職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~

黒水晶

日常に差す邪神の影

「みんな!!今、アレクシスが来てくれる。それまで持ちこたえろ!!」
『おお!!』

 森に近づいてくるオークに向けて矢と共に様々な魔法が飛んでいく。エルフは筋力は無いが、魔法の才能を持つ者が多く、保有魔力量が多い。魔力が少なかったり、魔法が得意で無いものは弓を使う。つまり、近づかれたらひとたまりもないので、必死に近づかれないようにしている。

「ブモオォォオオ!!」
「ぐはっ!?」

 オークの投石がエルフの一人に当たってしまった。オークの数が多すぎて人数の少ないエルフの村人たちは押され始めていた。

「ギャアアァァアア!!!」

 バサリと大きな影がさした。咆哮とともにダークアロウが近づいていたオークたちを襲う。そして、オークたちの真上に黒いドラゴンが降り立った。突然の空からの襲撃にオークたちはパニックに陥っている。

「アレクシスが来てくれた!!今のうちに押し返すぞ!!」
『おお!!』

 エルフたちはバラバラに逃げ惑うオークたちを魔法と弓で殺していく。背を向けて逃げ惑うオークを殺すのは簡単だった。次々とオークを殺していくが、

「おい!村の方に逃げたぞ!!」

 数匹のオークがエルフたちの間を抜けて村の方に逃げようとしている。村には戦えない者も多い。エルフが必死に弓や魔法を当てようとするが、生い茂った木の枝などが邪魔で狙いが定まらない。

「ギャアア!!」

 オークたちの足元の木の影からアレクシスが飛び出した。影渡りを使っての奇襲。一匹を噛み殺し、手で他のオークを凪ぎ払う。範囲外にいたオークは突然仲間が殺されたことに恐怖に陥るが、逃げても無駄だと悟ったのだろう。覚悟を決めて各々が武器を持つ手に力が入る。
 
『ブモオォォ!!』

 追い詰められた獣ほど危険度はます。文字通り死に物狂いで襲ってくるからだ。オークたちは呼吸を合わせて前後左右からアレクシスを襲った。まるで、訓練を受けた兵士のように同時に襲いかかるが……。ドスッ!!そんな短く、鈍い幾つもの音が重なって響いた。オークたちは自分の胸を見て、そして振り返って自分の背後を見る……。そして、……意識が闇のなかに溶けていった。

 オーク達が最後に見たもの、それは自分の胸を貫く黒い槍のようなもの、それは自分たちの影から伸びていた。オークの胸から影でできた槍のようなもの――――シャドーランスが抜かれ、一斉に地面に倒れ込んだ。地面に血が染み込む。

「終わったか?」

 アレクシスが後ろを振り向くと、呼びに来た見張りのエルフがいた。アレクシスがオークを倒しているうちに残りのオークはエルフがたおしたようだ。

「助かった」
「グルル」

 アレクシスはオークがいないのを確認すると影に潜って村の方に帰っていった。主の元に帰るのだった。

◆◇◆◇◆

「最近、オークやゴブリンが多くないか?」
「近くの村も襲われたらしい」
「集落が出来ているかも知れないな……」

 そう、ここ最近、オークやゴブリンの被害が増えてきていた。これはどう考えてもふつうではない。集落がいくつか出来ているかも知れないと近くの他の種族の村人も話していた。

「アレクシスにはいつも助けられているな」
「ああ、助かっている」
「初めは危ないんじゃないかって意見も出ていたがな」

 アレクシスは彼らではどうにもならない魔物や数が多すぎる時に助けていた。眠らなくていいスライムなので、夜間の見張りも手伝っていたのだ。今では怖がっていた村人もアレクシスを受け入れていた。

「とにかく、見張りの人数を増やすぞ」

 この小さな町にはオークの集落を掃討するだけの余裕はない。他の町や都にもオークやゴブリンが増えてきていることは伝わっていた。国にはもう報告は行ってるころだろう。それならば、国か大きな都市が兵か冒険者をだしてくれるはずだ。国にとっても、オークやゴブリンが大量発生するのはよろしくない。数によっては国が滅ぶ危険があるからだ。この町に出来ることと言えば、自分達を、特に女性を守るぐらいだった。

「よし、解体するぞ~」

 襲いくるオークも、食べ物の少ないこの時代は貴重な食べ物だ。彼らはオークを村に運び解体していく。

◆◇◆◇◆

 クレアシオンは昼ごはんを食べて、型の練習をしてからアニス達と村のなかにある川で釣りをしていた。

 釣糸を垂らしながらアニスとジェフは他愛ない話をする。話しているうちにクレアシオンの話しになった。

「アニス、上手くいってるみたいだな」
「ああ、エレノアもクレアのことを気に入ってるみたいだし、アレクも何だかんだで村に馴染んでるしな」
「ちょっと、頼りすぎな気もするがな」
「そうだな」

 そう言って二人は笑う。ジェフはアニスがクレアシオンを養子にする、と言ったときから何かと気にかけていた。特に、アレクシスのことは村人に受け入れられるか心配たった。元々排他的なエルフの村だ。子供だけならまだしも、強い魔物はいくら従魔といえども、拒否反応はあるだろうと心配していた。だが、ジェフが言った通り、アレクシスは村ではかけがえのない存在になっていた。頼りすぎはよくないのはよくわかっているが、オークの襲撃が多く、怪我人が増え、人手が足りないので仕方はないのだが……。

「クレアも手がかからないしな」
「あれは、少し異常だろ?」

 そう言ってジェフが見る方向には、

「わぁ~、おっきいね~」
「少し待ってろよ」

 そう言い、小さなナイフで手際よく釣り上げた魚を捌いていくクレアシオンがいた。エレノアが食べやすいように小さな小骨まで取り除くという配慮までしている。

「ファイヤ」

 適量塩を振りかけ、火の魔法でじっくりと火を通していく。ジューっと脂の乗った魚の皮に焼き目が付いていった。その匂いは離れている二人の鼻孔をくすぐる。

「ゆっくり食べろよ」

 彼は火傷しないぐらいまで冷ましてからエレノアに渡した。それはもう絶妙な火加減で焼かれた塩のみで味付けされたシンプルながらそれゆえに誤魔化しが効かない極上の焼き魚だ。エレノアは一口食べ、

「おいし~」
「そうか」
 
 彼女は手をぶんぶんと振りながら感想を素直にぶつけた。小さいときから彼の料理を食べ続け、舌の肥えたであろう彼女の将来が心配だ。彼女の感想を聞き、クレアシオンは顔をほころばせながら、再び釣糸を垂れる。

「手のかかるかからないってレベルじゃねぇよ。普通に旨そうだし」
「……」
「毎日、素振りやってるけど、あれは凄いレベルだぞ。おまけに魔法まで使える」

 クレアシオンが毎日鍛えているのは村人皆が知っている。中々いい動きだな、ぐらいにしか思っていないが、ジェフやアニスなどのレベルの者にはわかってしまう。日に日に、洗練されていくクレアシオンの動きが――。それに、何気無く無詠唱で使っているが、詠唱なしでの魔法は難しい、どれをとっても異常だった。

「まぁ、クレアにはかわらないよ」
「そうだな、お~い!!クレア!!俺たちにも焼いてくれ!!」
「わかった」

 クレアシオンを拾った時から、養子にしようと決めた時からその決心は変わらない。揺るがない。例え、クレアシオンがどのような生まれであろうと、それで厄介事に巻き込まれようとも、クレアシオンはクレアシオンだ。それだけは変わらない事実である。

「骨は取ってくれないのかよ」
「それぐらい自分でやれ」
「くれあ、とって」
「ほら、かしてみろ」

 釣り上げては、クレアシオンが捌き、どんどん焼いていく。効率よくするために、魔法の火ではなく、薪を拾い、火をつけ、焼いている間に手際よく下ごしらえを済ませていく。ジェフが取り出した酒をアニスと共に取れたての焼き魚を肴にどんどん飲んでいった。澄んだ空気に、溢れる木漏れ日、小鳥の奏でる囀ずりと小川の流れる音が曲を織り成していく。最高に贅沢な時間が過ぎていく。

 結局、焼き魚を食べ過ぎたエレノアとアニスは晩ごはんがたべられなくなり、サラに怒られたのであった。

「クレア、お前もたべていたのに、なんで食べれるんだよ」
「……成長期」

 納得いかないのか、アニスはジトッとすまし顔でご飯を食べるクレアシオンを見ていた。

 サラの作った料理は【暴食】を持つクレアシオンが残さず美味しくいただきました。


ありがとうございました。
次の次でクレアシオンがヒャッハーします(たぶん)。

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