中二病の異世界生活 ~魔族に崇拝されてます~

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どうやらプロローグらしい

 頭脳明晰スポーツ万能、汚点の無い完全無欠の天才超人。はたして、そんな完璧な人間はいるのだろうか。誰しも汚点の一つや二つは持っているだろう。

 黒内中尾くろうちなかおは一見すると完璧人間だ。テストで100点以外を取ることはなく、成績もオール5。容姿端麗で何事もそつなくこなす所謂天才だ。しかし、そんな彼にもたった一つだけ汚点があった。

「我の名はドグマ!愚民共よ、この三年間、精々我を楽しませてくれたまえ!」

 これが黒内の、中学校入学早々の自己紹介の挨拶だ。そう、彼は、重度の中二病なのだ。それも、黒内という名前を忘れるほどに。

 そんな黒内、いや、ドグマも、今年で中学二年生だ。いつも通りに学校で二つの意味の中二生活を満喫し、妄想の世界に浸りながら帰り道を歩いていた。

 しかし、そこでドグマを不運が襲った。誰しも、そう、例えどんな超人でも、無慈悲なダンプカーの突撃には耐えられない。

「っ!?神の尖兵かっ!」

 横断歩道を歩いていたドグマは、それだけを言い残してダンプカーに轢き潰されてしまった。

 ……しかし、誰にでも不運が訪れるように、誰にでも幸運は訪れる。そう、例えどんなに重度な中二病者でも。

 ドグマを轢き潰したダンプカーの運転手は、そこでようやくブレーキを踏んだ。慌てた様子で運転手はダンプカーの下を覗き込んだ。そこに、ドグマの死体は無かった。

 ダンプカーに轢き潰されたはずのドグマはどこに消えたのか。ドグマにとって、ダンプカーに轢かれたこと自体が幸運、あるいは運命だったのかもしれない。

 ドグマは今、広大な草原に一人で佇んでいた。そう、所謂異世界転移だ。

「なんとか奴等から逃れられたか。しかし、いつ追ってくるかも解らぬ。いつまでも此処に居るのは危険か」

 どんな思考回路をしているのか全く解らないが、ドグマはこの異世界で生きる覚悟を決めたようだ。

「先ずはこの草原の主、銀牙の魔狼フェンリルを眷属にするとしよう」

 生きる覚悟どころか、神獣を仲間にしようと考えているらしい。どう考えたらそうなるんだ。

「さて、行くとしよう」

 ちなみにこの草原にフェンリルはいない。ドグマは一体何を探すのだろうか。

 そうして、ドグマの異世界生活が幕を開けた。

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