~、という効果音が似合うほどにルネックスの周りには人がいない。

 シェリアの姉とシェリア本人が監禁されていた場所。
 その裏にはまだまだたくさんの罪人が監禁されているらしい。
 今日ここを通ったのは、シェリアが姉に別れを告げたいからである。

 もちろん、もう返事をしないのは分かっている。
 それも分かって、シェリアは涙を流しながら返事を待っている。

 ルネックスもフェンラリアもフレアルも、空気を読んで何も話さない。

 しかし突如聞こえた機械の声。

【スキル「一時蘇生」を取得しました。これは一時的に死人を復活させられるスキルです】

 ユニークスキルだったのか、ご丁寧に説明まで付いている。

「シェリア。ちょっと死人を一時復活させられるスキルを貰ったのだけれど」

「凄い、ですね……一時だけでも、お願いします」

 ルネックスが感情に任せてスキルを取得できるのはフェンラリアと運の数値のおかげである。
 いくらフェンラリアでもスキルを限りなく与えるというのはシステム違反。
 しかしその運に沿ってスキルを取得させるのは可能だったのである。

 シェリアは涙目でそう告げる。
 二言目は言わずに、ルネックスは早速行動を始める。

「スキル【一時蘇生】」

「……あら? 私……、そっか、一時的によみがえったのね」

「姉さま!! ルネックスさんに感謝ですよ?」

「あらそう。また助けられちゃったのね。ありがとうルネックス」

「いえ、シェリアを助けられるのなら」

 その言葉を聞いて、ファリアは微笑みを浮かべた。
 それはまるで天使のようで、とても美しかった。

 生き生きと話せているのは、ファリアは「生き返った」わけではなく「蘇った」だけなのだ。
 生きるも死ぬも、いまはないようになっている。
 「一時的」の期限が終わるまで、何をされても死ぬことは無い。

 一時的、とは十分前後だと機械は教えてくれた。
 レベルが上がれば時間も上がるのではないかとルネックスは考えた。

「姉さま、私、旅に出ます! ルネックスさんと一緒に、世界を征服しに行くのです」

「それはまたずいぶん大きな目標を立てたのね。頑張ってきなさい」

「ハイ! もちろん頑張りますよ、姉さま」

 二人の幸せそうな顔を見て、フレアルもルネックスも泪線崩壊している。
 フェンラリアだけは、同じように微笑んでそれを見つめ続けていた。

 しばらくの間シェリアとファリアは抱き合ったり、話続け、時間は来た。

「最後に、言いたいことがあるの。村長は悪い人じゃないわ、私を此処に閉じ込めたのは、ロゼスの、ロゼスの考え……よっ……」

「姉さま! 姉さまッ!! ……ロゼス……許しません、ルネックスさんから、姉さまにまで」

「僕も許せはしないと思う」

「ロゼスッ! 私は一生恨む! 私になれなれしく……いつもいつも!!」

「あたし、るねっくすにてをだそうとしたじてんですでにうらんでる」

 フェリアはその一言を告げて、またぱたりと倒れた。
 一度このスキルを施した者はもう蘇ることは無い、フェリアの体も消滅し、消えていった。

 そしてここで、ロゼスへの復讐が決まったのである。

 遠くでロゼスがくしゃみをひとつしたのは余談である。

「さて遅れないうちに旅、始めようか」

「いつまでたっても悲しんで居られませんね、私にとって復讐への道です!」

「私にとって、恨み返しへの道だよ……」

「あたしはせんぎりにするー!」

「みんな、怖いから! ほら行くよ……! ああ寒気が」

 隣町は中心都市の隣であり比較的にぎやかな都市である。名はティルファローで、美を大切にした街である。
 そのため治安も良い方なのだが、喧嘩というものは絶えないと聞いている。

 平和主義なルネックスたちにとってはいい選択だろう。

 歩いて二時間弱。
 ルネックスの思惑通り、昼を回ってしまうため腹ごしらえは正解であった。




 今、ルネックス達が見ているのは、白と茶色をメインにした美しい街だった。
 喧嘩がそれを台無しにしているものの、目を瞑ってしまえばかなりのものだ。

 シェリアが今まで歩んできた過酷な街たちとは違って、どちらかと言うと平和である。

 この世界アルティディアに、平和なところなどないのだが。

「つ、疲れた……私こんなに歩いたことなかったからさ」

「でも体力は大丈夫だよね?」

「うん。体力は魔力で補注できるけど、なにより暑さがね」

 この世界には季節というものがあり、今は「暑熱」という季節だった。
 一番に回ってくるのは「桜暖」で、「暑熱」、「葉落」、「極寒」と四つの境目がある。

 暑熱はとても暑く、魔力で涼しくもできるのだがふと気を抜くととんでもない暑さが襲ってくる。

 今回のフレアルはこれが起こったということだ。

「はは……宿、探すのが先だね。魔力の回復もしたいし」

「それですね。平和気味とはいえ平気で人身売買やってますねー」

「巻き込まれないためにも手当たり次第入ろう」

「分かった! 私早く行きたいッ!」

 あちこちで奴隷商があったり、人間展とかいう気味の悪いものがある。

 話が進んでいく中で、ルネックスは最初の目標を決めたのだった。
 人間界の制服は、まず奴隷というものから。

 もしも魔物が襲ってくるなんて言うことがあるのなら、活躍して見せよう。
 国王に話が通り、まずは信頼を築く。

 これがルネックスの最初の目標だった。
 しかし、なぜかフェンラリア達にいう気にはなれなかった。もしもという可能性だけでも否定されるのが嫌だったのだろうか。

 手当たり次第で宿の扉を開ける。宿屋「スユレ」と看板には大きく書かれている。

「なんか高級そう」

「ものすごい雰囲気ですね……」

「僕はこんなの触れたことないよ」

「あたしはまだまだだとおもうけどねー」

 ちなみにフェンラリアはとても小声で話している。
 よし、一人分の料金節約!!

 受付に向かうと、優男っぽい男性が微笑みながら待っていた。

「すみません、三人宿泊したいのですが」

「了解しました。当店のルールを説明させていただきます。食事は一日三回、これは宿泊費に含まれております。一週間150クラン、一か月4600クランです。シャワーなどについては一度に200クラン、たくさんもらっているのは一回に付きいくら使っても大丈夫ということからです」

「分かりました。じゃあ一か月でおねがいします」

 ルネックスは笑顔で応答する。
 バッグから革袋を取り出し、4600クラン受付の机に置く。

 男性は頷き、それを仕舞うと、話をつづけた。

「三人で大きな部屋がありますがどうされますか?」

「ベッドは?」

「もちろん三つありますよ、食事も三人分用意いたします」

 ルネックスは頷き、後ろの二人に確認をしてから男性にもう一度頷く。

 男性が頷き返すと、503号室とかかれた鍵を彼に渡した。
 ルネックスが受け取ると、男性は腰を折り、彼らに一礼をした。

 それを受け、ルネックス達は横にある階段を上って五階に向かう。



 勢いよくフレアルが部屋の扉を開けた。

「はあ~っ」

 もともと用意されてあったのか知らないが、そこにあった水をがぶ飲みするフレアル。

「全く、少しも疑わないんだね?」

「だって初めてだし、サービスだと思えばいいんじゃない?」

「まあそうですね。私は飲みませんが」

 ちゃっかり三人分用意してあるのが疑わしい。
 フェンラリアが鑑定したところ男性が鑑定スキルを持っているということはない。
 どうやってちょうど三人分送ってきたのだろうか。

 コンコン……。

 扉が軽く叩かれ、返事をする前に開けられた。

「どうですか? 水。これはサプライズですよ、お嬢さんは旅にはちょっと甘いようですね」

 そう言ったのはさっきの受付の男性。

「私、彼の彼女です! 私が転移スキルを持っているのですよ」

 男性の後ろにいた女性がそう言った。

 フェンラリアに確認してもらったところ間違いはない様だ。
 とりあえず、フレアルの甘さをもっと鍛えてから旅に出ると良い、と指摘された。

 そして男性と女性は出ていった。

「……良い人だった」

「私、甘い……のかな」

「良い人でした……」

 三人は急展開にぽかんと固まっていた。
 これはフレアルだけではなく、全員甘かったということで間違いない。

 十分に鍛えてから冒険者になるとしよう。
 現実もろくに見てこなかった者達なのだから、今日からはゆっくりしよう、と決めるのだった。時間はある。ありすぎるくらいだ、征服なんてゆっくりやればいい。

 とりあえず今は、しっかり休んで明日個人的に魔物討伐をやりに行くことにした。

 うわさに聞くと都会に行くともっと強い魔物が出るらしい。ちょっと興奮する。

「あぁ疲れた……ってもう夜ご飯だ」

「そろそろ食事が運んで来られるのかな?」

「多分転移で運ばれてきますよ……ほら」

 シェリアがそう言った瞬間部屋の机に三人分のご飯が転移されていた。

 カリッと揚げた香ばしいオリーブオイルを少しふりかけ、ゴマを乗せた香りの効く固めのパンとしゃきっとする新鮮な緑色の野菜キューリとみずみずしいキャベジのサラダ。

 ミートソースに秘伝の調味料を混ぜてパンに付けると絶品である。

 その証拠に四人の顔は綻んでいた。
 フェンラリアは「コピー」というスキルで同じものを複製している。便利なスキルだ。

「イン・ザ・都市生活デビュー!」

 パンを頬張りながらルネックスはそう叫んだ。

「何それ」

「どういうことですか?」

「るねっくすいんざへんじんでびゅー?」

「いやいやいや、都市生活の始まりの日でしょ? ちょっとした祝いに叫んでみたくなっちゃって」

「そういうことならあたしも」

 フェンラリアは急いでご飯をすべて食べ終わり。

「イン・ザ・都市生活デビュー!」

 それを見た二人も急いで食べ、すくっと立った。

「「イン・ザ・都市生活デビュー!」」

 その瞬間、皿を乗せていたトレーが皿と共に転移されていった。

「「「「イン・ザ・都市生活デビュー!」」」」

 今日一番の、そして今日最後の思い切りの体力で、四人はそう叫んだ。
 その後ルネックスだけ離れて羽織っていた神父のような長い服を脱いだ。

 女子達は装備を置いたりしてこれも忙しそうだった。

 明日は服などを買いに行こう、と定めるルネックスであった。

「よし寝よう」

「もう私ねるー」

「あたし……もうねてる……ZZZ……」

「フェンラリアさん、早いですッ!」

 シェリアとフェンラリアが一緒のベッドである。

 ルネックスのベッドが離されたりということはなく、四人は平和に眠りについたのであった。
 淋しく静かに、美しい月が登り、そして落ち。

 暖かく優しい、希望の日が昇り、四人を照らし始めた。

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