男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
29話
恋愛コラムも収録した動画の配信も順調。反響は大きく、世界中の女性からコメントをもらっている。特にホラーゲームの実況動画は人気みたいだ。
女性たちの反応はシンプルで、コメントを見ると「かわいい!」といった書き込みが多い。僕が驚いている反応が、小動物のようで女性の本能をくすぐるらしいのだ。といっても母性ではなく、狩人としての本能だけど……。
とりあえず、動画投稿は上手くいっている。それもクラスメイトがハマるほどに。
「「何このかわいい男子。見てるだけで癒される〜」」
お昼休憩中の今、ハーレムに所属していないクラスメイトが集まって、携帯電話から動画を視聴している。そこから漏れて聞こえる音は聞きなれた……いや、現実逃避はやめよう。それは僕の声だった。
「みんなー元気にしてたー? ユッキーだよ♪」
普段よりやや高い声が、僕の耳まで届く。ボイスは少し加工しているので、僕だと気付いている人はいないようだ。
「みんな、視てくれてありがとう! 可愛いと言ってもらえて、すごく嬉しいよ!」
……誰だコイツ。
「今日もホラーゲームにチャレンジします! 今度こそ生き残ってみますね!」
…………ごめん。もう無理。助けてくれ!
「みんな応援してね!」
「「はーい!」」
…………逃げることも、文句を言うこともできず、頭を抱える。
こういう時、僕を心配して言葉をかけてくれる彩瀬さんが静かだ。隣の席を見ると、携帯電話で僕の動画を見ていた。
「隣に本物がいるのに、動画見ないでよ!」
思わず声が出てしまった! 慌てて周囲を見るが、心配する必要はなかったみたいだ。
「「また死んだ! かわいすぎでしょ!」」
僕より数倍大きいボリュームで、騒いでいる集団がいたからだ。
クラスメイトは舐めるような視線で、僕のアバターを見つめている。直接見られているわけじゃないのに、背筋が寒くなった。
「早く授業はじまらないかな……」
授業の鐘が鳴るまで、僕の精神はゴリゴリと削られていった。
◆◆◆
そんな拷問なような日々を数日過ごし、ライブ配信の当日が来た。僕は収録部屋となっている家の地下室で、モーションキャプチャーを身に着けている。
前方にはカメラが2台。全身を映すメインカメラと、斜め上から上半身を映すサブカメラだ。
近くにはパソコンがあって、飯島さんがディスプレイを監視している。僕の動きに連動した、アバターが表示されているはずだ。プロジェクターを通して、正面にある壁に僕の部屋を再現した空間が映し出され、アバターが立っていた。右手をあげればアバターの右手が上がる。驚いた顔をすればアバターも驚く。うん。準備は整っている。問題なさそうだ。
ライブ配信開始まで、あと20分。緊張してきた。
「ユキちゃん。準備は終わった?」
予想していなかった音にビクっと体が反応してしまった。声がした方に顔を向けると、母さん、絵美さんが階段から降りてきた。後ろには楓さん、彩瀬さんもいる。どうやらみんな、僕の事を心配して、ここまで来てくれたみたいだ。
「大丈夫だよ。リハーサルもしっかりやったし、機材に問題はないよ」
「なら良いのだけど」
「心配なら母さんたちも見学する?」
「……そうしましょうか」
「イス持ってきます!」
会話を聞いていた、彩瀬さんが階段を全速力で駆け上がる。母さんへのポイントを稼ごうとしているみたい。そんな分かりやすい行動をしても悪く思えないのが、彼女のすごいところなのだろう。皆が笑顔になっていた。僕も、配信前の緊張感がほぐれた気がする。
彩瀬が持ってきたイスに全員が座った。皆と少しだけ話してから、僕はカメラの前に立つ。
ライブ配信開始まで、あと5分。
もうすぐ人生初のライブ配信が始まる。
テレビには稀に男性が出演するけど、全て収録した映像だ。ライブに限定すれば、世界初かもしれない。
前世の感覚からすると、テレビに出て有名になりたいと思う男性いても不思議ではない。でもこの世界では、そんな存在は稀だ。周囲の女性が反対するからね。
それに男性だって、生まれた時から愛され、生きているだけでで自尊心が満たされる。お金の心配もない。そんな環境なら働く気は起きないでしょ。前世の記憶を持っている僕には、理解できない感覚だけどね。
「ユキトさん。1分前です!」
楓さんの声が聞こえて、無意味な思考を中断した。本番だ、気持ちを切り替えるぞ!
僕の方に向けられた手に入れは、5本の指が立っている。1秒経過すると、4本、3本と、立っている指が減っていく。2本、1本……ついにライブ配信が始まった。
「みんな元気にしてたー? ユッキーだよ♪」
緊張のせいで、ちょっと高めな声が出てしまった。
「ユキ村に住む、みなさんに会えて嬉しいよ!」
少し前に絵美さんから「ファンを特別な存在として扱った方がいい」と、アドバイスをされた。その結果、僕を村長、ファンを村人という設定で接することになったんだ。
壁に映し出されたコメントを見る限り、この試みは成功したみたい。僕を村長として崇めるようなコメントが流れている。
……ん? ちょっとコメントの流れが早すぎない? 同時視聴者数50万突破!?
あ、映像が止まった。
数秒後には「準備中です」の画像が表示される。
「回線の問題で映像が落ちたと思います。これから背景を無くして、アバターの容量を落としてから再開します!。ユキトさん、その間、トークでしのいでもらえませんか?」
飯島さんがマウスとキーボードを、忙しなく動かしている。僕は無言で頷くと、メインカメラの方を向いて話しかける。
「ごめんなさい! 機材のトラブルで映像が止まってしまいました!」
まずは、集まってくれたファン――住人のために謝罪をした。するとコメント欄に、励ましの言葉が書き込まれ、止まることなく流れていく。
「みんな、温かいコメントありがとう! もう少し時間がかかるみたいだから、僕の話をしようかな。実は僕、本を読むのが好きなんだけど……」
僕は芸人ではない。とっさに面白い話などできないのだ。必死に頭を動かし、身近な話題を選んだ。どうってことのない、友達同士で話すような内容だ。それでも住民のみんなは喜んで聞いてくれて、コメント欄に感想を書き込んでくれる。
「すごい……ユキトが紹介した本が、売り切れています」
楓さんが唖然とした表情でつぶやく。どうやら住民のみんなが買い占めたみたいだ。僕の軽はずみな一言で売り切れてしまうなんて、ちょっとした恐怖を覚える。何かを紹介するのは、やめた方が良いかもしれない。
「映像を再開します」
飯島さんが言い終わった数秒後に、動画サイトに僕のアバターが表示された。
「住民のみんなー。お待たせー!」
画面の向こうにいるはずの女性に向かって手を振る。コメント欄がすごい勢いで流れて読めないけど、多分、喜んでくれているんだろう。
「部屋を急いでリフォームしたら見れるようになったよ!」
背景が真っ白くなった理由を「リフォーム」ってことにしてみた。すると新しいコメントが続々と書き込まれ、古いコメントは消えてゆく。さらに英語に始まり様々な言語で書き込まれている。
多言語が高速で流れ、どう反応してくれたのかわからない。きっと僕だけではなく、誰もわかってないのだろう。バーチャル空間なのに彼女たちの熱い気持ちが伝わってくる。目の前にいると、錯覚するほどだ。
みんなと会話しながら進めたかったけど、これじゃ無理だね。仕方がない……か。コメントを読み上げるのは諦めて、そろそろ番組のコーナーを始めようかな。
女性たちの反応はシンプルで、コメントを見ると「かわいい!」といった書き込みが多い。僕が驚いている反応が、小動物のようで女性の本能をくすぐるらしいのだ。といっても母性ではなく、狩人としての本能だけど……。
とりあえず、動画投稿は上手くいっている。それもクラスメイトがハマるほどに。
「「何このかわいい男子。見てるだけで癒される〜」」
お昼休憩中の今、ハーレムに所属していないクラスメイトが集まって、携帯電話から動画を視聴している。そこから漏れて聞こえる音は聞きなれた……いや、現実逃避はやめよう。それは僕の声だった。
「みんなー元気にしてたー? ユッキーだよ♪」
普段よりやや高い声が、僕の耳まで届く。ボイスは少し加工しているので、僕だと気付いている人はいないようだ。
「みんな、視てくれてありがとう! 可愛いと言ってもらえて、すごく嬉しいよ!」
……誰だコイツ。
「今日もホラーゲームにチャレンジします! 今度こそ生き残ってみますね!」
…………ごめん。もう無理。助けてくれ!
「みんな応援してね!」
「「はーい!」」
…………逃げることも、文句を言うこともできず、頭を抱える。
こういう時、僕を心配して言葉をかけてくれる彩瀬さんが静かだ。隣の席を見ると、携帯電話で僕の動画を見ていた。
「隣に本物がいるのに、動画見ないでよ!」
思わず声が出てしまった! 慌てて周囲を見るが、心配する必要はなかったみたいだ。
「「また死んだ! かわいすぎでしょ!」」
僕より数倍大きいボリュームで、騒いでいる集団がいたからだ。
クラスメイトは舐めるような視線で、僕のアバターを見つめている。直接見られているわけじゃないのに、背筋が寒くなった。
「早く授業はじまらないかな……」
授業の鐘が鳴るまで、僕の精神はゴリゴリと削られていった。
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そんな拷問なような日々を数日過ごし、ライブ配信の当日が来た。僕は収録部屋となっている家の地下室で、モーションキャプチャーを身に着けている。
前方にはカメラが2台。全身を映すメインカメラと、斜め上から上半身を映すサブカメラだ。
近くにはパソコンがあって、飯島さんがディスプレイを監視している。僕の動きに連動した、アバターが表示されているはずだ。プロジェクターを通して、正面にある壁に僕の部屋を再現した空間が映し出され、アバターが立っていた。右手をあげればアバターの右手が上がる。驚いた顔をすればアバターも驚く。うん。準備は整っている。問題なさそうだ。
ライブ配信開始まで、あと20分。緊張してきた。
「ユキちゃん。準備は終わった?」
予想していなかった音にビクっと体が反応してしまった。声がした方に顔を向けると、母さん、絵美さんが階段から降りてきた。後ろには楓さん、彩瀬さんもいる。どうやらみんな、僕の事を心配して、ここまで来てくれたみたいだ。
「大丈夫だよ。リハーサルもしっかりやったし、機材に問題はないよ」
「なら良いのだけど」
「心配なら母さんたちも見学する?」
「……そうしましょうか」
「イス持ってきます!」
会話を聞いていた、彩瀬さんが階段を全速力で駆け上がる。母さんへのポイントを稼ごうとしているみたい。そんな分かりやすい行動をしても悪く思えないのが、彼女のすごいところなのだろう。皆が笑顔になっていた。僕も、配信前の緊張感がほぐれた気がする。
彩瀬が持ってきたイスに全員が座った。皆と少しだけ話してから、僕はカメラの前に立つ。
ライブ配信開始まで、あと5分。
もうすぐ人生初のライブ配信が始まる。
テレビには稀に男性が出演するけど、全て収録した映像だ。ライブに限定すれば、世界初かもしれない。
前世の感覚からすると、テレビに出て有名になりたいと思う男性いても不思議ではない。でもこの世界では、そんな存在は稀だ。周囲の女性が反対するからね。
それに男性だって、生まれた時から愛され、生きているだけでで自尊心が満たされる。お金の心配もない。そんな環境なら働く気は起きないでしょ。前世の記憶を持っている僕には、理解できない感覚だけどね。
「ユキトさん。1分前です!」
楓さんの声が聞こえて、無意味な思考を中断した。本番だ、気持ちを切り替えるぞ!
僕の方に向けられた手に入れは、5本の指が立っている。1秒経過すると、4本、3本と、立っている指が減っていく。2本、1本……ついにライブ配信が始まった。
「みんな元気にしてたー? ユッキーだよ♪」
緊張のせいで、ちょっと高めな声が出てしまった。
「ユキ村に住む、みなさんに会えて嬉しいよ!」
少し前に絵美さんから「ファンを特別な存在として扱った方がいい」と、アドバイスをされた。その結果、僕を村長、ファンを村人という設定で接することになったんだ。
壁に映し出されたコメントを見る限り、この試みは成功したみたい。僕を村長として崇めるようなコメントが流れている。
……ん? ちょっとコメントの流れが早すぎない? 同時視聴者数50万突破!?
あ、映像が止まった。
数秒後には「準備中です」の画像が表示される。
「回線の問題で映像が落ちたと思います。これから背景を無くして、アバターの容量を落としてから再開します!。ユキトさん、その間、トークでしのいでもらえませんか?」
飯島さんがマウスとキーボードを、忙しなく動かしている。僕は無言で頷くと、メインカメラの方を向いて話しかける。
「ごめんなさい! 機材のトラブルで映像が止まってしまいました!」
まずは、集まってくれたファン――住人のために謝罪をした。するとコメント欄に、励ましの言葉が書き込まれ、止まることなく流れていく。
「みんな、温かいコメントありがとう! もう少し時間がかかるみたいだから、僕の話をしようかな。実は僕、本を読むのが好きなんだけど……」
僕は芸人ではない。とっさに面白い話などできないのだ。必死に頭を動かし、身近な話題を選んだ。どうってことのない、友達同士で話すような内容だ。それでも住民のみんなは喜んで聞いてくれて、コメント欄に感想を書き込んでくれる。
「すごい……ユキトが紹介した本が、売り切れています」
楓さんが唖然とした表情でつぶやく。どうやら住民のみんなが買い占めたみたいだ。僕の軽はずみな一言で売り切れてしまうなんて、ちょっとした恐怖を覚える。何かを紹介するのは、やめた方が良いかもしれない。
「映像を再開します」
飯島さんが言い終わった数秒後に、動画サイトに僕のアバターが表示された。
「住民のみんなー。お待たせー!」
画面の向こうにいるはずの女性に向かって手を振る。コメント欄がすごい勢いで流れて読めないけど、多分、喜んでくれているんだろう。
「部屋を急いでリフォームしたら見れるようになったよ!」
背景が真っ白くなった理由を「リフォーム」ってことにしてみた。すると新しいコメントが続々と書き込まれ、古いコメントは消えてゆく。さらに英語に始まり様々な言語で書き込まれている。
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