最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-
第8話「そりゃ怒るよ」
「…………はっ!? こ、ここはどこだ……?」
軽井沢がチョチョイと男子生徒たちを弄ると、彼らはあっさりと正気に戻った。
どうやら先日からの記憶がないようだ。一体どんな手段を使ったらこうも簡単に洗脳が出来るのだろうか、天願寺の頭では理解できなかった。
「はい、全員洗脳を解いたよ。これで満足かな?」
「随分と素直に聞き入れるんだな。何か企んでいるんじゃないのか?」
「何も企んでないよ! 全く、どうしてみんな僕を信用してくれないんだ」
昨日だけで窃盗に買収未遂、それから洗脳までしていると言うのにどの口が言っているのだろうか?
自分のしてきたことを完全に棚に上げての発言。"責任"のふた文字を母胎に置き忘れてきたかの如き彼の台詞の数々。
天願寺は、そんな軽井沢春太という男を、どうしても好きにはなれなかった。
「あっ! テメエだな俺に妙なことをした奴はっ!!」
その時、天願寺らにとって予想外の出来事が起こった。
在ろう事か、洗脳されていた男子生徒の1人が、顔を真っ赤にして軽井沢へズンズンと大股開きで近づいていったのだ。
その生徒は、髪を茶色く染めた不良っぽい出で立ちで、見るからにして非常に厳つい印象を与える青年だった。
茶髪の青年は怒っていた。当然である。いきなり訳のわからない内に洗脳されて、夜が明けて今に至るまでずっと正気を奪われていたのだ。怒らない方がどうかしている。
しかし、その男子生徒以外の洗脳されていた人たちは、軽井沢を非難することはなかった。
それどころか、事を起こした張本人に抗議しに行く彼を見て、周囲にいた一同は悲鳴を上げたのである。
「お、おい誰だアイツ!! マジかよ、軽井沢春太に喧嘩を売る気か!?」
「あの勲章、一年生だろう!? あの男のこと知らねえんじゃねえのか!?」
「おいキミ!! 死にたくなかったら下がっているんだ!! あいつは本当にヤバいんだよ!!」
そう、皆が軽井沢を恐れているのだ。
彼らは知っていた。軽井沢春太という男の本質、その恐怖を。
反抗するだけ痛い目を見る、逆らってはならない相手、そういう存在だと認識しているのだ。
しかし、鬼の形相で軽井沢へと歩み寄る茶髪の青年は、それらの忠告を一切無視した。彼は荒っぽい手付きで軽井沢の胸倉を掴み、筋肉隆々の腕で持ち上げた。
背丈が平均より低い軽井沢は、怒る男子生徒に軽々と宙に浮かされてしまう。
……この時、軽井沢は思った。
(これ、絶対襟元だるんだるんになってるだろうなぁ〜)
「秋人助けて! 厳ついお兄ちゃんに乱暴されちゃうっ!」
「はぁ、天願寺も着たし引き時だな。春太、俺は先に教室へ行ってるからな」
「あれ? 僕の危機的状況にスルーかい!?」
……いつも通りのやり取りだった。こんな状況でも軽井沢はおちゃらけ、それを樋口が軽くあしらう。
それはつまり、彼らにはこの状況がまるで脅威ではない事を意味していた。
「オイコラッ!! 調子乗ってんじゃねえぞチビ野郎がッッ!!!!」
しかし、茶髪の青年はそんな彼らの本質を理解していない様子だ。
全くこちらに興味を持とうとしない軽井沢に対する怒りが、ふつふつと沸いているのがわかる。
そして軽井沢はふと、自分の胸倉を掴む青年と目を合わせた。
「やれやれ、昨日で懲りたと思ってたけどまだこの僕に反抗するのか。……面白いね。いいよ、もう一度相手してやる」
……その時の彼は笑っていた。
それは楽しいおもちゃを見つけたような無邪気に笑う、
子供ような残酷な笑みだった。
軽井沢がチョチョイと男子生徒たちを弄ると、彼らはあっさりと正気に戻った。
どうやら先日からの記憶がないようだ。一体どんな手段を使ったらこうも簡単に洗脳が出来るのだろうか、天願寺の頭では理解できなかった。
「はい、全員洗脳を解いたよ。これで満足かな?」
「随分と素直に聞き入れるんだな。何か企んでいるんじゃないのか?」
「何も企んでないよ! 全く、どうしてみんな僕を信用してくれないんだ」
昨日だけで窃盗に買収未遂、それから洗脳までしていると言うのにどの口が言っているのだろうか?
自分のしてきたことを完全に棚に上げての発言。"責任"のふた文字を母胎に置き忘れてきたかの如き彼の台詞の数々。
天願寺は、そんな軽井沢春太という男を、どうしても好きにはなれなかった。
「あっ! テメエだな俺に妙なことをした奴はっ!!」
その時、天願寺らにとって予想外の出来事が起こった。
在ろう事か、洗脳されていた男子生徒の1人が、顔を真っ赤にして軽井沢へズンズンと大股開きで近づいていったのだ。
その生徒は、髪を茶色く染めた不良っぽい出で立ちで、見るからにして非常に厳つい印象を与える青年だった。
茶髪の青年は怒っていた。当然である。いきなり訳のわからない内に洗脳されて、夜が明けて今に至るまでずっと正気を奪われていたのだ。怒らない方がどうかしている。
しかし、その男子生徒以外の洗脳されていた人たちは、軽井沢を非難することはなかった。
それどころか、事を起こした張本人に抗議しに行く彼を見て、周囲にいた一同は悲鳴を上げたのである。
「お、おい誰だアイツ!! マジかよ、軽井沢春太に喧嘩を売る気か!?」
「あの勲章、一年生だろう!? あの男のこと知らねえんじゃねえのか!?」
「おいキミ!! 死にたくなかったら下がっているんだ!! あいつは本当にヤバいんだよ!!」
そう、皆が軽井沢を恐れているのだ。
彼らは知っていた。軽井沢春太という男の本質、その恐怖を。
反抗するだけ痛い目を見る、逆らってはならない相手、そういう存在だと認識しているのだ。
しかし、鬼の形相で軽井沢へと歩み寄る茶髪の青年は、それらの忠告を一切無視した。彼は荒っぽい手付きで軽井沢の胸倉を掴み、筋肉隆々の腕で持ち上げた。
背丈が平均より低い軽井沢は、怒る男子生徒に軽々と宙に浮かされてしまう。
……この時、軽井沢は思った。
(これ、絶対襟元だるんだるんになってるだろうなぁ〜)
「秋人助けて! 厳ついお兄ちゃんに乱暴されちゃうっ!」
「はぁ、天願寺も着たし引き時だな。春太、俺は先に教室へ行ってるからな」
「あれ? 僕の危機的状況にスルーかい!?」
……いつも通りのやり取りだった。こんな状況でも軽井沢はおちゃらけ、それを樋口が軽くあしらう。
それはつまり、彼らにはこの状況がまるで脅威ではない事を意味していた。
「オイコラッ!! 調子乗ってんじゃねえぞチビ野郎がッッ!!!!」
しかし、茶髪の青年はそんな彼らの本質を理解していない様子だ。
全くこちらに興味を持とうとしない軽井沢に対する怒りが、ふつふつと沸いているのがわかる。
そして軽井沢はふと、自分の胸倉を掴む青年と目を合わせた。
「やれやれ、昨日で懲りたと思ってたけどまだこの僕に反抗するのか。……面白いね。いいよ、もう一度相手してやる」
……その時の彼は笑っていた。
それは楽しいおもちゃを見つけたような無邪気に笑う、
子供ような残酷な笑みだった。
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