浦島太郎になっちゃった?
人形に問いたい。どうすれば少女になれるの?
「ラナイトさん、すごい注目浴びてるんですけど……」
「当然だ、君は次の王なのだからな」
城を囲む高床式住宅地を、凛とした歩き姿で少し先を行くラナイトさんに話しかけるも興味ないというように言い返される。
道行く人のひそひそ話やチラ見が、歩いているだけで居心地が悪い。
老若男女問わず、必ず一度は見てくるので年齢層厚く俺は知られているらしい。
「他に仕事ないんですか?」
「これが主な仕事だ。街の治安を守ることが騎士の基本だ」
物臭な口調で尋ねた俺は、毅然としたラナイトさんに一蹴される。
確かに、仕事の内容に欲を出している場合ではないのだ。本題は騎士がどんな仕事をしているのか知り、ラナイトさんの気持ちをわかることが目的だ。
そう自分に言い聞かせて叱咤する。
突然、ラナイトさんが立ち止まった。
あまりに突然だったので追い越してしまい、振り返る。
見るとラナイトさんは、何のへんてつもない露店を見据えている。
「どうしたんですか?」
返事はなく、その場に膝を折り屈み込んで露店の店主と話し始めた。
そして商品の一つを指差して、硬貨何枚かと交換している。
店主から受け取ったものを片手に立ち上がり、ラナイトさんはこちらに向き直った。
受け取ったものを持っている左手を背中に回したまま、行きましょうと事も無げに言う。
__とは言ったもののその場から一歩も動いていないラナイトさんに、俺は訝しむ視線を送る。
「どうしたんですか?」
「先行っていいよ」
兜が俯き気味に地面を向く。妙だなと俺はより一層訝しむ色を濃くして聞き出す。
「なんで買ったもの隠してるんですか?」
「かか、隠してないよ。とと、というか何も買ってない……」
驚いたように兜を上げたラナイトさんは台詞の切れが悪い。明らかに動揺している。
しつこく聞き出しを続ける。
「それなら背中に回している左手を見せてください」
「いじわる!」
柄に合わない丸みを帯びた口調で言い放たれる。
なんで俺はラナイトさんを聞き出してるんだ?
やっていてアホらしくなった。
「まぁいいですけど。とにかく仕事を続けましょうよ」
「仕方ないなぁ、何買ったか教えてあげる」
いつもの凛々しい言動はどこへやら。ホワホワというのが近いだろうか、甘えるような口調になっている。
ラナイトさんは後ろに回していた左手のひらを突き出した。
そこに乗っていたのは、キーホルダーサイズの柴犬に似た茶色い毛並みの犬の人形だった。
やけに形が丸こっくて可愛らしい。
それを俺に見せたまま、いつもより甲高い声で喋り出す。
「見て見てぇ、この円らで捨てられた子犬みたいな目なんて、もう最高にカワイイ!」
なんと反応するのが最適解か、導き出せない。
すると途端にラナイトさんは、ゴホンとわざとらしく一つ咳払いするアクションを見せる。
兜で口塞がってるから意味がないような。
「見回りもあと半分程度でお仕舞いだ。さぁ行こう」
先程までの少女の雰囲気は嘘のように消えている。嘘だろ!
いつもの調子に戻り、ラナイトさんは清廉な歩き姿で俺の隣を抜けていく。
しかしまだ左手は、包むように犬の人形を優しく握り持っている。
俺は先を行くラナイトさんの左隣に並んで歩く。
勝手な推測だが、ラナイトさんは可愛い人形とかが大好きなのだろう。しかし似合わないと自分に言い聞かせているのかもしれない。恥ずかしがりやなのかな?
俺はこっそり微笑んだ。
見回りを終え、城に帰ってきた俺とラナイトさんは自分達の部屋に戻った。
ベッドの縁に腰掛けて顔を伏せ、俺は思考を巡らしていた。
ラナイトさんを縛っているもの、きっとそれは威厳だろう。
あんな少女みたいに可愛い人形に目が留まってしまう自分を無理に押し込めて、気丈に超然と振る舞っていないと騎士として失格だと考え、そうして我慢しているんだろう。
でも騎士である前に一人の女性だ。
明日、もう一度ラナイトさんと見回りに行くとき、思い切って意見を言ってみよう。
俺はそう決めて、明日の見回りのために布団に潜って目を閉じた。すぐに眠りに就けた。
今日の仕事も無事に終え、部屋の中で防具をすべて外し終える。
無意識に口から溜め息が零れる。
もっと少女っぽくなりたかった。
可愛い物に目がない自分を押し殺して、今まで生きてきた。
左手の中に持っている人形を両手に乗せ、話しかける。
「どうすれば少女になれるの?」
無論、返事はない。
いけない、また本性が出てしまった。
__もう寝ようかな。疲れた。
突発的に感じた疲労感に、眠気が促進される。
人形を机に置き、ベッドに上がる。
そして、自分の姿を隠すように布団を被った。
「当然だ、君は次の王なのだからな」
城を囲む高床式住宅地を、凛とした歩き姿で少し先を行くラナイトさんに話しかけるも興味ないというように言い返される。
道行く人のひそひそ話やチラ見が、歩いているだけで居心地が悪い。
老若男女問わず、必ず一度は見てくるので年齢層厚く俺は知られているらしい。
「他に仕事ないんですか?」
「これが主な仕事だ。街の治安を守ることが騎士の基本だ」
物臭な口調で尋ねた俺は、毅然としたラナイトさんに一蹴される。
確かに、仕事の内容に欲を出している場合ではないのだ。本題は騎士がどんな仕事をしているのか知り、ラナイトさんの気持ちをわかることが目的だ。
そう自分に言い聞かせて叱咤する。
突然、ラナイトさんが立ち止まった。
あまりに突然だったので追い越してしまい、振り返る。
見るとラナイトさんは、何のへんてつもない露店を見据えている。
「どうしたんですか?」
返事はなく、その場に膝を折り屈み込んで露店の店主と話し始めた。
そして商品の一つを指差して、硬貨何枚かと交換している。
店主から受け取ったものを片手に立ち上がり、ラナイトさんはこちらに向き直った。
受け取ったものを持っている左手を背中に回したまま、行きましょうと事も無げに言う。
__とは言ったもののその場から一歩も動いていないラナイトさんに、俺は訝しむ視線を送る。
「どうしたんですか?」
「先行っていいよ」
兜が俯き気味に地面を向く。妙だなと俺はより一層訝しむ色を濃くして聞き出す。
「なんで買ったもの隠してるんですか?」
「かか、隠してないよ。とと、というか何も買ってない……」
驚いたように兜を上げたラナイトさんは台詞の切れが悪い。明らかに動揺している。
しつこく聞き出しを続ける。
「それなら背中に回している左手を見せてください」
「いじわる!」
柄に合わない丸みを帯びた口調で言い放たれる。
なんで俺はラナイトさんを聞き出してるんだ?
やっていてアホらしくなった。
「まぁいいですけど。とにかく仕事を続けましょうよ」
「仕方ないなぁ、何買ったか教えてあげる」
いつもの凛々しい言動はどこへやら。ホワホワというのが近いだろうか、甘えるような口調になっている。
ラナイトさんは後ろに回していた左手のひらを突き出した。
そこに乗っていたのは、キーホルダーサイズの柴犬に似た茶色い毛並みの犬の人形だった。
やけに形が丸こっくて可愛らしい。
それを俺に見せたまま、いつもより甲高い声で喋り出す。
「見て見てぇ、この円らで捨てられた子犬みたいな目なんて、もう最高にカワイイ!」
なんと反応するのが最適解か、導き出せない。
すると途端にラナイトさんは、ゴホンとわざとらしく一つ咳払いするアクションを見せる。
兜で口塞がってるから意味がないような。
「見回りもあと半分程度でお仕舞いだ。さぁ行こう」
先程までの少女の雰囲気は嘘のように消えている。嘘だろ!
いつもの調子に戻り、ラナイトさんは清廉な歩き姿で俺の隣を抜けていく。
しかしまだ左手は、包むように犬の人形を優しく握り持っている。
俺は先を行くラナイトさんの左隣に並んで歩く。
勝手な推測だが、ラナイトさんは可愛い人形とかが大好きなのだろう。しかし似合わないと自分に言い聞かせているのかもしれない。恥ずかしがりやなのかな?
俺はこっそり微笑んだ。
見回りを終え、城に帰ってきた俺とラナイトさんは自分達の部屋に戻った。
ベッドの縁に腰掛けて顔を伏せ、俺は思考を巡らしていた。
ラナイトさんを縛っているもの、きっとそれは威厳だろう。
あんな少女みたいに可愛い人形に目が留まってしまう自分を無理に押し込めて、気丈に超然と振る舞っていないと騎士として失格だと考え、そうして我慢しているんだろう。
でも騎士である前に一人の女性だ。
明日、もう一度ラナイトさんと見回りに行くとき、思い切って意見を言ってみよう。
俺はそう決めて、明日の見回りのために布団に潜って目を閉じた。すぐに眠りに就けた。
今日の仕事も無事に終え、部屋の中で防具をすべて外し終える。
無意識に口から溜め息が零れる。
もっと少女っぽくなりたかった。
可愛い物に目がない自分を押し殺して、今まで生きてきた。
左手の中に持っている人形を両手に乗せ、話しかける。
「どうすれば少女になれるの?」
無論、返事はない。
いけない、また本性が出てしまった。
__もう寝ようかな。疲れた。
突発的に感じた疲労感に、眠気が促進される。
人形を机に置き、ベッドに上がる。
そして、自分の姿を隠すように布団を被った。
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