僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

にかいめ 冒険者を目指すかな?

 フェンラリアのスパルタ教育により、五時間後にルネックスはフェンラリアの足の下でへばっていた。
 走らせられたり、魔力を無理やり出させられたり、使ったこともないスキルを使わされたり……。
 とにかく大変疲れた時間だったものの、この短時間でルネックスのレベルは5まで上がっていた。

「んー、るねっくすはやっぱり体力がないよね」

「仕方ないよ、僕って運動なんてしてこなかったんだもん」

「言い訳にはならないよ! あたしのごしゅじんさまなんだから、誇りをもちたいの!」

 その気持ちはわからなくもない。
 五時間前に話された「超えてね」と言う言葉も大体何故言ったのか分かってきた。
 自分の主人が自分より弱いと誇りを持てないからだ。
 しかし、大精霊を超えられそうにないのである。
 その考えを見破ったかのように、フェンラリアはため息をついた。

「あたしとしょうぶしてよ、いっかいでも攻撃をあてられたら訓練をやさしくしてあげる」

「えぇ、それって無理な挑戦じゃないの?」

「いいえ、るねっくすがほんとうにかかってくるのなら、一撃くらいかんたんだよ」

 フェンラリアの言っている意味はそこまで分からなかった。
 しかし、ルネックスにはできる、と、そう信じていたのだ。

 そこまでの気持ちを頂き、やらないという選択はルネックスにはない。

「わかった、時間設定とかはある?」

「んー、今日がおわるまでかな?」

「僕の体力がそこまで持たないから、日没まででいいよ」

「はーい」

「日没までに攻撃を当てられたら僕の勝ちだよ」

 フェンラリアはこくりと頷く。
 ルネックスは彼女の感覚がゼッタイに常人とは違うことに気付いた。
 精霊なのだから当たり前なことなのだろう、しかし苦笑いを浮かべるしかなかった。

 身分を見なければ、可愛らしい女の子だろう。身分とステータスを見なければ。
 実はあの後フェンラリアのステータスも見せてもらった。
 回想するのすらもう身震いする。恐ろしいステータスだ。文字が真面目にカンストしている。

「じゃあ、はじめるよ」

「おう」

フェンラリアが名残惜しそうにルネックスの手から離れる。

「せーの、はじめ!」

フェンラリアの掛け声とともに、訓練は始まった。

 ルネックスが何か準備をするその前に、フェンラリアは既に懐に入り込んでいた。
 驚いて飛びのくと、弱い土の槍が飛んでくる。

 精霊やプロのみが使うことができる、無詠唱での魔術の発動。

【水牙】

 水で作られた頑丈な剣で迎え撃つ。
 本人は気づいていないようだがこれは上級魔術なのである。

 剣が粉々に壊れるとともに、フェンラリアの土の槍も壊れた。
 ルネックスは腕を降ろし、少し休憩しようとする。
 膝に手を当てようとした瞬間、冷たいものが彼の腕に当たった。

(あの、短剣……)

 七年間、鞘から抜かずに保存し続けた、父からのプレゼント。
 変化が出たら鞘から剣を抜けと言われていたが、現状で変化がないという方がおかしい。
 ルネックスは剣に手を当てる。

「なあフェンラリア、武器ってありか?」

「もちろんいいよ! だって不利でしょ?」

 その言葉はぐさりとルネックスに突き刺さったが、今はその場合ではない。

 自然に短剣を抜く。

「ぐっ!?」

「まさか……るねっくすが……??」

 短剣が輝き、ルネックスは思わず目を瞑ってしまった。
 フェンラリアは驚きすぎて動けていない。

 フェンラリアくらいしか知らないだろう、伝説すぎて誰も知らないその剣を。

「お、おぉ……? なんか力が入ってくる……」

 光が消え、じっと待っていると、膨大な魔力がルネックスに流し込まれた。

 それを耐えきれず、ルネックスは苦痛の声を漏らす。
 フェンラリアは自らの力を渾身に使い、その力を強引に半分自分に引き込んだ。

「とにかくこのちからはあたしがほかんしておく、るねっくすはむりしないで攻撃してきてね」

「ああ、もちろん……だっ」

「!? な……こんな、ことが……」

 半分吸い取ったものの、剣に入っている魔力は健在。
 ルネックスが進むとともに、剣だけが先走ってフェンラリアに向かって光のスピードで飛んでいく。

 ルネックスはもう付いて行けてなく、フェンラリアも余裕とはいかなかった。

 どれくらい、このギリギリの勝負が続いただろうか。

「あぁ!!」

 フェンラリアの髪を、剣が掠り、数本はらりと落ちた。
 その余波でフェンラリアは遠くに飛ばされ、空間にへこみができた。

 やれやれ、とルネックスは教えられたわけでもないのにその空間を修復した。
 やっと起き上がったフェンラリアはルネックスに近づく。

「いい、これは【聖剣】。はるか昔にあたしの先祖が創った聖なる剣だよ。この空間にて、いつかこの世界を救ってくれる者のみがこのちからを活用できるという願いを込めてね」

「あぁ、でもいまいち、強さがよくわからない……」

 この剣がとんでもないものだというのは、フェンラリアの真剣ないつもと違う大人の口調から分かった。
 しかし、ルネックス自身はこの強さを存分に理解してはいない。

 フェンラリアはため息をつく。

「これひとつあれば、せかいくらい簡単にほろぼせちゃうよ? るねっくす、それ何処からてにいれたの?」

「あー、父さんからのプレゼントなんだ、これ」

 言いにくそうにルネックスはそう言った。
 この「言いにくそう」にはひとつ別の意味も込められている。
 父親からこんな「プレゼント」を貰うのは少しバカらしいのではないかという心配。

 フェンラリアは一瞬目を丸くしてルネックスを見つめた。

「まって、るねっくすの父親のなまえをおしえて」

「フィアだよ」

「ぜ……前代大精霊さまのぎりのむすこのなまえ……」

 フェンラリアは驚くというよりも、もっとルネックスに敬意を示すように跪く。
 ルネックスはフェンラリアの代わりに驚いたかのように目を見開き、フェンラリアを支えて立たせる。

「やっぱり、るねっくすがいちばんのごしゅじんさまだよ!」

 フェンラリアは嬉しそうにルネックスに抱きついた。

「ね、ねえフェンラリア、君って何代目?」

「あたし? あたしはさんだいめだよ!」

 抱きついたまま、フェンラリアはルネックスを見上げてそう言う。
 上から目線は萌える。
 ルネックスは今まで起こったことを瞬時に脳内で整理し、現状を理解する。

「どうやらもう理解しちゃったのかな? りかいりょくははやいんだ」

「こういうことばっかりしてきたからね」

 ルネックスは微笑む。
 フェンラリアはしばらく考え、次の話題を探そうとする。

「そうだ、こんごるねっくすはどうしたいの? たとえばしんろとか」

「そうだね、復讐はもうちょっと後にしたいから、まだ決めてないかな」

「るねっくすに合った仕事かあ……」

 フェンラリアは考え込む。
 ルネックスはそこまで知識はないものの頑張ってなにかないか考え込む。

「「ぼうけんしゃとかどう?」」

 やがて二人が導き出した答えは一緒だった。
 「冒険者」とは「冒険者ギルド」と呼ばれる施設で働く者達のことだ。
 誰もが知る、人からの依頼を受け、ランクを上げ、いつでも上の存在に居る冒険者たちの集まり場というか、陣地的な所。
 ルネックスが知るには、登録もそこで行う。

「僕、冒険者目指すよ! まず強くなって……」

「まずねんれいが許可はんいないになるまでまたないとね」

「あ、あはは……」

 冒険者ギルドは十八歳以上しか入れない場所だ。
 この世界アルティディアでは全世界共通で十八歳での成人だ。成人を祝う会というのも場所によってはある。
 十八歳になるまで待たねばならない。余談だがルネックスは十二歳だ。

「ねーねーるねっくす、るねっくすってさ、聞きにくいけど村ではどう?」

「いじめられてる、かな」

 言いにくそうに聞くフェンラリアと言いにくそうに答えるルネックス。
 フェンラリアはこくりと可愛く頷く。

「だったら、もうかえらなきゃいけないんじゃないの? なにか強要されたりとかないの?」

「いや、あの子たち以外僕に興味がないようだからさ」

「ふうん、でもあのなかでなにかであいが生まれるかのうせいがあるんだよ」

「フェンラリアって未来とか見れるの?」

「見ようとおもえばね、でもあまり見すぎるとせいげんがかけられちゃうかな」

 やはり見すぎはだめだったか、とルネックスは納得する。
 未来が見えるという点にはもはや驚かない。いや、驚く気力すらもうないのだ。
 出会いと言う件については、そこまで信じられないのだが、フェンラリアの言うことだということと、未来が見えるという件を知ったということで、一応受け取っておくことにした。
 もちろん本気にはしていなく、もしかしたら未来が変わってしまう可能性もあるのだから。

「そとはもうくらいよ、かえらなくていいの?」

「僕は時間とかないから、何時いつまででも帰らなくていいけど」

「そっか、このくうかんでねるの?」

「いや、それは家に帰るよ、さすがにあの家は捨てられない」

 フェンラリアは微笑み、「やっぱり」とからかった。
 ルネックスはフェンラリアの髪をなでる。するとフェンラリアは嬉しそうに目を輝かせた。

「じゃぁ、またあしたきてね」

来方きかたがわからない!」

「ブレスレッドに【入る!】って念じればいいだけだよ! いったよね、ここは創造するばしょだって」

 そう言って微笑んだフェンラリアの表情はなぜか淋しそうで、色んな感情がこもっていた。
 ルネックスは特に気にはせず、フェンラリアに向かって笑顔で応えた。
 もちろんその質の差は一目瞭然なのだが。

「出るときはどうやればいいのかな?」

「だーかーらー! なんでも念じればそうなるっていったでしょ? 出たいっておもえばでられるの!」

 何度も同じ問題を聞き続けてきたことにルネックスはやっと気づいた。
 申し訳なさそうに頬をかくと、ルネックスは眼を閉じて、念じる準備をする。

【出して】

 なんとも無力そうな念じ方に呆れたフェンラリアだった。

「さて、あたしにのこされたじかんは、あとどれくらいかな?」

 残されたフェンラリアは、ルネックスが消えたその場所を見つめていた。
 ずっと、ずっと……。

……
。。。



「ああ~」

 埃を被った、なんとかその形を維持している状態のベッドに、ルネックスは倒れこんだ。
 そう言っても送り戻されたときからベッドに送られたのだから、もともと倒れているのだが。

「楽しかったな、あの世界。そうだ、あの世界の名前を決めようかな」

 明日、ルネックスはフェンラリアにあの世界に名前があるか聞いてくるつもりだ。
 しかし、それよりも先に名前を決めてしまおうとルネックスは思う。

「想像……創造……世界……」

 考え込んだまま、ルネックスは眠りについてしまった。その世界の名前はもうきちんと考えてある。

 【創造世界クリエイトスペース】。これがあの世界の名前だ。





 外はもう暗くなっており、月明かりが眼をつんざくほど輝いている。
 「時間」と言う概念はなく、ただ過ごしていくだけだが、寝る時間起きる時間は平均が決めてある。
 その平均のルールを破った少女が此処に一人。

「ルネックス君……大丈夫だったのかな」

 フレアルだった。
 いくらマドンナだったとしても、村の「ルール」ともなったあのいじめを止める勇気はない。
 多分、頭がおかしくなったと思われて病院に運ばれる。
 しかしフレアルは諦めてはいなかった。
 今日のことも計算して行ったことだ。
 彼らがルネックスをもっと傷つける前に、「遊び」に誘ってそのいじめを止めた。
 これも長続きするものではないだろう。

「私、どうすればいいのかな? ルネックス君を、助けられるのかな?」

 フレアルのその問いに、応えてくれる者は誰もいなかった。

 ルネックスは、きっと心配ない。
 フレアルの心に、なぜかその思いが満たされたものの、フレアルがその思いを言い訳だと称し、認めることはなかった。
 恋する乙女は、辛いのである。

 この気持ちが、フェンラリアの守護だとも知らずに。
 その心配が、無用だとも知らずに。

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