男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
25話
男性と女性。
社会的に優遇されているのは間違いなく男性だ。
例えば、ごく一部の例外を除いて、男性はどんな犯罪を犯しても死刑はありえない。さらに男性用の刑務所もない。仮に人を殺したとしても、人里離れた山奥に軟禁されて女性を囲って余生を過ごすぐらいだ。
他にも、僕が渋谷で女性に襲われたとき、懇願書を書いて不起訴にしてもらうように、男性の主張は意見を受け入れてもらいやすい。
前世の男性からすると「それ罰になるの?」と思うほど、男性は守られている。
それが正しいかどうか僕にはわからないけど、現実はそうなっている。
でもそれが、男性と男性が争い合う場合はどうなるか?
男性の数が少ないうえに男性同士がお互いに距離を取り、関わらないようにしているため、滅多に発生しない、でも、ゼロというわけではない。
稀にだけど発生する、社会的に優遇されている男性同士のトラブルを解決するのは非常に面倒であり、下手をすれば女性を巻き込んで大きな争いにまで発展する場合がある。
実際、過去に男性同士のトラブルが原因で、男性のハーレムやその家族などが争いに参加。さらにお金や男性と結婚できる権利などで煽り、関係ない女性も参加する事態になり、その結果、最終的には内紛にまで発展したこともある。
その事件で人類(女性)は自分たちの本能のおぞましさ、男性を適切に管理する必要性に気づき、表向きには社会的に優遇する目的で男性ランク制度が出来上がった。
でも実際は、効率良く男性を管理するのと同時に、男性に優劣をつけて男性同士が争った場合の判断材料に使われている。
「最後は僕の憶測も入っているけど、これがランク制度ができた経緯だよ」
「そんな歴史がったんですね。数字が少ない方が良いぐらいしか知りませんでした」
リビングで僕の話を聞いていた楓さんが深く頷く。一緒にいる母さん、絵美さん、彩瀬さん、さおりさんも僕の話を聞いてくれている。
「それで今回の件だと、男性同士の争いに該当しそうなんだ」
さおりさんのお母さんと晩御飯を食べた翌日、お見合い業者経由で相手の男性に連絡を取ったところまでは良かったけど、「後から出てきて女性を奪い取る性格が気に入らない」といった否定的な回答が返ってきた。
それを言われてしまったら僕の方からは何も言い返せない。なんせ事実だから。とはいえそれは心情面であり、さおりさんは正式にハーレムに入ったわけでもないので、法的には問題がない。そうやって突っ返すこともできる。
でも、この世界における男性同士の争いはご法度だ。特に今回は別の国の人と争う可能性が高い。ここは相手の感情を逆なでしないように、僕たちは和解の条件を聞き出す方向で進めようとしていた。
お見合い業者も同じ考えで動いていて、争いに発展しないように男性トラブル専門の弁護士をすぐに紹介してくれ、和解のために積極的に動いてくれる。
「男性のランクが4つ以上離れていた場合は、法律に反しない限り問答無用でランクの高い人の意見が通るんだけど、僕はランク3で相手は6だったから、和解交渉が必要なんだ。それで出してもらった条件なんだけど三千万用意しろだって」
「ブフッ! ……金額が三千万って多すぎない!?」
彩瀬さんが、法外な金額に驚いて口に含んでいたお茶をこぼしそうになっていた。
ハンカチを取り出して慌てて服を拭いているけど、そんな姿を横目に僕は話を続けた。
「多いと思うけど、揉め事を避けるのであれば仕方がないよ。一応、分割支払いには対応してくれるみたい」
「分割支払いするにも大きな金額です。私も協力しますが、返し終わるのに数年は必要ですね……」
楓さんはお金の面でも協力してくれると宣言してくれた。脳内では返済プランを組み立てているのかもしれない。でも、女性に頼るなんて男が廃る……いや、この世界だと甘えたほうがいいのかな?
そんな風に悩んでいると、ずっと黙って話を聞いていた母さんがゆっくりと話し出した。
「男性のワガママを聞くのは女性の甲斐性。三千万を支払って、さっさとこの問題を終わらせましょ。幸いユキちゃんの補助金には一切手をつけていないから、それを使えば問題ないわ」
「これ以上、ご迷惑をおかけするのは……」
僕たちが和解金を支払う流れになったのに驚いたようで、さおりさんは申し訳なさそうな表情をしながら言った。
「気にしないでいいわ。女性の問題を金で解決させようとする男性なんてろくな人間じゃないわ。後腐れなく縁を切りましょう。その代わり、ユキちゃんのことしっかり面倒を見るのよ?」
「……それでいいのでしょうか……」
三千万という大金とその代償が釣り合っていないと感じて、さらに萎縮してしまっている。確かに僕が同じ立場だとしたら同じような態度になるだろう。
「いつも調子がときが続くとは限らないわ。自分が辛い時でも、年老いてしまっても、ユキちゃんとずっと一緒にいるのよ? それに今みたいにワガママな面もあるし大丈夫かしら?」
一時的な関係ではなく、これからの人生を僕と一緒に過ごす。それは非常に大変なことだし、さらに養い続けるのであれば働き続けなければならない。きっと養ったお金は和解金を上回る額になるだろう。
そう考えるのであれば、三千万はローンを組んでいると言える……かな?
「はい!」
なんだか騙された気もするけど、母さんの話を聞いて決意を固めたのだろう、控えめな彼女にしては驚くほどはっきりと答えた。
「さおりさんはそれでいいかもしれないけど、僕のワガママで家のお金を使うのは気がひけるよ……」
ワガママを言っている自覚はあるし、それで家のお金を使うのも違う気がする。やはり、自分で蒔いた種は自分で刈り取るべきだ。それが、この世界の常識と照らし合わせると一般的ではない考えだとしてもそれは譲れない。
「ユキちゃんがいるから手に入ったお金よ? 気にする必要ないわ」
「そうだとしても気にするよ。自分で稼いだお金じゃないし……」
現実的に考えて、僕には支払い能力はない。だから和解金を一時的に出してもらう必要はある。でも、そのあとアルバイト……はできないけど、インターネットを使ってお金を稼いで、母さんに支払うことは可能かもしれない。
そう考えて口を開きかけた瞬間に、母さんから意外な提案が出た。
「そうねぇ……それなら自分でお金を稼いでみる?」
「え? いいの?」
母さんから働いて稼ぐことを提案されるとは思わず、驚いてしまった。
「この前会ったミカさんに、ユキちゃんと一緒に働けないか相談されていたから、モデルっぽいお仕事でよければ紹介できるわ。」
「っぽい?」
モデルだけではないということかな?
「いくら私のユキちゃんだとしても、いきなり雑誌モデルややテレビのタレントになるのは難しいわ。まずは、ネット上で有名になりましょ」
「え? 有名?」
母さんの頭の中では、計画が出来上がっているようだけど、頭の中身が覗けない僕では話がつながらず、会話に追いついていけない。
「景子姉さんは、将来的には有名な芸能タレントになって欲しいと考えている。その第一歩としてネットアイドルになることを提案しているよ」
そんな僕を見かねて、絵美さんがフォローをしてくれた。
「有名になるかどうか後で考えるとしても、男性はネットで情報を発信することができないよね?」
男性のインターネット利用は制限されている。
特に、ネットストーキングの危険があるからといって、SNSやblogといった情報を発信するWEBサービスは、見ることはできるけど投稿はできない。例外があるとすれば、取材されてメディアに掲載されるといった企業を挟んで公開した場合だろう。
そんな状況なのに、ネットアイドルになることはできるのだろうか?
「ユキちゃんは少し勘違いしているわね。正確には政府の検閲さえ通ればSNSやblogに投稿できるわよ。申請や検閲の体制構築といった面倒な作業があるけど、そこは全部ミカさんにお願いしちゃえば問題にならないわ」
唇の片方をだけを上げて、フフフと口に出して笑っている。
今までに見たことがない悪いことを企んでいそうな笑顔だった。
「それで、ユキちゃんはどうする?」
男性が働ける機会は数少ない。ネットストーキングのリスクがあったとしても、このチャンスを逃したら死ぬまで働くことができないかもしれない。
それに、男性を求める女性は多く、そのはけ口としてネットアイドルとして活動するのは悪くない。前世の男子高校生がグラビアアイドルを見るのと同じ感覚で、利用してもらえるかもしれない……いや、それ以上かもしれないな……。
確かに僕自身が女性に色々な意味で使われるのは少し怖いけど、僕がこの前決意した「男性を求める欲望。男性欲に振り回されて不幸になる女性を助ける」ことにもつながると思う。
どうせ普通の仕事につくことはできないんだし、ここは受けるしかないだろう。そう考えて、母さんが提案した仕事を引き受ける決意をした。
「やる!」
「それでこそ私のユキちゃん。決まったことを、さおりさんのお母さんとミカさんに連絡しなきゃね」
その日のうちにミカさんに連絡をすると、こっちが引くぐらいの勢いで提案を受け入れてくれ、翌日、我が家で条件面のすり合わせをする打ち合わせをすることになった。
◆◆◆
「今日は貴重なお話しをいただきありがとうございます」
本日は日曜日。休日にもかかわらず、ミカさんは家に来てくれた。この前会った時と変わらず、軽いウェーブのかかったセミロングの髪がとてもよく似合っている。
挨拶が終わると、母さんと僕とミカさんがリビングのソファーに座り話し合いが始まった。
「早速ですが、《ユキトくんネットアイドル化計画》の企画書をお持ちしました」
いきなり予想外の単語が飛び出してきたので、顔が引きつる。
昨日、用件を伝えたばかりなのに計画書ができていることに驚いてしまった。数枚にまとめられた紙をめくり内容を確かめていく。計画書の名前は恥ずかしいけど、内容は現実的だった。
「まず手始めとして私が編集長を務めているメディアにコラムを連載してもらいます。内容は恋愛相談がいいと思いますが、それはユキトくんのご意向を聞きながら決めいければと思っています」
恋愛相談か……どこまでできるか分からないけど、あくまで一個人の意見として書くのであれば問題ないかな……?
「コラムで人気が出てきたら、公式SNSで定期的に投稿してファンに情報を提供します。《今日は朝からコーヒーを飲みました》といった当たり障りのない投稿であれば検閲もクリアできると思います。私どもが開発した専用のアプリを使えば、画像のExifは自動的に削除されるので、検閲と合わせて考えるとプライベートの情報が漏洩する可能性は低いと思われます」
スマートフォンやデジタルカメラで撮影した写真には、撮影した場所や時間などの情報が埋め込まれている。それを一般的にはExifと呼んでいるんだけど、この情報をもとに住所を特定するネットストーカーもいるため、ネットに情報を公開するのであれば気をつけなければいけないポイントだ。
「具体的にはどうやって検閲するのかしら?」
「ユキトくんが投稿すると、公開前に我々に情報がとどきます。それを私が、個人が特定できそうな情報がないか確認します。問題があればユキトくんに連絡をして内容を調整してもらう予定です。それのやりとり終われば、政府の検閲チームに情報を渡し公開する流れです。私が所属している会社は政府の検閲チームと繋がりがあり、軽く打診したところ前向きな回答をいただいているので、この流れで問題なく体制が組めるかと思います」
昨日の今日で政府の人と話がついているとは思わなかった。やっぱりこの手の依頼は専門の人に任せるのが最適なのだろう。
コラムとSNSの投稿と検閲は、これで問題なさそうだ。
「細かいところは調整したいけど、大筋の流れは問題なさそうね」
「ありがとうございます。話を戻しますが、SNSを使ってファンを拡大したら最後は動画サイトで、動画を配信してもらう予定です。もちろん録画放送になります。《ユキトくんの手作り料理講座》や《読者の質問に答えるコーナー》といったものが良いかと思いますが、まだ最終的には決まっていません」
動画を配信してようやくネットアイドルになれるわけか。
「お金、マネタイズはどうするの?」
母さんがお金の話をするということは、企画には納得したのだろう。
「将来的には課金システムなども考えられますが、最初は広告でお金を稼ごうと考えています。ユキトくんにお支払いする金額は広告で稼いだお金から、4割をお渡しする形を考えています」
「検閲の人件費、サーバー費などを考えれば悪くはないわ。ユキちゃん良い?」
「うん。企画の内容もお金も大丈夫。頑張れば頑張った分お金が入るしね」
そういってグッと手を握る。
アクセスが集まればお金が稼げるのであれば、頑張るしかない。学業と並行するのは大変かもしれないけど、自分が決めたことだ。どんな結果になるかわからないけど、最後までやり通そう。
「そうですね。毎日は難しいと思いますが、更新頻度が高ければアクセスは稼ぎやすいかと思います。特に、同じようなことをしている男性はいないので今が狙い目かと」
「それじゃ後は細かいところをすり合わせて、契約をまとめましょうか」
そしてついに、ネットアイドルに向けての第一歩を踏み出すことが決まった。
社会的に優遇されているのは間違いなく男性だ。
例えば、ごく一部の例外を除いて、男性はどんな犯罪を犯しても死刑はありえない。さらに男性用の刑務所もない。仮に人を殺したとしても、人里離れた山奥に軟禁されて女性を囲って余生を過ごすぐらいだ。
他にも、僕が渋谷で女性に襲われたとき、懇願書を書いて不起訴にしてもらうように、男性の主張は意見を受け入れてもらいやすい。
前世の男性からすると「それ罰になるの?」と思うほど、男性は守られている。
それが正しいかどうか僕にはわからないけど、現実はそうなっている。
でもそれが、男性と男性が争い合う場合はどうなるか?
男性の数が少ないうえに男性同士がお互いに距離を取り、関わらないようにしているため、滅多に発生しない、でも、ゼロというわけではない。
稀にだけど発生する、社会的に優遇されている男性同士のトラブルを解決するのは非常に面倒であり、下手をすれば女性を巻き込んで大きな争いにまで発展する場合がある。
実際、過去に男性同士のトラブルが原因で、男性のハーレムやその家族などが争いに参加。さらにお金や男性と結婚できる権利などで煽り、関係ない女性も参加する事態になり、その結果、最終的には内紛にまで発展したこともある。
その事件で人類(女性)は自分たちの本能のおぞましさ、男性を適切に管理する必要性に気づき、表向きには社会的に優遇する目的で男性ランク制度が出来上がった。
でも実際は、効率良く男性を管理するのと同時に、男性に優劣をつけて男性同士が争った場合の判断材料に使われている。
「最後は僕の憶測も入っているけど、これがランク制度ができた経緯だよ」
「そんな歴史がったんですね。数字が少ない方が良いぐらいしか知りませんでした」
リビングで僕の話を聞いていた楓さんが深く頷く。一緒にいる母さん、絵美さん、彩瀬さん、さおりさんも僕の話を聞いてくれている。
「それで今回の件だと、男性同士の争いに該当しそうなんだ」
さおりさんのお母さんと晩御飯を食べた翌日、お見合い業者経由で相手の男性に連絡を取ったところまでは良かったけど、「後から出てきて女性を奪い取る性格が気に入らない」といった否定的な回答が返ってきた。
それを言われてしまったら僕の方からは何も言い返せない。なんせ事実だから。とはいえそれは心情面であり、さおりさんは正式にハーレムに入ったわけでもないので、法的には問題がない。そうやって突っ返すこともできる。
でも、この世界における男性同士の争いはご法度だ。特に今回は別の国の人と争う可能性が高い。ここは相手の感情を逆なでしないように、僕たちは和解の条件を聞き出す方向で進めようとしていた。
お見合い業者も同じ考えで動いていて、争いに発展しないように男性トラブル専門の弁護士をすぐに紹介してくれ、和解のために積極的に動いてくれる。
「男性のランクが4つ以上離れていた場合は、法律に反しない限り問答無用でランクの高い人の意見が通るんだけど、僕はランク3で相手は6だったから、和解交渉が必要なんだ。それで出してもらった条件なんだけど三千万用意しろだって」
「ブフッ! ……金額が三千万って多すぎない!?」
彩瀬さんが、法外な金額に驚いて口に含んでいたお茶をこぼしそうになっていた。
ハンカチを取り出して慌てて服を拭いているけど、そんな姿を横目に僕は話を続けた。
「多いと思うけど、揉め事を避けるのであれば仕方がないよ。一応、分割支払いには対応してくれるみたい」
「分割支払いするにも大きな金額です。私も協力しますが、返し終わるのに数年は必要ですね……」
楓さんはお金の面でも協力してくれると宣言してくれた。脳内では返済プランを組み立てているのかもしれない。でも、女性に頼るなんて男が廃る……いや、この世界だと甘えたほうがいいのかな?
そんな風に悩んでいると、ずっと黙って話を聞いていた母さんがゆっくりと話し出した。
「男性のワガママを聞くのは女性の甲斐性。三千万を支払って、さっさとこの問題を終わらせましょ。幸いユキちゃんの補助金には一切手をつけていないから、それを使えば問題ないわ」
「これ以上、ご迷惑をおかけするのは……」
僕たちが和解金を支払う流れになったのに驚いたようで、さおりさんは申し訳なさそうな表情をしながら言った。
「気にしないでいいわ。女性の問題を金で解決させようとする男性なんてろくな人間じゃないわ。後腐れなく縁を切りましょう。その代わり、ユキちゃんのことしっかり面倒を見るのよ?」
「……それでいいのでしょうか……」
三千万という大金とその代償が釣り合っていないと感じて、さらに萎縮してしまっている。確かに僕が同じ立場だとしたら同じような態度になるだろう。
「いつも調子がときが続くとは限らないわ。自分が辛い時でも、年老いてしまっても、ユキちゃんとずっと一緒にいるのよ? それに今みたいにワガママな面もあるし大丈夫かしら?」
一時的な関係ではなく、これからの人生を僕と一緒に過ごす。それは非常に大変なことだし、さらに養い続けるのであれば働き続けなければならない。きっと養ったお金は和解金を上回る額になるだろう。
そう考えるのであれば、三千万はローンを組んでいると言える……かな?
「はい!」
なんだか騙された気もするけど、母さんの話を聞いて決意を固めたのだろう、控えめな彼女にしては驚くほどはっきりと答えた。
「さおりさんはそれでいいかもしれないけど、僕のワガママで家のお金を使うのは気がひけるよ……」
ワガママを言っている自覚はあるし、それで家のお金を使うのも違う気がする。やはり、自分で蒔いた種は自分で刈り取るべきだ。それが、この世界の常識と照らし合わせると一般的ではない考えだとしてもそれは譲れない。
「ユキちゃんがいるから手に入ったお金よ? 気にする必要ないわ」
「そうだとしても気にするよ。自分で稼いだお金じゃないし……」
現実的に考えて、僕には支払い能力はない。だから和解金を一時的に出してもらう必要はある。でも、そのあとアルバイト……はできないけど、インターネットを使ってお金を稼いで、母さんに支払うことは可能かもしれない。
そう考えて口を開きかけた瞬間に、母さんから意外な提案が出た。
「そうねぇ……それなら自分でお金を稼いでみる?」
「え? いいの?」
母さんから働いて稼ぐことを提案されるとは思わず、驚いてしまった。
「この前会ったミカさんに、ユキちゃんと一緒に働けないか相談されていたから、モデルっぽいお仕事でよければ紹介できるわ。」
「っぽい?」
モデルだけではないということかな?
「いくら私のユキちゃんだとしても、いきなり雑誌モデルややテレビのタレントになるのは難しいわ。まずは、ネット上で有名になりましょ」
「え? 有名?」
母さんの頭の中では、計画が出来上がっているようだけど、頭の中身が覗けない僕では話がつながらず、会話に追いついていけない。
「景子姉さんは、将来的には有名な芸能タレントになって欲しいと考えている。その第一歩としてネットアイドルになることを提案しているよ」
そんな僕を見かねて、絵美さんがフォローをしてくれた。
「有名になるかどうか後で考えるとしても、男性はネットで情報を発信することができないよね?」
男性のインターネット利用は制限されている。
特に、ネットストーキングの危険があるからといって、SNSやblogといった情報を発信するWEBサービスは、見ることはできるけど投稿はできない。例外があるとすれば、取材されてメディアに掲載されるといった企業を挟んで公開した場合だろう。
そんな状況なのに、ネットアイドルになることはできるのだろうか?
「ユキちゃんは少し勘違いしているわね。正確には政府の検閲さえ通ればSNSやblogに投稿できるわよ。申請や検閲の体制構築といった面倒な作業があるけど、そこは全部ミカさんにお願いしちゃえば問題にならないわ」
唇の片方をだけを上げて、フフフと口に出して笑っている。
今までに見たことがない悪いことを企んでいそうな笑顔だった。
「それで、ユキちゃんはどうする?」
男性が働ける機会は数少ない。ネットストーキングのリスクがあったとしても、このチャンスを逃したら死ぬまで働くことができないかもしれない。
それに、男性を求める女性は多く、そのはけ口としてネットアイドルとして活動するのは悪くない。前世の男子高校生がグラビアアイドルを見るのと同じ感覚で、利用してもらえるかもしれない……いや、それ以上かもしれないな……。
確かに僕自身が女性に色々な意味で使われるのは少し怖いけど、僕がこの前決意した「男性を求める欲望。男性欲に振り回されて不幸になる女性を助ける」ことにもつながると思う。
どうせ普通の仕事につくことはできないんだし、ここは受けるしかないだろう。そう考えて、母さんが提案した仕事を引き受ける決意をした。
「やる!」
「それでこそ私のユキちゃん。決まったことを、さおりさんのお母さんとミカさんに連絡しなきゃね」
その日のうちにミカさんに連絡をすると、こっちが引くぐらいの勢いで提案を受け入れてくれ、翌日、我が家で条件面のすり合わせをする打ち合わせをすることになった。
◆◆◆
「今日は貴重なお話しをいただきありがとうございます」
本日は日曜日。休日にもかかわらず、ミカさんは家に来てくれた。この前会った時と変わらず、軽いウェーブのかかったセミロングの髪がとてもよく似合っている。
挨拶が終わると、母さんと僕とミカさんがリビングのソファーに座り話し合いが始まった。
「早速ですが、《ユキトくんネットアイドル化計画》の企画書をお持ちしました」
いきなり予想外の単語が飛び出してきたので、顔が引きつる。
昨日、用件を伝えたばかりなのに計画書ができていることに驚いてしまった。数枚にまとめられた紙をめくり内容を確かめていく。計画書の名前は恥ずかしいけど、内容は現実的だった。
「まず手始めとして私が編集長を務めているメディアにコラムを連載してもらいます。内容は恋愛相談がいいと思いますが、それはユキトくんのご意向を聞きながら決めいければと思っています」
恋愛相談か……どこまでできるか分からないけど、あくまで一個人の意見として書くのであれば問題ないかな……?
「コラムで人気が出てきたら、公式SNSで定期的に投稿してファンに情報を提供します。《今日は朝からコーヒーを飲みました》といった当たり障りのない投稿であれば検閲もクリアできると思います。私どもが開発した専用のアプリを使えば、画像のExifは自動的に削除されるので、検閲と合わせて考えるとプライベートの情報が漏洩する可能性は低いと思われます」
スマートフォンやデジタルカメラで撮影した写真には、撮影した場所や時間などの情報が埋め込まれている。それを一般的にはExifと呼んでいるんだけど、この情報をもとに住所を特定するネットストーカーもいるため、ネットに情報を公開するのであれば気をつけなければいけないポイントだ。
「具体的にはどうやって検閲するのかしら?」
「ユキトくんが投稿すると、公開前に我々に情報がとどきます。それを私が、個人が特定できそうな情報がないか確認します。問題があればユキトくんに連絡をして内容を調整してもらう予定です。それのやりとり終われば、政府の検閲チームに情報を渡し公開する流れです。私が所属している会社は政府の検閲チームと繋がりがあり、軽く打診したところ前向きな回答をいただいているので、この流れで問題なく体制が組めるかと思います」
昨日の今日で政府の人と話がついているとは思わなかった。やっぱりこの手の依頼は専門の人に任せるのが最適なのだろう。
コラムとSNSの投稿と検閲は、これで問題なさそうだ。
「細かいところは調整したいけど、大筋の流れは問題なさそうね」
「ありがとうございます。話を戻しますが、SNSを使ってファンを拡大したら最後は動画サイトで、動画を配信してもらう予定です。もちろん録画放送になります。《ユキトくんの手作り料理講座》や《読者の質問に答えるコーナー》といったものが良いかと思いますが、まだ最終的には決まっていません」
動画を配信してようやくネットアイドルになれるわけか。
「お金、マネタイズはどうするの?」
母さんがお金の話をするということは、企画には納得したのだろう。
「将来的には課金システムなども考えられますが、最初は広告でお金を稼ごうと考えています。ユキトくんにお支払いする金額は広告で稼いだお金から、4割をお渡しする形を考えています」
「検閲の人件費、サーバー費などを考えれば悪くはないわ。ユキちゃん良い?」
「うん。企画の内容もお金も大丈夫。頑張れば頑張った分お金が入るしね」
そういってグッと手を握る。
アクセスが集まればお金が稼げるのであれば、頑張るしかない。学業と並行するのは大変かもしれないけど、自分が決めたことだ。どんな結果になるかわからないけど、最後までやり通そう。
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