浦島太郎になっちゃった?
鬼ごっこの後で
オドワさんを取り囲んでのお説教は、オドワさんの土下座により収束した。
お説教していた三人は、普段お説教しないからかいつになく疲れを感じていた。
とぼとぼ城に戻ってきた三人は、廊
下で別れ各々の部屋に戻り、ふぅと一息吐いてベッドに腰掛けた。
部屋番号3・ルイネは声に出して唐突に運算を始める。
「今日の売り上げが百で、昨日が二百、一昨日も二百だから、よかったギリギリ黒字だ」
ほっと安堵の息を漏らす。
毎週毎週にこうして不安になり、売り上げを運算するルイネだが、最近になって頭から離れないことがある。
「おじいちゃんの手紙、どうやって取ればいいのかな?」
背伸びしても台に乗っても、棚の上にある手紙に指が届かない。
ルイネにとって、売り上げよりも大事なことである。
腕組をして限りある知恵を絞り出す。
「何か良い方法ないのかなぁ?」
云々思考を巡らしていたルイネは、ことんと知らぬ間に眠り落ちていた。
部屋番号5・マリは今日も日記にスラスラしたためていた。
ふと筆を動かす手が止まり、筆の後端を唇にあてがいんー、と考え始める。
「鬼ごっこって、あんなにグダグタしたものだったっけ?」
何故マリがそんなどうでも良いことを考え始めたのか? それはマリの過去にあった。
マリが九歳の頃、近所で仲の良い友人達と家の周辺で鬼ごっこをしたことがある。その時マリは鬼役を務めていた。
マリは一度自宅に戻り、変装してみんなを驚かせようと考え、着替えを始めたところで外から逃げている最中の友人の声がし、下半身が布一枚のとても寒々しい格好で飛び出した挙げ句、マリは自分のお恥ずかしい格好に気づかぬまま、逃げる友人を追いかけ回した。
全員をタッチして喜び勇むマリを見ながら、クリナ以外の友人達は皆、笑いを堪えていた。
見るに見かねた親友のクリナが、言いづらくもマリに下半身が下着だけだよ、と伝えると訳もわからないような顔をした。
そんな恥ずかしい格好で走り回るなんて、ただの変態だよ、とマリはクリナの親切を笑い飛ばした。
そのあと、その場で様子のおかしい友人達と別れ帰宅し、自室に戻ってやっと鏡で自分の羞恥な姿に気づいたという。
過去の口外できない出来事を思い出して、マリは仄かに頬を紅潮させる。
「だから鬼ごっこは嫌いだった、けど今日の鬼ごっこはそれとなく楽しかった」
微かに口元を緩ませた。
今日分の日記が書き方終わり、小さなあくびを漏らした。
クリナはベッドに腰掛け、いろんなことを頭に巡回させながら天井を仰いでいた。
姫候補達や次期王とは異なりクリナの部屋は、女性二人の相部屋である。
返答する部屋のドアが開かれ、暗緑黄色の長髪を揺らしながらメイド服を着たメイドが入ってくる。
入るなりメイドは、天井を仰ぐクリナに疑問を投げ掛ける。
「何をなされているのですか、クリナ様?」
不意に疑問を投げ掛けられたクリナは、ばっとメイドの方に顔を向けた。
その顔は少々、驚きが表出している。
「な、なんでそんなこと訊くんですか? めっ、ですよ」
相も変わらぬクリナのお姉ちゃんキャラに、メイドはめんどくさそうな顔をする。
「またそれですか。同い年ですのに、めっとかする癖を直してください」
クリナはちょっとばかし納得できない様子で、唇を尖らし言い返す。
「それならあなたも、私とマリに様をつけないで。幼なじみじゃない」
要求を孕んだ言い返しに、メイドはふっ、と鼻で笑い言う。
「私はメイドのプロフェッショナルだ、クリナ。たとえ親であろうと友人であろうと、品高い言動を心掛け、身の回りに注意を配り、笑顔を絶やさない。それができなければ、メイド失格だぁーーーーーーーーーーー!」
身ぶり手振り力説して、右手の人差し指をピンとさせてクリナの顔に意気盛んに突き付けながら長く叫んだ。
一息に力説したので、息も絶え絶えである。
「昔からキャンって、自分が好きなこととか譲れないことになると、気性が荒くなるよね」
首を傾けつつ微笑んで言うクリナに、キャンと呼ばれたメイドは姿勢を正し、たおやかに言葉を返す。
「何を申しておられるのですか?  気性が荒いなど、メイドとしてあるまじきことです。決して取り乱さず、主人の身の安全を第一優先し、時には……」
「宮殿の庭園で彼氏と散歩」
台詞の途中でクリナに、虚を衝くような否定しがたい事実を述べられてメイドは、やめてぇぇぇぇぇぇぇ、と悶えて床を転がった。
さすがはメイド。床を掃除している。
クリナは床を転がる友人に、苦笑を禁じ得ない。
「キャンって昔と、なーんも変わらないね」
「変わる理由がございません、クリナ様」
立ち直りはやっ! とクリナは衝撃を受けた。
立ち直り早いメイドは、言葉遣い丁寧に突然告げる。
「やっぱり自分も姫候補になりたかった、と思ってらっしゃいますねその顔は」
「そんなこと思わないわ」
そうきっぱり言うクリナの瞳が、寂しげに揺れる。
メイドは内心バレバレだなぁ、と思いながら、わざと裏腹な台詞を返す。
「そうでしたか、それならいいのです」
「キャン、私疲れたから寝るね」
そう相部屋のメイドに伝えて、もぞもぞ布団を被った。
「私も眠たくなってきましたが、もう一周城の見回りをしてきます」
メイドは照明を消してゆっくりドアを閉め、部屋を後にした。
そして、悩ましそうに溜め息を吐き呟く。
「クリナも変わってませんね。悩みを抱えると、一人で抱え込む癖。それとなく探ってみましょうか、面白いですしね」
お説教していた三人は、普段お説教しないからかいつになく疲れを感じていた。
とぼとぼ城に戻ってきた三人は、廊
下で別れ各々の部屋に戻り、ふぅと一息吐いてベッドに腰掛けた。
部屋番号3・ルイネは声に出して唐突に運算を始める。
「今日の売り上げが百で、昨日が二百、一昨日も二百だから、よかったギリギリ黒字だ」
ほっと安堵の息を漏らす。
毎週毎週にこうして不安になり、売り上げを運算するルイネだが、最近になって頭から離れないことがある。
「おじいちゃんの手紙、どうやって取ればいいのかな?」
背伸びしても台に乗っても、棚の上にある手紙に指が届かない。
ルイネにとって、売り上げよりも大事なことである。
腕組をして限りある知恵を絞り出す。
「何か良い方法ないのかなぁ?」
云々思考を巡らしていたルイネは、ことんと知らぬ間に眠り落ちていた。
部屋番号5・マリは今日も日記にスラスラしたためていた。
ふと筆を動かす手が止まり、筆の後端を唇にあてがいんー、と考え始める。
「鬼ごっこって、あんなにグダグタしたものだったっけ?」
何故マリがそんなどうでも良いことを考え始めたのか? それはマリの過去にあった。
マリが九歳の頃、近所で仲の良い友人達と家の周辺で鬼ごっこをしたことがある。その時マリは鬼役を務めていた。
マリは一度自宅に戻り、変装してみんなを驚かせようと考え、着替えを始めたところで外から逃げている最中の友人の声がし、下半身が布一枚のとても寒々しい格好で飛び出した挙げ句、マリは自分のお恥ずかしい格好に気づかぬまま、逃げる友人を追いかけ回した。
全員をタッチして喜び勇むマリを見ながら、クリナ以外の友人達は皆、笑いを堪えていた。
見るに見かねた親友のクリナが、言いづらくもマリに下半身が下着だけだよ、と伝えると訳もわからないような顔をした。
そんな恥ずかしい格好で走り回るなんて、ただの変態だよ、とマリはクリナの親切を笑い飛ばした。
そのあと、その場で様子のおかしい友人達と別れ帰宅し、自室に戻ってやっと鏡で自分の羞恥な姿に気づいたという。
過去の口外できない出来事を思い出して、マリは仄かに頬を紅潮させる。
「だから鬼ごっこは嫌いだった、けど今日の鬼ごっこはそれとなく楽しかった」
微かに口元を緩ませた。
今日分の日記が書き方終わり、小さなあくびを漏らした。
クリナはベッドに腰掛け、いろんなことを頭に巡回させながら天井を仰いでいた。
姫候補達や次期王とは異なりクリナの部屋は、女性二人の相部屋である。
返答する部屋のドアが開かれ、暗緑黄色の長髪を揺らしながらメイド服を着たメイドが入ってくる。
入るなりメイドは、天井を仰ぐクリナに疑問を投げ掛ける。
「何をなされているのですか、クリナ様?」
不意に疑問を投げ掛けられたクリナは、ばっとメイドの方に顔を向けた。
その顔は少々、驚きが表出している。
「な、なんでそんなこと訊くんですか? めっ、ですよ」
相も変わらぬクリナのお姉ちゃんキャラに、メイドはめんどくさそうな顔をする。
「またそれですか。同い年ですのに、めっとかする癖を直してください」
クリナはちょっとばかし納得できない様子で、唇を尖らし言い返す。
「それならあなたも、私とマリに様をつけないで。幼なじみじゃない」
要求を孕んだ言い返しに、メイドはふっ、と鼻で笑い言う。
「私はメイドのプロフェッショナルだ、クリナ。たとえ親であろうと友人であろうと、品高い言動を心掛け、身の回りに注意を配り、笑顔を絶やさない。それができなければ、メイド失格だぁーーーーーーーーーーー!」
身ぶり手振り力説して、右手の人差し指をピンとさせてクリナの顔に意気盛んに突き付けながら長く叫んだ。
一息に力説したので、息も絶え絶えである。
「昔からキャンって、自分が好きなこととか譲れないことになると、気性が荒くなるよね」
首を傾けつつ微笑んで言うクリナに、キャンと呼ばれたメイドは姿勢を正し、たおやかに言葉を返す。
「何を申しておられるのですか?  気性が荒いなど、メイドとしてあるまじきことです。決して取り乱さず、主人の身の安全を第一優先し、時には……」
「宮殿の庭園で彼氏と散歩」
台詞の途中でクリナに、虚を衝くような否定しがたい事実を述べられてメイドは、やめてぇぇぇぇぇぇぇ、と悶えて床を転がった。
さすがはメイド。床を掃除している。
クリナは床を転がる友人に、苦笑を禁じ得ない。
「キャンって昔と、なーんも変わらないね」
「変わる理由がございません、クリナ様」
立ち直りはやっ! とクリナは衝撃を受けた。
立ち直り早いメイドは、言葉遣い丁寧に突然告げる。
「やっぱり自分も姫候補になりたかった、と思ってらっしゃいますねその顔は」
「そんなこと思わないわ」
そうきっぱり言うクリナの瞳が、寂しげに揺れる。
メイドは内心バレバレだなぁ、と思いながら、わざと裏腹な台詞を返す。
「そうでしたか、それならいいのです」
「キャン、私疲れたから寝るね」
そう相部屋のメイドに伝えて、もぞもぞ布団を被った。
「私も眠たくなってきましたが、もう一周城の見回りをしてきます」
メイドは照明を消してゆっくりドアを閉め、部屋を後にした。
そして、悩ましそうに溜め息を吐き呟く。
「クリナも変わってませんね。悩みを抱えると、一人で抱え込む癖。それとなく探ってみましょうか、面白いですしね」
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