最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~
47話
一つの戦闘を終えた俺たちは、臨時集会が開かれて、召集されることとなった。
エマと俺の二人だけが、この事件の全貌を知っていたということでもある。
ほかの者たちは、意識が回復したものの、ネストの素性を知っているものはいなかった。
それほどまでに、彼の”能力”いいや、“魔法”は凄まじい効果があったということだ。
俺は、すぐに、エマとあの男がどのような行動をしていたのかという説明を、目の前にいるヤングサンクションズの設立者であり、炎の魔術師という異名を持ってもいて、なによりもエマのお母さんという人物と話をした。
「かあさん、俺はなただアイツをぶん殴っただけだよ」
エマは、ドヤるようにして、両腕を胸に抱えながら、そのようなことを言った。
そして、俺にも説明をするようにと、こちらを見ている。
「ミセス香江子〈かえこ〉さん、確かにエマの言う通りだと思います」
正直この人、爆堂香江子さんはあまり好きではないタイプの人間である。
見るからに、真面目そうな人間と思わせて、中身は猛獣が住んでそうな人間なのだ。
それにしても、エマも同じようなタイプの人間であるが、しかし扱いやすい。
しかし香江子さんは頭がよく回る。
頭がよく回って、暴力気質という逆転した性質を持っている特殊な人間だった。
そしてなによりも、この彼女は、誰にも並ばないくらいに強い。
目は、日本人特有の細いものであるが、しかしながら、鼻や口は、絵で描かれているように、きれいなものであった。
たしかに、エマの母は綺麗な人物であるが、しかし俺には、どうしようもないくらいに、香江子さんにはあまりいい思い出はなかった。
「ぶん殴ったにしても、拷問もできないくらいに、歯を無くすことはな…… エマ、お前は少しばかり頭を柔軟にしろ。まるであいつのようだぞ」
あいつというのは、香江子さんの元の旦那であった。
たしか金銭のトラブルで離婚をしたと聞いた。
どうやらダメ男だったらしく、エマから聞いた話はヒモの類だとかなんとか。
「ミセス香江子。僕はやめろとは言ったんですけどね」
俺はすぐにエマを売ることにした。
エマは、こちらをまるでにらみ殺すように見ている。
「そのミセスというものは、やめてもらうかタスク君」
香江子さんにも、すさまじい眼光でにらまれた。
俺はこの二人から放たれている眼光で、焼き鳥が焼けてしまいそうだ。
たぶん、生焼けで腹を下してしまいそうだけれど……
「とにかくだね…… 札沼ネストは、この学園都市の地下にある、隔離虚塀施設へと収容された。どんな能力者でも、あの脱獄からは抜け出すことはない。たとえ空間移動の所持種であってもだ」
ホログラム型のタブレットから、隔離虚塀施設の全体地図が表示された。
続けて香江子さんは饒舌に説明をする。
「塀を囲んでいるのは、この世のすべての空間を遮断することができる、拒絶系の強度B強の能力者で固めている。核のような高威力の破壊力を持った兵器では防げないものの、看守としてなら十分足りえる人員だ。これのフィールド遮断により、授業で習ったように空間を移動してくる能力者にも効果はある。それを総勢35人で固めており、最強の監獄として、私たち、能力者界隈でもそれなりに有名な監獄である。国連はここでセクター5(要するに、世界を転覆するような手段を扱える世界的指名手配の人間)を隔離するためにも、使わせてくれと言われていた。しかしここは、表舞台の世界で能力者はあまり感知されてはいないために、使うという商談は無しになったのだ」
と、ながながと香江子さんは説明をした。
要するに地上史上最強の監獄ということだ。
「それならば、ネストがここから、エリア53から出ることはないですね」
僕はそのようなことを香江子さんに言った。
迷彩都市と化しているこの街によそ者が出入るという奇妙な現象はまったくと、いままではなかった。しかし今こうして札沼ネストが登場したのはおかしなことであったのだ。
GPSにもこの街は映らないように、すべての衛星データを国を使って改ざんしている。
「ああ、そういうことだ。トリックスターズの連中もこちらに突入してくるほど、頭の足りていない連中ではない。だからこそ、私たちはネストに関しての情報が欲しいんだよ」
ミセス香江子は、敵が持っていたとする武器の画像データをインターフェースに表示させた。
ネストが贋作だと、言っていた武器であった。
その武器は忌々しくもあり、そして痛々しくもありながら、妙な瘴気、それは黒と淡い紫を合わせたオーラが染みついて漂っている。
ネストが直接持っていた、オーパーツというものが、俺にはどんなものが、想像がつかない。
古代兵器…… しかしながら奴がもっていのは、偽物という贋作。
性能は、俺の不死身性を完璧に投影させて見せた。
「第四千世界魔力…… まるでファンタジーアニメのようだ」
香江子はそう言って顎に手を付けて、考え込んでいるようにしている。
そして、数秒後切り替えが済んだのか、気分がわかっていた。
「……情報屋にでも提出をして、詳しく調べてもらうさ」
エマと俺にそう言った。
「母さん、俺は嫌な予感がしてならないね」
エマは、漠然と構えながら、オーパーツが映っている画像を見ている。
俺もまた、そのような事柄が頭に浮かんだ。
「何事もだ、どんな手段を用いてもどうしようもなくなってしまうものもある。だがな、けっして晴れない雨もないように、決してあきらめない限りは、どうとでもなるものだ」
香江子は俺たちの頭をそれぞれに、元気づけるようにしてポンとやさしくたたいた。
エマは、そうねと、そっけない返事をして、別の方向を見ている。どうやらエマは俺に見られて照れているようだった。
俺もまた、うんと力強く答えた。
ミセス香江子は、俺たち能力者の親のような存在だ。香江子たちが、まだ若いころに、自ら道を切り開いてきた過去がある。
それを俺たちはただ、進んでいるだけだ。
だけれど、それでも、俺たち能力者の居場所はここにしかないだろう。
俺たちでは現実では悪者のような存在だったからだ。
居場所を守るため、俺たちはたたかなければならない。
一年前のトリックスターズとの、前線を生き残った俺たちで。
「エマ、私をここで母さんと呼ぶのはやめろ」
こんな多人数に支持を出すところでは、面目がつぶれてしまう、と彼女は言う。
「はーい、以後を気を付けます」
エマは、一安心をしたようだった。
「しかし敵は、確かにタスク、お前の能力を奪うことができたということなんだな?」
香江子は、突然に話を切り替えた。
俺は、同意するようにして、彼女の質問に答えた。
「はい、確かに相手は、俺の超再生を使っていました」
あと俺の過去を知っているようでもあった。
なおさらこの世界のことがどれほどまでに、無知であるのか、俺自身もわからずじまいだ。
「脊髄がズタズタになったにも関わらず、奴は前の超再生を駆使、いいやタスクの能力を奪取することができたということか…… なおさら敵の正体が楽しみでもある」
香江子は、興味がかなりあるようだった。
「第四世界魔力か…… 仮に、この世界に私たちの知らないような力が、あるとしても、このような事態にはならないよう、情報のアップグレードを本部に要請してもらおう」
ポケットに入っていた煙草を取り出し、彼女は先っぽに火をつけた。
煙草のにおいはすこまで嫌いではなkったが、しかしエマはあまり好きではなかった。
「母さん、たばこやめるって言ってたよね」
エマはムスッとしながら言う。
「はいはい。しかし、この場所でこの私に対して母さんと呼ぶのはやめろと、何度も言っているだろう」
と言って、深呼吸をするように、彼女は煙草を肺へと入れ込んだ。
俺はそれを見て、いつものエマと、香江子さんの光景だなと、不安がよぎるような日々変わる世界情勢でも、これだけは、変わることはなかった。
「しかし、対象が敵対してる人間の能力、という概念を盗むとしても、武器に関しては…… タスクどうだった?」
香江子さんは、質問を展開していた。
「相手が自身の武器を持っていたということもあり、俺の武器は特別取られたようなことはないですね」
俺は淡々と答えている。
盗むにしても、武器を盗むとなると、これまたとんでもないようなことがあるかもしれない。
仮に、今世界中にある、大型兵器、それも対大衆用の戦略型核弾頭を盗むとすれば、一瞬にして、世界を手中に収めることができるのだ。
もしそのような能力があるとするのならば、っていう話なので、油断も、安心もないだろう。
「奴が言っていた、世界が転覆されてしまう事柄。ニライカナイ建設…… ニライカナイというのは、大昔の日本の沖縄という島の言い伝えだ。はるか東の海底にあるとされる海の底の異界。とある都市伝説によると、それはアトランティス大陸の別名だなんていわれてもいる。豊穣、生命の源…… 人々にはニライカナイから魂が現世に生まれて、そしてまたニライカナイに帰るとされている。本土の常世の国、または根の国と同一のものとされていて、このような伝説などは、どこの国も同じようなことを言っている」
妙に物知りな香江子さんだった。
端末にはウィキのページが表示されている。
「ニライカナイのまたの意味を、地獄とも、天国ともとれることから、はやり、アイツから、札沼ネストから、しっかりと事情を聴いておくことが、いいのだろう」
やはり、真実はいまだ闇の中であった。
都市伝説にも、信憑性があるものがたしかに存在するということであった。
十二支族、そしてなによりも、俺が倒したスタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウスがいまだに生きているという、ネストの言葉に俺は考え込んでしまう。
どうやら香江子さんは、このことは知っていないそうだった。
無理もなかった、これに関しては誰にも話してはいなかったからだ。
俺がこのような体になってしまった、このような能力を得てしまったのもその事件が関連しているからだ。
これは俺が誰に頼んだでもなく、自分で選んで、自分で決断して、自分で決めてきたことだ。
絶対的な強者になると、あの男に、あの妙な達観をしているあの男に、俺は契約をした。
あれをかなえるためにも……
「タスク、今日のところは、ここで、解散といこう。何かが、あった場合には、今日のような事態になってしまったら、すぐに我々も出撃しよう」
香江子さんは、そう言って安心するように俺に告げた。
「ネストは大丈夫なんでしょうか?」
僕はすこしだけ、心配になった。
「ネストは我々に任せるといい。大丈夫だ。こういうときにこそ、大人を信用するんだな」
香江子は、そう言って、椅子に掛けてあった黒色の革ジャンのジャケットを羽織った。
白のシャツと相まって、彼女はより一層、たくましく見えた。
「母さん、俺たちは大丈夫だからな」
エマは、心配するなと言わんばかりに香江子に、声を上げている。
「ああ、次の世代も安心できるな」
と、香江子は、意味が深いセリフを言って、舞っていた護衛の人間とエレベーターに入っていった。
最後までその背中は、僕たちに存在を教えるかのような姿でもあった。
頼りになる人であった。
だからこそ、俺たちはここまで成長することができたのだ。
エマは実の母だとしても、僕の保護者は香江子さんという存在があったのだ。
身寄りがなかった俺に対して、彼女はいろいろなものを提供してくれた。
彼女には数えきれないほどの恩があったのだ。
香江子さんは、覚えていないのかもしれない。もしかすれば、そんなものさえも忘れてしまったのかもしれない。
それでも、ここで忠誠を示すには、それだけの理由があったというのが、僕のこころの中であった。
◇ ◇ ◇
エマと僕は、すぐさま、いつも通りのカリキュラムに戻った。
ホームルームが終わり、同じチームである、影鶴トウマと、佐部ミライの二人と話をした。
「タスクよぉ、お前今度はだれとモンキーファイトをしたんだぁ?」
俺の左に座っている影鶴トウマは、そのようなことを口走った。
「それが、知らないんだよ。正体不明の敵だ」
右に座っていたのが、佐部ミライだ。
「正体不明…… なあにそれ? むちゃくちゃじゃない」
ミライのさらに右に座っていたのが、エマであった。
「そんなこともあるらしいぜ。俺とタスクが戦ったから、俺たちのチームも評価が上がって、解散できるな」
エマは、帰る支度をしながら、答えていた。
「また、エマに助けてもらったのかよ」
トウマはふざけるようにして、俺にそんなことを言ってきた。さすがに頭にきた。
「なに言ってんだ。僕が倒したんだよ」
若干にらみながら、トウマに言ったが軽くあしらわれた。
「あんまり戯言はよくねえぜ。お前って、不死身と射撃だけじゃねえか」
こいつは俺の対人性能がどれほどまでに、すごいのかまだわからないのかよ。
ちなみに、こいつとは百パーセントで俺が仮実演練習のときは勝利している。
「後方支援が何を言っているんだよ。じゃあ僕はこれで帰るね」
「確かに、トウマって面と向かってくる相手には何もできないわよね」
「そうだな、これはタスクに軍配が上がる」
ミライとエマは、僕に続いた。
トウマは、待てよおと言いながら、輪に入っていった。
エマと俺の二人だけが、この事件の全貌を知っていたということでもある。
ほかの者たちは、意識が回復したものの、ネストの素性を知っているものはいなかった。
それほどまでに、彼の”能力”いいや、“魔法”は凄まじい効果があったということだ。
俺は、すぐに、エマとあの男がどのような行動をしていたのかという説明を、目の前にいるヤングサンクションズの設立者であり、炎の魔術師という異名を持ってもいて、なによりもエマのお母さんという人物と話をした。
「かあさん、俺はなただアイツをぶん殴っただけだよ」
エマは、ドヤるようにして、両腕を胸に抱えながら、そのようなことを言った。
そして、俺にも説明をするようにと、こちらを見ている。
「ミセス香江子〈かえこ〉さん、確かにエマの言う通りだと思います」
正直この人、爆堂香江子さんはあまり好きではないタイプの人間である。
見るからに、真面目そうな人間と思わせて、中身は猛獣が住んでそうな人間なのだ。
それにしても、エマも同じようなタイプの人間であるが、しかし扱いやすい。
しかし香江子さんは頭がよく回る。
頭がよく回って、暴力気質という逆転した性質を持っている特殊な人間だった。
そしてなによりも、この彼女は、誰にも並ばないくらいに強い。
目は、日本人特有の細いものであるが、しかしながら、鼻や口は、絵で描かれているように、きれいなものであった。
たしかに、エマの母は綺麗な人物であるが、しかし俺には、どうしようもないくらいに、香江子さんにはあまりいい思い出はなかった。
「ぶん殴ったにしても、拷問もできないくらいに、歯を無くすことはな…… エマ、お前は少しばかり頭を柔軟にしろ。まるであいつのようだぞ」
あいつというのは、香江子さんの元の旦那であった。
たしか金銭のトラブルで離婚をしたと聞いた。
どうやらダメ男だったらしく、エマから聞いた話はヒモの類だとかなんとか。
「ミセス香江子。僕はやめろとは言ったんですけどね」
俺はすぐにエマを売ることにした。
エマは、こちらをまるでにらみ殺すように見ている。
「そのミセスというものは、やめてもらうかタスク君」
香江子さんにも、すさまじい眼光でにらまれた。
俺はこの二人から放たれている眼光で、焼き鳥が焼けてしまいそうだ。
たぶん、生焼けで腹を下してしまいそうだけれど……
「とにかくだね…… 札沼ネストは、この学園都市の地下にある、隔離虚塀施設へと収容された。どんな能力者でも、あの脱獄からは抜け出すことはない。たとえ空間移動の所持種であってもだ」
ホログラム型のタブレットから、隔離虚塀施設の全体地図が表示された。
続けて香江子さんは饒舌に説明をする。
「塀を囲んでいるのは、この世のすべての空間を遮断することができる、拒絶系の強度B強の能力者で固めている。核のような高威力の破壊力を持った兵器では防げないものの、看守としてなら十分足りえる人員だ。これのフィールド遮断により、授業で習ったように空間を移動してくる能力者にも効果はある。それを総勢35人で固めており、最強の監獄として、私たち、能力者界隈でもそれなりに有名な監獄である。国連はここでセクター5(要するに、世界を転覆するような手段を扱える世界的指名手配の人間)を隔離するためにも、使わせてくれと言われていた。しかしここは、表舞台の世界で能力者はあまり感知されてはいないために、使うという商談は無しになったのだ」
と、ながながと香江子さんは説明をした。
要するに地上史上最強の監獄ということだ。
「それならば、ネストがここから、エリア53から出ることはないですね」
僕はそのようなことを香江子さんに言った。
迷彩都市と化しているこの街によそ者が出入るという奇妙な現象はまったくと、いままではなかった。しかし今こうして札沼ネストが登場したのはおかしなことであったのだ。
GPSにもこの街は映らないように、すべての衛星データを国を使って改ざんしている。
「ああ、そういうことだ。トリックスターズの連中もこちらに突入してくるほど、頭の足りていない連中ではない。だからこそ、私たちはネストに関しての情報が欲しいんだよ」
ミセス香江子は、敵が持っていたとする武器の画像データをインターフェースに表示させた。
ネストが贋作だと、言っていた武器であった。
その武器は忌々しくもあり、そして痛々しくもありながら、妙な瘴気、それは黒と淡い紫を合わせたオーラが染みついて漂っている。
ネストが直接持っていた、オーパーツというものが、俺にはどんなものが、想像がつかない。
古代兵器…… しかしながら奴がもっていのは、偽物という贋作。
性能は、俺の不死身性を完璧に投影させて見せた。
「第四千世界魔力…… まるでファンタジーアニメのようだ」
香江子はそう言って顎に手を付けて、考え込んでいるようにしている。
そして、数秒後切り替えが済んだのか、気分がわかっていた。
「……情報屋にでも提出をして、詳しく調べてもらうさ」
エマと俺にそう言った。
「母さん、俺は嫌な予感がしてならないね」
エマは、漠然と構えながら、オーパーツが映っている画像を見ている。
俺もまた、そのような事柄が頭に浮かんだ。
「何事もだ、どんな手段を用いてもどうしようもなくなってしまうものもある。だがな、けっして晴れない雨もないように、決してあきらめない限りは、どうとでもなるものだ」
香江子は俺たちの頭をそれぞれに、元気づけるようにしてポンとやさしくたたいた。
エマは、そうねと、そっけない返事をして、別の方向を見ている。どうやらエマは俺に見られて照れているようだった。
俺もまた、うんと力強く答えた。
ミセス香江子は、俺たち能力者の親のような存在だ。香江子たちが、まだ若いころに、自ら道を切り開いてきた過去がある。
それを俺たちはただ、進んでいるだけだ。
だけれど、それでも、俺たち能力者の居場所はここにしかないだろう。
俺たちでは現実では悪者のような存在だったからだ。
居場所を守るため、俺たちはたたかなければならない。
一年前のトリックスターズとの、前線を生き残った俺たちで。
「エマ、私をここで母さんと呼ぶのはやめろ」
こんな多人数に支持を出すところでは、面目がつぶれてしまう、と彼女は言う。
「はーい、以後を気を付けます」
エマは、一安心をしたようだった。
「しかし敵は、確かにタスク、お前の能力を奪うことができたということなんだな?」
香江子は、突然に話を切り替えた。
俺は、同意するようにして、彼女の質問に答えた。
「はい、確かに相手は、俺の超再生を使っていました」
あと俺の過去を知っているようでもあった。
なおさらこの世界のことがどれほどまでに、無知であるのか、俺自身もわからずじまいだ。
「脊髄がズタズタになったにも関わらず、奴は前の超再生を駆使、いいやタスクの能力を奪取することができたということか…… なおさら敵の正体が楽しみでもある」
香江子は、興味がかなりあるようだった。
「第四世界魔力か…… 仮に、この世界に私たちの知らないような力が、あるとしても、このような事態にはならないよう、情報のアップグレードを本部に要請してもらおう」
ポケットに入っていた煙草を取り出し、彼女は先っぽに火をつけた。
煙草のにおいはすこまで嫌いではなkったが、しかしエマはあまり好きではなかった。
「母さん、たばこやめるって言ってたよね」
エマはムスッとしながら言う。
「はいはい。しかし、この場所でこの私に対して母さんと呼ぶのはやめろと、何度も言っているだろう」
と言って、深呼吸をするように、彼女は煙草を肺へと入れ込んだ。
俺はそれを見て、いつものエマと、香江子さんの光景だなと、不安がよぎるような日々変わる世界情勢でも、これだけは、変わることはなかった。
「しかし、対象が敵対してる人間の能力、という概念を盗むとしても、武器に関しては…… タスクどうだった?」
香江子さんは、質問を展開していた。
「相手が自身の武器を持っていたということもあり、俺の武器は特別取られたようなことはないですね」
俺は淡々と答えている。
盗むにしても、武器を盗むとなると、これまたとんでもないようなことがあるかもしれない。
仮に、今世界中にある、大型兵器、それも対大衆用の戦略型核弾頭を盗むとすれば、一瞬にして、世界を手中に収めることができるのだ。
もしそのような能力があるとするのならば、っていう話なので、油断も、安心もないだろう。
「奴が言っていた、世界が転覆されてしまう事柄。ニライカナイ建設…… ニライカナイというのは、大昔の日本の沖縄という島の言い伝えだ。はるか東の海底にあるとされる海の底の異界。とある都市伝説によると、それはアトランティス大陸の別名だなんていわれてもいる。豊穣、生命の源…… 人々にはニライカナイから魂が現世に生まれて、そしてまたニライカナイに帰るとされている。本土の常世の国、または根の国と同一のものとされていて、このような伝説などは、どこの国も同じようなことを言っている」
妙に物知りな香江子さんだった。
端末にはウィキのページが表示されている。
「ニライカナイのまたの意味を、地獄とも、天国ともとれることから、はやり、アイツから、札沼ネストから、しっかりと事情を聴いておくことが、いいのだろう」
やはり、真実はいまだ闇の中であった。
都市伝説にも、信憑性があるものがたしかに存在するということであった。
十二支族、そしてなによりも、俺が倒したスタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウスがいまだに生きているという、ネストの言葉に俺は考え込んでしまう。
どうやら香江子さんは、このことは知っていないそうだった。
無理もなかった、これに関しては誰にも話してはいなかったからだ。
俺がこのような体になってしまった、このような能力を得てしまったのもその事件が関連しているからだ。
これは俺が誰に頼んだでもなく、自分で選んで、自分で決断して、自分で決めてきたことだ。
絶対的な強者になると、あの男に、あの妙な達観をしているあの男に、俺は契約をした。
あれをかなえるためにも……
「タスク、今日のところは、ここで、解散といこう。何かが、あった場合には、今日のような事態になってしまったら、すぐに我々も出撃しよう」
香江子さんは、そう言って安心するように俺に告げた。
「ネストは大丈夫なんでしょうか?」
僕はすこしだけ、心配になった。
「ネストは我々に任せるといい。大丈夫だ。こういうときにこそ、大人を信用するんだな」
香江子は、そう言って、椅子に掛けてあった黒色の革ジャンのジャケットを羽織った。
白のシャツと相まって、彼女はより一層、たくましく見えた。
「母さん、俺たちは大丈夫だからな」
エマは、心配するなと言わんばかりに香江子に、声を上げている。
「ああ、次の世代も安心できるな」
と、香江子は、意味が深いセリフを言って、舞っていた護衛の人間とエレベーターに入っていった。
最後までその背中は、僕たちに存在を教えるかのような姿でもあった。
頼りになる人であった。
だからこそ、俺たちはここまで成長することができたのだ。
エマは実の母だとしても、僕の保護者は香江子さんという存在があったのだ。
身寄りがなかった俺に対して、彼女はいろいろなものを提供してくれた。
彼女には数えきれないほどの恩があったのだ。
香江子さんは、覚えていないのかもしれない。もしかすれば、そんなものさえも忘れてしまったのかもしれない。
それでも、ここで忠誠を示すには、それだけの理由があったというのが、僕のこころの中であった。
◇ ◇ ◇
エマと僕は、すぐさま、いつも通りのカリキュラムに戻った。
ホームルームが終わり、同じチームである、影鶴トウマと、佐部ミライの二人と話をした。
「タスクよぉ、お前今度はだれとモンキーファイトをしたんだぁ?」
俺の左に座っている影鶴トウマは、そのようなことを口走った。
「それが、知らないんだよ。正体不明の敵だ」
右に座っていたのが、佐部ミライだ。
「正体不明…… なあにそれ? むちゃくちゃじゃない」
ミライのさらに右に座っていたのが、エマであった。
「そんなこともあるらしいぜ。俺とタスクが戦ったから、俺たちのチームも評価が上がって、解散できるな」
エマは、帰る支度をしながら、答えていた。
「また、エマに助けてもらったのかよ」
トウマはふざけるようにして、俺にそんなことを言ってきた。さすがに頭にきた。
「なに言ってんだ。僕が倒したんだよ」
若干にらみながら、トウマに言ったが軽くあしらわれた。
「あんまり戯言はよくねえぜ。お前って、不死身と射撃だけじゃねえか」
こいつは俺の対人性能がどれほどまでに、すごいのかまだわからないのかよ。
ちなみに、こいつとは百パーセントで俺が仮実演練習のときは勝利している。
「後方支援が何を言っているんだよ。じゃあ僕はこれで帰るね」
「確かに、トウマって面と向かってくる相手には何もできないわよね」
「そうだな、これはタスクに軍配が上がる」
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トウマは、待てよおと言いながら、輪に入っていった。
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