職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~

黒水晶

魔力過剰症

遅れてすみません。更新の早さはこれからも下がりますが、週一で更新出来るようにはします。


 ソフィアが出ていってから二週間ぐらいが経っていた。その間にもクレアシオンは一人でコシュタ・バワーに跨がり、夜の草原を駆け、ゴブリンやオーク、稀に現れる危険な魔物や動物を狩っては食料にして、レベルとステータスを上げ続けていた。

 徐々にゴブリンとオークはその数を減らし、最近では人里を襲うような事は無くなっていたのだが、周辺の村の住民はこれで安心と言うわけではなく、もっと強い魔物が現れたのではないか?と噂をしている。最近まで襲ってきた魔物が急に居なくなり、森が一つ一晩のうちに丸ごと消え去っていたりと住民たちの心は休まる暇がなかった。……邪神の影響で悪魔や魔王が生まれやすくなっているためしかたないのだ。

 ソフィアは未だ帰ってこず、クレアシオンは召喚で連れ戻すことは出来るが、出来る限りそっとしておいた方がいいと考えていた。

「大丈夫か?」
「……だいじょうぶ」

 今日は朝からエレノアの様子が少しおかしかった。ボーッとしていて、少し顔が赤く、ふらふらとしていたのだ。朝食も残しており、サラもアニスも心配していた。大丈夫か聞いても、本人は大丈夫と言い張り、熱もあまりなかったことから、彼らはただの風邪だろう、と判断していた。

 今は外の空気でも、といつもの散歩コースでは無く、家の近くをクレアシオンとエレノアは歩いていた。

「お昼御飯、なに食べ――」

 彼が後を振り向き、食べたいものを聞こうとしたとき、後ろでエレノアが倒れる気配がした。彼が慌てて受け止めたが、エレノアの意識はない。

「おい!大丈夫か!?おい?」

 彼が問いかけるが反応はなく、高熱にうなされている。彼はこの症状に少し思いあたることがあるのか、すぐに、彼女を連れて家に帰った。

◆◇◆◇◆

「……魔力過剰症じゃな」
「そんな……」

 クレアシオンが帰ってすぐに、アニスとサラに伝え、アニスが村で医学の知恵があり、薬剤師の職業をもつ村の長老を呼んできて、診察を終えた村長が言ったのが先程の言葉だ。その言葉にサラの顔は青ざめさせた。

 魔力過剰症――――保有魔力量の限界を越えて魔力を蓄えてしまい、脳に過剰な負荷をかけてしまい、高熱にうなされてしまう病気。種族的に保有魔力量が多い種族であるエルフなどが魔力を制御できない幼児期にかかってしまう病気。症例が少なく、なぜ保有魔力量を越えて魔力が体内に留まるのかはわかっておらず、生まれつき魔法の才能のある子供がかかりやすいのではないか、という説が有力だ。

「……薬は無いのですか?」

 無言でいたサラがすがるように聞く。魔力過剰症には特効薬があったことを彼女はどこかで聞いたのを覚えていたのだ。だが、

「――ない」

 長老は首を横にふった。

「どうして?」
「魔力過剰症に効く薬の材料はとても貴重なんじゃよ」
「……いくら高くても――」

 薬のお金がいくら高くても出すと言おうとしたが、

「そう言う問題じゃない。材料自体がないのじゃ」
「そんな……」

 材料自体が無かった。手に入らないのだ。

「……昔は、村人のために備えてあったのじゃが……。魔王や悪魔のせいでの……」

 エルフは長寿のため、子供が生まれにくい。エルフ達にとって子供は宝のようなものだった。なので、魔力過剰症にかかってもすぐに治せるように薬は置いていたのだが、二十年以上前に魔王や悪魔の大規模な襲撃で薬を失ってしまい、魔王や悪魔がいなくなってからも魔物が活発になり、薬の材料を集められずにいたのだ。

「……俺が材料を集めます」

 元冒険者のアニスが自分で取りにいこうとするが

「それは無理じゃよ」
「なぜですか!?」
「薬の材料はここから北に離れたダンジョンでも手にはいるが間に合わないのじゃ。それに、材料を取りに行かせた者たちも帰って来なかった」

 悔しそうに口をつむぐ。魔力過剰症は発症してから約五日で死に至る。今からダンジョンに行っても間に合わない。それに、長老がダンジョンに取りに行かせたが帰って来なかったと言うが、そのダンジョンは元々それほど難しいダンジョンでは無かった。何か異変があったと考えた方がいいだろう。

「深緑の洞窟。この名前はしってるじゃろ?」
「はい、名前だけは」

 深緑の洞窟。洞窟のはずなのに、なぜか植物型の魔物が溢れる洞窟。洞窟内の壁や天井は光る鉱石によって照らされており、その光によって植物が生い茂っている。植物型の魔物が植物に混じっており、見分けることは困難だが、見分けることが出来たのならそれほど強くない魔物ばかりだったはずだ。

「ドリアードが育てている薬草が――」

 バタンっと大きな音がなり、長老の声が遮られた。アニス達が何事かと家の外にとびだすと、そこにはクレアシオンの姿があった。

「クレアシオン!!」
「クレア!!」

 勢いよく走っている彼を黒い影が包み、次の瞬間には、飛龍の姿をしたアレクシスに乗って飛び立ってしまった。アレクシスは物凄い勢いで飛び去り、その姿はもう米粒ほどに小さくなっていた。

 もう、アニス達の声が届かないところまで行ってしまっていた。あまりの突然のことに、呆然としていたが、子供に聞かせられる話ではない、と部屋の外に出していたクレアシオンが話を聞き、飛び出して行ったことだけはわかった。

「……アニス、お主達は少しでもエレノアの近くにいてあげるのじゃ。クレアシオンは村の者達に探させよう」
「はい……。ありがとうございます」

 長老はアニスに出来るだけエレノアの近くにいるようにアニスに言った。残された時間を家族で過ごせ、ということだ。魔力過剰症は稀にだが、自然治癒することがある。だが、自然治癒は期待できるほど、生存率が高くないのがこの病気の恐ろしいところだ。

「お大事にの……」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

 アニスとサラは長老を見送り、アニスはすすり泣くサラを抱きよせ、エレノアの眠るベッドへと向かった。

◆◇◆◇◆

「アレク、猶予は三日だ。薬草を薬にするのにも時間がかかる」

 クレアシオンは深い息を吸い、

「それに、エレノアが苦しんでる姿は見たくないだろ?」
「ギャャヤャャヤヤ!!」

 彼の問いにアレクシスは咆哮でかえした。アレクシスはエレノアになついていた。それはもう、主であるはずのクレアシオンより、優先するようなほどにはなついていた。

 彼の影に潜りながら聞いていたのだ。彼女に時間が無いことを。故に、限界を越えて羽ばたいている。少しでも、ほんの僅かな時間でも苦しむ時間を減らしたい。その思いでアレクシスは不完全な擬態により、溶けている体の一部が飛び散ろうと羽ばたくことを止めない。

「アレク、短剣」

 彼がアレクシスの背中に手を押し付けながら言うと、彼の手が背中に沈んでいった。

「ピィィィイイイ!!」

 彼らの目の前に巨大な鳥形の魔物が現れた。巨大な鳥形の魔物は目の前の餌を食べようと襲いかかってくるが、

「はっ!」
「ギャ!?」

 振り抜いた彼の手から短剣が放たれ、巨大な鳥形の魔物の目を撃ち抜いた。突然の目の痛みに耐えきられず、その魔物は重力に従い、墜ちていく。

 アレクシスの影の中には大量の武器が仕舞われている。【影渡り】の派生スキル。【影収納】その全ての武器は使い捨ててもいいような金属で作られており、クレアシオンが戦闘中に彼の影から武器を取り出すようにと練習していたものだ。

 結果はアレクシスをサポートに回すより、戦わせた方がいいと判断し、彼と連携して戦えるように訓練するようになっていた。

 しかし、武器はいくらあっても邪魔にはならないが信条の彼がアレクシスに武器を持ってもらっていた。

「アレク、あれを取りに行ってくれ」 
「ギャー?」

 地面に墜落して死に絶えた巨大な鳥形の魔物を取りに下に降りろとクレアシオンが指示をだすが、アレクシスは早くダンジョンに向かいたいのか、振り返り彼を見た。

「【暴食】でステータスを少しでも上げて、エネルギーを蓄えておきたい」

 そう言うとアレクシスは渋々というように降りていった。

「悪いな。俺は無駄な殺しはしないって決めてるから」

 地面に降り立ったクレアシオンが鳥形の魔物をぶつ切りにし、暴食のアギトで喰らいながらそう言った。

「深緑の洞窟って何処だ?」  

 彼の問いにアレクシスは首を振って答えた。彼らは北にあるという情報しか手に入れてなかったのだ。


ありがとうございました。

パーティーメンバー

クレアシオン 道化師

アレクシス  スライム

全滅必至のパーティーでいざ薬草採集!!


武器ははちゃんと装備しないと意味がないよ。

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