最強のFラン冒険者

なつめ猫

光龍エンハス

――――もうよい、消えろ。

 空から光龍エンハスの攻撃神術が、私が立っている大地付近に降り注ぐ。私はすぐに転移で距離を置き離れると降り注いだ光の槍が接触した地面が巨大な爆発を起こし無数の岩石が高速で周囲に散る。そして、復興途中であった建物を破壊していく。

 私は、自分に飛んできた岩石を重力魔法を使い地面に落下させ防ぐ。

―――転移か、人間にはできないはずだが。そうか貴様の体のベースはこの世界の人間の物であったな。

 彼女は、俺の体がどのような状況に置かれてるのかまったく理解できてないようだ。
私は、高速で術式を空中に描いていく。

「万物に干渉す……生み出せしは!?」

 途中で周囲の精神エネルギーが掻き消える。

―――くだらん。私は輪廻を精神エネルギーを管理してきた者。あたり一帯の精神エネルギーを従属させることなど訳はがないわ。

 天より降ってくるエンハスの声に歯軋りをした。
 精神エネルギーは、魔術と魔法の源となる力。それを奪われたという事は、こちらの空間魔術に特化した先史文明の魔術と現代魔術が使用不可能にされた事を意味する。
 肉体も再生は出来るが実質的な死を迎えてる以上ミトコンドリアを使った肉体強化や肉体武器変化も使えない。

 すぐにその場を飛び退く。

 飛び退いた場所に巨大な光の柱が立ち上り大地を消し去っていく。

―――よい、よいぞ。この世界!全てが精神エネルギー出来ているのではないか!この世界の力を私がモノにすれば愚かなゴミ共も一掃できよう。

 光龍エンハスの声が頭の中に直接響いてくる。
先ほどまでの怒りが嘘のようにエンハスの声には愉悦が混じっている。

「それは、この世界を滅ぼすということですか?」

―――そのとおりだ。貴様が神核を破壊した事で私の計画が台無しになったと思ったが……思わぬ拾い物であったわ。

「そんな事はさせません!」
 私は、背中に背負っていたループオブロッドを取り出して両手に持ち構える。
 エンハスから放たれた光術が私の体を傷つけていくけど、肉体は粒子レベルで再構成されていき修復されていく。

―――なんだ?神術か?だがそのような気配は一切感じない?何故生きていられる?

 エンハスは私を見て驚いている。
 私が託されたループオブロッドの特性は粒子再生技術。それは魔術や魔法や神術なんかじゃない。
 これは人類が人間が多くの時間をかけて作り上げてきた化学という魔法に迫った技術。

「これは……神秘学なんかじゃありません。長い年月、多くの人々が知識を継承し受け継ぎ作り上げ開発してきた物です。それが科学と呼ばれる技術、それが……」

―――たかが数十年の寿命しか持たぬ脆弱で矮小な人間が何を言う。神というモノに縋り、都合のいい時だけ神を崇め、都合が悪くなれば悪神と言うそのような者が作ったものなどたった今、消し去ってくれるわ!

 エンハスが支配下に置いていた周囲の精神エネルギーだけではなく大地や木々や全ての存在から精神エネルギーをかき集めていき巨大な光弾を作り上げていく。

「間に合ったな!」
 声がした方へ視線を向けると横に元勇者であるコルク・ザルトが現れた。
 そしてコルクの傍には、空間に裂け目が存在している。

「たしかに、それなら……」
 そう、神代技術はあくまでも物理学を応用した技術。
 エアリアルブレードの特性は空間を繋ぎ切り裂く事。
 それは魔術や魔法や神術でもない。
 人類が長い年月をかけて作り上げた科学と言う技術。

 空間の裂け目から私の騎士であり現在の勇者であるレオナ。
 リースノット王国第一王子であるクラウス様。
 元聖女にして現法皇であるアリアもその姿を現した。

 私は4人の顔を見た後に……。

「敵は、こちらの世界の力を吸収し力に変えます。それにより全ての魔術、魔法、神術は、あの光龍には吸収されてしまい通じないと思います」
 私は、エンハスと戦ってきた事を頭の中で整理しながら対抗策を考える。

「こちらの打てる手立ては、神衣化を連続で行い光龍の力を殺ぎつつ、倒すしか方法がありません」
 私の言葉に皆がうなずいてくれる。

「ならまずは俺からだな?」
 コルクが私に手を差し出してくるのを見て私は頷きながら彼の手を取る。

「皆さんは力をためておいてください。最大まで高めた一撃一撃を相手に叩き込んで倒します」
 コルクの手を強く握りしめ私はコルクを見上げる。

「「神霊融合」」
 私とコルクの言葉が重なりあい周囲の時が止まる。
 時が時間が空間が発生した焔により空間ごと赤く燃え上がる。
 私とコルクの体が焔の炎により音素に還元され周囲の、エンハスが支配下に置いていた精神エネルギー以外の力を取り寄せ吸収し力としていき体を器を構成していく。

 時の止まった世界で巨大な炎の渦が余波を巻き上げ周囲を焼き尽くしていく。
 舞い上がる炎の中から現れたのはユウティーシアたる私を20歳まで成長させた姿であり髪と瞳の色はコルク・ザルトと同じ赤い色を備えていた。
 着ているドレスは真っ赤に染め上げられおり所々、赤く光る金属で装飾を施されている。
 背中には2枚の巨大な赤く燃え上がる翼を生やしており右手には、3メートルを越す炎を纏う巨大な槍をその手に所持していた。
 私達の神衣化が解除されると同時に世界は色を失い時を刻みだす。

―――誰だ?貴様は?

 エンハスから見ると突然、私が現れたと思えるのだろう。
エンハスが光弾を作りながらも困惑しているのが私たちにも分かる。

「コルク!力を借ります。肉体の制御は任せました」
(分かった)

 私は、コルクの力であり属性力"火"を扱う事に専念する。私がコルクの力の源であり魂の源でもあるその火に触れると火は力を増していく。火は炎となり炎は煉獄となる。
 そして私は理解した。
 炎に力を与えることが出来るのは風の力。
 私の……ユウティーシアとしての本来の力、魂の力は風。まさしく音素たる私にふさわしい力。
 私は自分の力を自覚した所で気がつく。
 右手に携えていた槍の炎が変化し赤い雷光に変化していた。

 やっと理解した。
 レオナと初めて神衣化した時は、レオナの神器”雷切"には紫電が纏われていたのに力が引きあがった時のアウラストウルスと戦った時には、雷でなく氷のみが纏われていた。
 それはきっと、私の中には自らの属性をコントロールする力がなかったのだろう。
 私が、心象世界で本来のユウティーシアに力を借りれるようになった事で魂が本来持つの力が制御できるようになった
 以前、風の力が使えていたのは神核がその力を引き出していたのだろう。
 でも今はもう自分でその力がコントロール出来る。

 私達は、背中に生やしていた炎で作られた翼を羽ばたかせると上空に停滞し右手に携えている槍を投擲する構えを取る。
 槍の周囲の赤い雷光は、急速にその力を増していく。それと共に空間に亀裂が入り周囲の力を食らい尽くしていく。

「「穿つは天輪!破城せしは天宝!全てを燃やし砕け!神滅ラグナロク激槍ブレイカー!」」
 右手より放たれた神器が、エンハスが私達に向けて放った光のブレスを燃やし尽くし作られていた光弾を砕き破砕しエンハスの体に突き刺さり巨大な赤い炎の柱を天高く作り上げていく。

―――ぐおおおおおおおおおおお

 エンハスの絶叫が頭の中に鳴り響く。
私達はそれを聞きながらすぐに地上におり神衣を解除する。
全ての力を使い切ったのかコルクはその場で座りこんでしまう。

「ユウティーシア!」
 私を呼ぶクラウス様の手を握り神衣化を行う。

「「神霊融合!!」」

 神衣化した私とクラウス様は、漆黒の炎に包まれているエンハスを見上げながらすぐに互いの心をリンクさせ術式を編みこむ。
 クラウス様の属性である地の力と風の力である私の力が合わさりそれが巨大な崩壊現象を引き起こす力を生み出し手に持つ弓に伝わっていく。
 背後に展開していた数十に及ぶ増幅ビット機は、私達の前方に展開すると魔方陣を作り上げる。
 手にした弓を引きながら生成されていくは崩壊現象を付与した力。 
 狙いをエンハスに絞り……。

「「穿つは天輪!崩壊せしは天宝!全てを射抜け地裂のジリオン!神滅ラグナロク一閃ブレイカー!!」」

 放たれた崩壊現象を付与された矢が、増幅ビットに接触すると同時に数十の閃光となって全てが光龍エンハスに突き刺さった。


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