暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第162話 〜お腹空いた〜 佐藤司目線


それは、数日前にさかのぼる。

先にウルクを出て、獣人族領内で一番魔族領に近い場所の合流地点に向かったジールと勇者たち一行は最大のピンチに陥っていた。


「……お腹空いたぁ~」

「言うな上野!余計に腹が減るだろ」


そう、食料の問題である。
勇者一行はこれまで街伝いに移動をしていたため、金さえあれば食料に困ることはなかったし、大抵の街は魔物を退治すれば冒険者ギルドや似たような寄り合いで金が手に入ったので実質飢餓とは無縁だった。
が、今歩いている場所は鬱蒼と生い茂る森の中。
さらに言えばここから先に街はないし、今は倒せている魔物も強力になっていくとか。
獣道ですらない足場が不安定な木々の間を歩くのは体力がいる。
持ってきていた食料は早々に尽きてしまったし、食料不足は可及的速やかに解決すべき問題だった。

「とはいえ、ここまで動物がいないとは思わなかったな」


俺はあたりを見てため息をついた。
しんと静まり返った森の中は獣の臭いが一切しない。
初めの頃より大きく向上した俺のステータスによって身体能力が上がり、五感が鋭くなった。
ただの動物と魔物の違いくらいなら臭いの違いで判別できる。
少なくとも半径20メートル以内には魔物も動物もいない。
おまけに上空を自由に飛んでいる鳥たちもこの森……いや、ここから先には一切いない。
それだけこの先にいる魔物が強いということなのだろう。
そして俺たちは後から来る晶たちのためにそいつを倒さなければならない。
……いや、クロウさんはどうかは知らないが、晶とアメリアさんなら一撃で倒しそうだけどな。

そこまで考えて俺はクスリと笑った。
どういう心境の変化なのか、こちらの世界に召喚される前と今とで晶に対する気持ちが百八十度変わっている。
やはりあの迷宮でのことや晶が城を去ったときのことが関係しているのだろう。
我ながら単純な奴だ。


「なに笑っとるん、司君。これは一大事やで!このままやったら餓死してまう」


目を吊り上げる上野さんに素直に謝り、俺も考える。

近くにきれいな水が流れる川があったのは確認した。
試しに一口飲んでみても体に異常はなかったし。
本当に、あとは食料だけなのだ。
それにここにずっと留まるわけにもいかないし、できれば持ち運べて尚且つ日持ちする食料がいる。


「とりあえず各自ここを中心に行動し、食料になりそうなものを持ち帰る。一人では何かあったとき危ないから三人または二人一組で。木に目印をつけて進み、決して単独行動はしないこと」


組み合わせは俺と上野さん、津田君チーム、朝比奈君と和木君、細山さんチーム、最後にジールさんと七瀬君チームだ。
拠点とした少し開けた場所と背にしてバラバラに行動する。
どちらから来たかさえわかれば、元の場所に帰ることもできるだろう。
一応ジールさんの方を向いて確認を取ると、少し難しい顔をしていたが賛成してくれた。


「じゃあ、太陽が真上に来たら引き返して帰ってくること。……さ、行こう」


本当は三人一組でも行動すべきではないのだが、太陽が真上に来るのにそう時間はかからないだろう。
俺と朝比奈君、ジールさんがいればここに来るまでの魔物くらいなら倒すことができる。
大丈夫なはずだ。



後から考えれば、この時の俺はおそらく空腹で正常な思考ができなかったのだろう。
そうでなければ、何があるかわからないこの森の中で別々に動くなんてことはしなかっただろうから。





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