浦島太郎になっちゃった?

青キング

神に問いたい。勝手に帰って失礼じゃありませんか?

「俊君、俊君? 聞こえてるかのう?」

 耳元で老境に入った人の声が聞こえる。

 知らない間に眠ってしまったらしい俺は、うっすらと目を開けた。

「おお、まだ意識はあるのか」

「オドワさん?」

 目の前には、屈んで俺の顔を覗き込んでいるオドワさん。表情に思慮が窺える。

「どうしたんですか?」

「ハリックにやられたんじゃの」

 俺の問いに被せてきた。ハリックがどうかしたのかと向かいの椅子を見る。

 ハリックの姿はない。

「オドワさん、ハリックはどこに?」

「わしも行方を知らん」

「すぐに戻ってきますかね?」

「知らん」

 オドワさんは首を振ってそう答えた。

 ふと他の疑問が浮上してきた。

「あの、二回目の鐘って鳴りました?」

「まだじゃよ」

「それなら、長い時間寝てたわけじゃないんですね」

「すまないね俊君」

 脈絡もなく謝ってくる。顔を垂れ下げ、すまなさそうだ。

「何に謝ってるんですか?」

「ハリックじゃよ」

「どういうことですか?」

 オドワさんは立ち上がり、俺の肩に手を置く。

「城に帰りながら話すよ。だから、とりあえず城に帰るよ俊君」

「は、はぁ。わかりました」

 俺も腰を上げ、オドワさんと共に部屋を出た。ハリックはどこに行ったのだろうか? トイレかな?


 俺はオドワさんと城に帰っている。

 何も言わず立ち去るのは忍びなく、執務机の製図用紙の裏に帰ることを伝える文を書いてローテーブルに置いてきた。

 それでも何か失礼な気がしてきて、俺はオドワさんに尋ねた。

「いいんですかね、勝手に帰っちゃって」

「いいんじゃよ」

 何かを隠しているみたいに、今日のオドワさんはやけにおとなしい。

「話してもいいかの?」

「はい、いいですけど」

「ハリックも俊君と同じで、元々はここの世界の人間ではないんじゃよ」

「そうなんですか、でもなんとなく察してました」

「そうかい、わかっておったのか」

 ショボンと肩を下げて残念がった。

「ところで今、好きな人とかいるかのう?」

「姫候補の中からですか。うーん」

 姫候補五人の中から一人を選ぶ、俺はそれがどうしてもできなかった。

「どうしましょう?」

「姫候補以外でもいいとしたら、どうするかの?」

「この世界全員の女性の中から、ですか」

 全員は比較できねぇ。

「わしはずっと不思議に思ってたんじゃよ」

「何をです?」

「クリナじゃよ。あれだけ美人でプロポーションが破滅的じゃからの、姫候補選挙を辞退したのには驚いてのう。投票数一位じゃぞ?」

「姫候補選挙、前にミクミとのデートで睡眠店の人が言ってました。あれで上位五人が姫候補になれるってことですよね」

「おお、よくわかっとるのう」

「話の内容からして、そうかと思っただけですよ」

「俊君、君は察しがいいのう。それならあっちの世界でもモテたじゃろ」

 ニヤッとしてオドワさんは笑う。

 モテたかどうか、そんな男女の心の機微なんて俺には縁遠かった。

「そんなことありませんよ。一回も告白されたことさえ、ないんですよ」

 軽い気持ちで俺は言った。

 オドワさんはなぜ? といった顔になる。

「どうしてモテなかったかの?」

「取り柄がないから、だと思いますけど」

 とりとめのない会話をしていたら、いつの間にか城囲う外壁の門まで来ていた。

 俺はオドワさんと共にその門を潜って、城に帰った。







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