最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第15話「誰が音楽プレイヤーやねんっ!!」

「……さて、良い加減にペット探しの方に話を進めたいと思います」
「迷子の仔犬、今頃どうしてるか分かりませんし、早く見つけてあげないといけませんね」

 というわけで活動開始。
 まずは仔犬の居場所を野木に探ってもらおう。

「迷子のペットを見つけたい? そんな貴方にピッタリの商品がこちら、"NogiPodΣ"でやんす!」

 野木は、ポケットの中から手のひらサイズの縦長カプセルを取れ出した。
 それはパッと見でオモチャのように感じるが、野木は意気揚々とそれを皆に見せびらかしている。どうやら自慢の逸品なのだろう。

「……iPod?」
「違うでやんすよ軽井沢くん。"NogiPod"でやんす! 読み方は『のぎポッド』ッ!!」
「それで、それは何に使う道具なの?」
「よく聴いてくれたでやんすっ! この"NogiPodΣ"は、スイッチ一つで範囲内の中を全自動で空中遊泳するユニークなアイテムなんでやんす!」

 そう言って、野木はガジェットの先端にあるスイッチをカチッと押す。
 すると、ガジェット瞬く間に変形し、プロペラを4つ付けたクラゲの様な姿に変貌した。
 それはゆらゆらと、まるで本物のクラゲみたいに宙を漂う始める。

「お〜っ、なんか一瞬で凄いのが登場して来たな」
「どうでやんすか! このNogipodΣの美しいフォルムはっ!!」
「確かに、卵みたいなプラスチックが空を飛んだのは驚きましたけど……」

 中鉢は呟く。
 野木が取り出した例のガジェットは、今もゆらゆらと和室の中を遊泳していた。

「……これでどうやって、迷子のペットを探すんですか?」
「ふっふっふっ、ここからがNogipodΣの真骨頂でやんす!!」

 野木は、所持していたノートPCを開き、カタカタと何やらタイピングをし出した。
 PCの画面には、何やら意味不明の文字がずらずらと並べられていき、中鉢にはそれがどういう意味を持っているのか理解出来なかった。
 そして突然、軽井沢がこんな事を話し始める。

「ねえ中鉢ちゃん、『異能』って何なのか知ってる?」
「何ですか藪から棒に。……まあ、ある程度は。軽井沢先輩ほどは詳しくありませんけどね」

 ……この世界には、"異能"というものが存在する。
 異能とは、常識では考えられない力と精神を秘め、それを具現化させる超常たちの総称である。
 異能の力を持つ者たち『異能者』は、生まれながら、或いは人工的に、或いは人を超越した何者かによって誕生させられた。かつて異能者はその人外の性能を持って世界各地で開発され、人類の繁栄のため生み出されていった。
 かつて人間と異能者は、互いに相容れない状態が続き、やがては大きな戦争が勃発するほどの蟠りが在ったらしい。
 だが戦争が終わり、月日は流れ、今では二つの勢力を平等に扱う政策が誕生している。
 人間と異能者は共に生きていくことに成功し、安永の時を迎えたのだった。

「とはいえ、実際にはそう上手く言ってるわけじゃないんですよねぇ」
「もう戦争が終わって200年以上経っているっていうのに、まだまだ通常の人間と異能者の壁は完全に払拭されていない。僕も少しでも異能者たちのイメージを良くしようと、周りの人とは腹を割って話そうと頑張ってるんだ。だけど、これがなかなか上手くいかなくてさぁ」
「軽井沢先輩の場合、腹を割ったせいで悪印象になると思うんですけど。本性が露わになるせいで」
「僕は日々、みんなとは心を開いて接する様にしてるよっ!」
「だからそれが逆効果何ですってば」

 そうして、軽井沢と中鉢が話している間に野木の準備が終わったようだ。
 PCの画面には大量の文字が一面に広がっている。

「さあ、これがNogiPodΣの真の力っ。刮目するでやんす、スイッチONッ!!」

 野木は勢いを込めてエンターキーを押した。
 その瞬間、PCに映像が映し出された。
 良く見ると、それは空中から映された将棋部の映像だった。

「この瞬間、NogiPodΣの効果発動っ!! 千里眼の能力、"望遠監理ビデオスコープ"!!」

 野木は再び、PCのエンターキーを押す。
 すると画面の映像は切り替わり、そこには青い空と街並みが広がっていた。その映像は、まるで飛行する鳥のように次々と場所が移り変わっていく。
 これは、実際に映された現実の映像だったが、その脈動感、地上を歩く人間には馴染みの無い非現実的な大空からの光景は、リアルなのに最新のVRゲームを見ているような不思議な感覚に囚われてしまう。
 実際、中鉢はこの映像を見て目を丸くした。その壮大な景色を眺めて、自然と吐息が漏れてしまう。

「ふふんっ、驚いたでやんすか? これが、おいらのNogiPodΣが持つ真の力!」

 中鉢がこの映像に囚われている間、同じくそれを見ていた有沢は感心したように口笛を吹いた。

「へぇ、これは凄いの。野木先輩のオモチャは、個々に異能の力を内装されているの?」
「"オモチャ"じゃなくて"ガジェット"でやんす。まあおいらの専門は『能力開発』でやんすからね、ガジェット作りは趣味でやんす。あっ、でも好きなのはガジェット作り!」

 そう、野木世二の"スキル・ポッド"。通称"NogiPod"は、異能者の力を借りず、単独で能力を発動できる。人工的に能力開発ができる現代において、人間ではない無機物でも、能力を宿すことが可能なのだ。
 異能の力を秘めた道具。
 それはどんな大掛かりな装置よりも、高い利便性とロマンが込められている。
 野木世二はそのロマンを求めて、日々ガジェット作りに勤しんでいるのだ。

 PCから映し出される映像を見て、軽井沢が満足気に頷く。

「よしっ、これがあれば、迷子のペット捜索も楽勝だな! あとは任せたぞ野木くん!」
「ガッテンでやんす!」

 こうして、NogiPodΣによる捜索活動が始まった。
 異能の力を借りての活動。迷子のペットが見つかるまで、そう時間はかからないように思えた。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品