暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第139話 〜四対一〜
「にしてもあんたすげぇ身のこなしだな!」
「そうそう!俺とも一勝負しようや!」
「俺もー!」
獣人族全体の特徴として好戦的というのがあげられるが、こんなに詰め寄られるとは思わなかった。
「わ、分かった。何人ずつでもいいからかかってこい」
俺がそう言うと、兵士たちが歓声を上げた。
これは私闘に入らないのだろうか。
見るからに地位が高そうな男が傍観しているからいいのか?
兵士のうち四人が三段高くなった舞台の上に上がり、他はガヤガヤとしている。
「では、審判は第五十五中隊隊長トマがする!オダ殿を降参させた者には俺の秘蔵の酒をやるぞ!!みな気合を入れてかかれ!」
「おお!!中隊長太っ腹!!」
「じゃあ、これの次俺らな!!」
いつの間にか景品付きになってるし、それに伴って心なしかどんどん参加者が増えている気がする。
日が暮れるまでに帰らないと今日野宿なんだが。
止めないのかと二階のバルコニーを見上げたが、王どころかリアもアメリアの姿もなかった。
見るだけでいいから切実に癒しが欲しい。
「では、始め!!」
始めの合図と同時に俺は『気配隠蔽』を使った。
面倒だから一気に終わらせるか。
「おい、どこに消えた!?」
「スキルか!!」
「『看破』持ってる奴はいないのか!」
闇雲にそれぞれの武器を振り回す兵士の間を抜けて、見た中で一番ステータスが高い男の後ろに忍び寄った。
「っ!?」
後ろから、いわゆる首トンをかましてやると、声を上げる間もなくその男は意識を落とす。
「おおっと、ゲン中隊長が早々と脱落!声を上げることすら許さずに沈めたぁ!!残るは三人!!果たして誰がその首をとるのか!おい誰か、巻き込まれないようにゲン中隊長を運び出せ!」
いつの間にか実況も入っていて中庭は大盛り上がりだ。
俺は続いて二番目にステータスが高い男の鳩尾に短刀の柄頭を叩きこんだ。
うめき声をあげて崩れ落ちる。
「続いてアードルフ小隊長が脱落!!残るは二人!!」
さて、そろそろ『気配隠蔽』を解こう。
こんなに盛り上がっているんだから、一番最初から最後まで消えたままでは見ている方もつまらないだろうからな。
「おお!ここでオダ殿がスキルを解いて姿を現したぞ!今だやれ!!」
実況は中立じゃないのかよ。
まあ、審判が中立ならば問題ないか。
「あなたには何の恨みもないが、」
「その首頂く!!」
示し合わせたかのように連携してくる残り二人。
最後二人ならそうなるか。
「だが、悪いな」
危なげなく二人の攻撃をかわしたあと、一撃ずつうなじに入れてやると、映画の殺陣のようにすこし固まった後地面に倒れた。
あれって実際にできたんだな。
ずっとやらせだと思っていた。
「それまで!勝者、オダ殿!!」
アメリアの説教のおかげでステータスを見る癖がついたからか、戦いの組み立てが楽だ。
ただ、長時間見続けたり物などに視点が移ってしまうと、視界に入る情報量の多さのせいで頭痛がする。
使用時間は要注意だが、戦闘で使えることが分かればいいか。
気を失った二人がずるずると引きずられていき、それと入れ違いに上がってきた五人を見て俺はため息をついた。
見ると、わくわくと順番待ちをしている兵士が多数いる。
イグサム王に色々と聞きたいことがあったんだが、そもそも夕方までに片付くだろうか。
「アキラ、これ間に合うの?」
「……分からん」
あの後、挑んできた兵士は全員体に何らかの打撲痕を残して気を失った。
息を一つも乱すことなく全員を倒し切った俺をそのまま飲み会に誘ってくる地位の高い幹部連中を振り切ってアメリアと合流したのだ。
俺は未成年だと何回言っても、こっちには未成年なんて概念がないらしく、首を傾げられるだけだったので、種族的に酒はだめなのだと言って納得してもらった。
あれがなければもっと早く王城から出られたというのに。
ちなみに太陽はもう半分ほど沈んでいる。
そして船はスピードが遅い。
王族用を貸し出してもらって、悠々と水路のど真ん中を進んでいるが、間に合うだろうか。
「結局あんまりデートできなかったな」
今日はアメリアをとことん甘やかすと決めていたのに。
人がダメになりそうなソファに腰掛けてそういうと、アメリアは微笑んで首を振った。
「アキラが戦う姿、見るの久しぶりだった」
そうだったか?と首を傾げる。
確かにウルクに来る前はコンテストやらで、"夜刀神"を手入れする以外で抜くことがなかったな。
「私アキラが戦う姿好き。今日もカッコよかった」
俺は思わぬ不意打ちに口に手を当ててそっぽを向いた。
今、俺の顔を絶対にアメリアに見せるわけにはいかない。
鏡はないが、情けない顔をしていることは間違いないのだ。
「そうか。ならよかった」
俺の隣にアメリアが腰掛ける。
顔を見ていなくても、アメリアがどんな顔をしているのかが分かった。
とろけるような笑みを浮かべているに違いない。
「私、アキラについてきて良かった。エルフ族領だったらこんなにわくわくする毎日は送ってない。おいしいご飯も食べれてないし、なによりアキラがいる。だから、私にとっては毎日がご褒美。……ありがとう。私を外に連れ出してくれて」
そう改めて言われると恥ずかしい。
でも、真剣に返すべきだろうとアメリアに向き直った。
「俺は連れ出してない。俺についていきたいと願ったのも、それを選択したのもアメリアだ。アメリアは自分でやりたいことを決めたんだ。だから、礼を言うのは俺の方だろうな。家族と過ごすよりも俺をとってくれて、ありがとう」
アメリアは一瞬目を見開いて、そしてとろけるような笑みを浮かべた。
「すごい。アキラはいつも私が欲しい言葉をくれる」
「そりゃよかった。……さ、中央噴水につくぞ。降りる準備しないとな」
頷くアメリアの手を引いて船のデッキに上がった。
日本と同じように赤い色をして沈んでいく太陽を見た。
どうやら日が暮れる前には間に合いそうだな。
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