暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第107話 〜指に輪〜
俺は木の上からアメリアの前に着地した。
アメリアは怯えたように肩を震わせている。
「ア、アキラ……どこから聞いていたの?」
俺は首を傾げて首の後ろをかく。
「最初からというか、むしろ俺の方が先にここにいたから」
すると、アメリアは顔を青ざめさせた。
本当にたまたまだ。
クロウから、一番怖いことは手が届かないことだと聞いてから、一度静かなところで自分でよく考えたくて森に入った。
木に登ったのはそこが個人的に落ち着くからで、別に隠れようとしたわけではないし、アメリアがこの木の真下に来るまで気づかないくらい熟考していたから、わざとこの木に移ったわけではない。
と説明しても、アメリアの顔色は変わらないだろう。
元々白い肌が完全に血の気が失せていた。
俺は安心させるようにアメリアの頭の上に手をのせる。
「心配しなくても引いたりしないし、アメリアのことを忘れたりもしない」
確かに母さんや唯も大事だが、それと同じくらいアメリアも大事なのだから。
アメリアは目に涙を浮かべて、俺の着ている外套をぎゅっと握った。
そのまま俺を見上げて首を傾げる。
「本当?引かないし、忘れない?」
子犬のように可愛らしい仕草をするアメリアに悩殺されそうになりながら、俺は頷いた。
「ああ、約束する。……逆に俺の方が心配だ。見た感じ、俺とお前は釣り合っていないからな。顔だけで言ったら、癪だが勇者のほうが断然釣り合うだろう」
俺は短刀を取り出して、顔を顰めているアメリアの手に握らせた。
「私はあの人が好きじゃない。アキラのほうがカッコイイし、強い。……何してるの?」
その感想に、俺は苦笑した。
確かに勇者は弱いが、俺の方がカッコイイことはないだろう。
俺とアメリアの出会い的に、吊り橋効果というのも否定出来ないわけだし。
俺は右手で、短刀を握るアメリアの手を上から握って自分の左手に近づけた。
アメリアは怯えたように身を引く。
「こっちではどうか知らないが、日本では将来を誓い合った男女が左手の薬指に指輪をはめるという習慣がある。婚約指輪やら結婚指輪やら、詳しいことは俺も興味がなかったから知らないが、とりあえず左手の薬指に輪っかをはめるわけだ」
薬指の第三関節のあたりに刃を沈ませた。
痛みとともに暗闇でも分かるほど赤い血が手を伝い、腕を伝って地面に落ちる。
「な、何をして……」
表情を変えずにアメリアの手で自分の指に輪を刻み続ける俺に、アメリアは目を見開いた。
深く深く、跡が消えないように深く、なおかつ大切な筋などは切らないように。
「……ほら、指輪に見えなくもない」
月明かりに照らしてみれば、左手の薬指をぐるりと一周、赤い跡がついている。
「俺に跡、つけたかったんだろ?」
これで願いは達成されたわけだ。
アメリアの顔を見ると、じっと俺の指と短刀を見比べた。
「男女が、左手の薬指につける指輪……」
今度はアメリアが俺の手に短刀を握らせて、躊躇いなく自分の左手の白く細い指を傷つけた。
「……おそろい嬉しい」
同じように指に輪を刻んだアメリアは俺の隣で月明かりに手を照らす。
夜でテンションがハイになっているからか、初めてのおそろいが嬉しかったからか、普段の俺はアメリアが自分を傷つけるのは良しとしなかっただろう。
だが、今日は何故かとても心地良い。
『俺が一番怖いのは、この手が届かないことだ』
クロウの苦しげな声が頭に響く。
伸ばしてもこの手は届かないかもしれない。
魔族はそれだけ強く、もしあの時クロウが来てくれなかったらアメリアは攫われ、俺たちは死んでいたかもしれない。
それでも、この指さえあればいつでも繋がっていられる気がする。
「アメリア、お前が望むなら俺はこの体を砕こう。喜んで傷をつけよう。その代わり、して欲しいことや悩みがあればすぐに言え。俺に出来ることなら絶対に叶えてやる」
その場に跪き、左手の手の甲にキスを落とす。
少しキザ過ぎただろうかと顔を上げると、アメリアははっきり分かるほど頬を赤く染めて、俺の頬に手を当てた。
「なら、私も約束して。死なないで、忘れないで、離れないで、ずっと、私だけを見て」
俺は立ち上がり、アメリアを抱き寄せた。
自分より一回りは小さい体を抱きしめる。
「その願い、聞きどどけた。必ず叶えよう」
離れないは無理そうだが、それ以外は大丈夫そうだ。
俺は死ぬ気も忘れる気も他の女に目移りする気もないのだから。
俺の腕の中で、アメリアが幸せそうに笑う。
迷宮で俺を傷つけてから、どこか影のある表情をするようになったアメリアが、久しぶりに本当の笑みを浮かべた。
初対面の人に向けるような愛想笑いではなく、俺や夜にしか見せない笑顔。
俺は母さんや妹のためにも日本に帰りたい。
だけど、この瞬間だけはこの笑顔を離したくないと思ってしまった。
アメリアは怯えたように肩を震わせている。
「ア、アキラ……どこから聞いていたの?」
俺は首を傾げて首の後ろをかく。
「最初からというか、むしろ俺の方が先にここにいたから」
すると、アメリアは顔を青ざめさせた。
本当にたまたまだ。
クロウから、一番怖いことは手が届かないことだと聞いてから、一度静かなところで自分でよく考えたくて森に入った。
木に登ったのはそこが個人的に落ち着くからで、別に隠れようとしたわけではないし、アメリアがこの木の真下に来るまで気づかないくらい熟考していたから、わざとこの木に移ったわけではない。
と説明しても、アメリアの顔色は変わらないだろう。
元々白い肌が完全に血の気が失せていた。
俺は安心させるようにアメリアの頭の上に手をのせる。
「心配しなくても引いたりしないし、アメリアのことを忘れたりもしない」
確かに母さんや唯も大事だが、それと同じくらいアメリアも大事なのだから。
アメリアは目に涙を浮かべて、俺の着ている外套をぎゅっと握った。
そのまま俺を見上げて首を傾げる。
「本当?引かないし、忘れない?」
子犬のように可愛らしい仕草をするアメリアに悩殺されそうになりながら、俺は頷いた。
「ああ、約束する。……逆に俺の方が心配だ。見た感じ、俺とお前は釣り合っていないからな。顔だけで言ったら、癪だが勇者のほうが断然釣り合うだろう」
俺は短刀を取り出して、顔を顰めているアメリアの手に握らせた。
「私はあの人が好きじゃない。アキラのほうがカッコイイし、強い。……何してるの?」
その感想に、俺は苦笑した。
確かに勇者は弱いが、俺の方がカッコイイことはないだろう。
俺とアメリアの出会い的に、吊り橋効果というのも否定出来ないわけだし。
俺は右手で、短刀を握るアメリアの手を上から握って自分の左手に近づけた。
アメリアは怯えたように身を引く。
「こっちではどうか知らないが、日本では将来を誓い合った男女が左手の薬指に指輪をはめるという習慣がある。婚約指輪やら結婚指輪やら、詳しいことは俺も興味がなかったから知らないが、とりあえず左手の薬指に輪っかをはめるわけだ」
薬指の第三関節のあたりに刃を沈ませた。
痛みとともに暗闇でも分かるほど赤い血が手を伝い、腕を伝って地面に落ちる。
「な、何をして……」
表情を変えずにアメリアの手で自分の指に輪を刻み続ける俺に、アメリアは目を見開いた。
深く深く、跡が消えないように深く、なおかつ大切な筋などは切らないように。
「……ほら、指輪に見えなくもない」
月明かりに照らしてみれば、左手の薬指をぐるりと一周、赤い跡がついている。
「俺に跡、つけたかったんだろ?」
これで願いは達成されたわけだ。
アメリアの顔を見ると、じっと俺の指と短刀を見比べた。
「男女が、左手の薬指につける指輪……」
今度はアメリアが俺の手に短刀を握らせて、躊躇いなく自分の左手の白く細い指を傷つけた。
「……おそろい嬉しい」
同じように指に輪を刻んだアメリアは俺の隣で月明かりに手を照らす。
夜でテンションがハイになっているからか、初めてのおそろいが嬉しかったからか、普段の俺はアメリアが自分を傷つけるのは良しとしなかっただろう。
だが、今日は何故かとても心地良い。
『俺が一番怖いのは、この手が届かないことだ』
クロウの苦しげな声が頭に響く。
伸ばしてもこの手は届かないかもしれない。
魔族はそれだけ強く、もしあの時クロウが来てくれなかったらアメリアは攫われ、俺たちは死んでいたかもしれない。
それでも、この指さえあればいつでも繋がっていられる気がする。
「アメリア、お前が望むなら俺はこの体を砕こう。喜んで傷をつけよう。その代わり、して欲しいことや悩みがあればすぐに言え。俺に出来ることなら絶対に叶えてやる」
その場に跪き、左手の手の甲にキスを落とす。
少しキザ過ぎただろうかと顔を上げると、アメリアははっきり分かるほど頬を赤く染めて、俺の頬に手を当てた。
「なら、私も約束して。死なないで、忘れないで、離れないで、ずっと、私だけを見て」
俺は立ち上がり、アメリアを抱き寄せた。
自分より一回りは小さい体を抱きしめる。
「その願い、聞きどどけた。必ず叶えよう」
離れないは無理そうだが、それ以外は大丈夫そうだ。
俺は死ぬ気も忘れる気も他の女に目移りする気もないのだから。
俺の腕の中で、アメリアが幸せそうに笑う。
迷宮で俺を傷つけてから、どこか影のある表情をするようになったアメリアが、久しぶりに本当の笑みを浮かべた。
初対面の人に向けるような愛想笑いではなく、俺や夜にしか見せない笑顔。
俺は母さんや妹のためにも日本に帰りたい。
だけど、この瞬間だけはこの笑顔を離したくないと思ってしまった。
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コメント
ノベルバユーザー311478
これを読んでメンヘラとかヤンデレとか言ってるのは経験が知れるな。
由来のように本気の愛なら全くおかしくない。
ましてやこんな世界(命の危険が身近にある)で生きているなら至極当然だろう。
これを描ける作者(確かに時折間違いもあるが)の創造力はすごいと思う。
下らないチャチャを入れるガヤは放っておいて、楽しく読ませて頂いています。
これからも頑張って下さい!
ストレスマッハ
完全に共依存状態だし読んでて不安になる…。
現実だったら精神科直行コースですわ。
ノベルバユーザー30469
メンヘラヤンデレ、マジキョウフ
Kまる
メンヘラとかヤンデレとかめっちゃ嫌いですだって怖くね?
うぇーい乁( ˙ω˙ 乁)
むっちゃええ話しやん!!