最強のFラン冒険者

なつめ猫

暗闇の神衣契約

 ―――あと21人か。

 此処にいる私を含めた全ての人影を見て語ったエンハスの声が、この場所にいる全ての人間の頭の中に鳴り響く。
 私は先手を取らせないように転移魔術でエンハスに近づくが、すでにそこにはエンハスはおらず誰かの息遣いが聞こえてくる。

 ―――あと20人。

 私の足元に、胸を貫かれた血まみれの男がエンハスより投げつられてくる。

「エンハス、それでも貴女は……神を語る資格があるのですか!?」
 私は、すでに息絶えた人を見た後に震える声で叫ぶ。

 ―――語る資格だと?ゴミのような物にどのような価値があると言う。
 瞬く時しか生きられず他者を貶め辱め自己の愉悦を追い求める物にどのような価値があると言う?
 貴様は言ったな?人とは知識を継承すると。
 だがその結果、起きた事はなんだ?
 自己の利益だけを追求した結果、より多くの命を奪いつくし歴史を改竄し全てを無かった事にする。
 そのどこに、価値があると言う?
 価値が無い物に、価値が無い物を処分することに対して語る資格など必要なかろう。

「それでも……」

 ―――貴様も気が付いてるだろう?
 人間の本質は悪だ。
 他人を踏みつけ自らを正当化し自ら愉悦を求める。その行為こそが悪に他ならないだろう?
 貴様も長い年月、人間を見てきて分かっているだろう?
 宗教戦争も経済戦争も戦争も全ては人間の悪しき部分を曝け出してるにしか過ぎない。
 我々、神は貴様ら人間を見限っているのだよ。
 人を殺して神にその罪を着せ自己を正当化する道具とする。

 それでもまだ貴様は、私と戦うつもりか?
 人間を滅ぼす事をまだ止めるつもりか?

「―――たしかに貴女の言うとおり、人が駄目だと言う事くらいは理解しています。でも、だからこそ人は少しでも前進しようとしているのではありませんか!」

―――貴様が言ってるのはキリスト教という虐殺集団の事か?何億人も2000年以上もかけて殺して殺して殺して殺して殺しつくして、命乞いをした人間も殺し、老若男女差別なく殺し自分達の権力に邁進したゴミ共の事か?ヤハウェと言う神に全ての自分達が犯した罪を擦り付け、罪から目を逸らし自分は悪くない、相手が悪いと良い訳をし、偽善を行ってるゴミ共の事か?
そのような物は偽善だ。
自らの行いを理解せず自らの罪を直視せずボランティアだと?
そんな行いが誰かの助けになるなど勘違いも甚だしい。

「それでも……」
 私はエンハスを見て彼女の表情を見て気が付いた。
 だからこそ……。

「……ク……ギ……クサナ……ギ」
 力の篭らない掠れた声で私の足に手を添えて……。

「……みんな……を……ぶかを……た……す……」
 ……口元から血を垂らして必死に語りかけてくるエメラスがいた。
 エメラスにも守りたいモノがあると違う、誰でも守りたモノがあるんだ。
 私は、座りエメラスの手を握る。
 そして治療魔法を発動させる。
 でも体が治っていく様子が見られない。

 ―――無駄だ、輪廻を司る者には魂の選定が存在する。その者は罪を犯してきたのだろう?
 なら助かる可能性はない。
 私が処断したのだから、その者の死は確定している。

 私はエンハスの言葉に頭を振る。

 ―――理解しているのだろう?何故、納得しない?何故、貴様の心は折れない?何故、立ち向かおうとする?

 脳裏に響くエンハスの音は、とても苦痛を孕んでいるように思えた。
 エンハスの語る言葉は自身の憤りを含ませた物に思えた。
 だからこそ、私は……。

 「エンハス!私は絶対に、貴女を止めます!!」
 私は、握っていたエメラスの手を強く握りしめる。

 「エメラス、仲間を部下を守りたいなら私に力を貸してください。
 一緒に戦ってください。
 貴女が本当に守りたい物があるのなら。
 貴女が本当に助けたい人がいるのなら。
 誰かを守りたいと思う気持ちが本当なら。
 私と契約をしてください。
 理不尽な運命に立ち向かう力を得るために。
 誰かを守るために正しいと思うその思いを実現させるために」
  私の言葉を聞き、一瞬の迷いもなくエメラスは力を振り絞って私に向かって頷いてくる。

「エンハス!貴女に見せてあげます。人の可能性を!」
 私は心の中で神衣と叫ぶ。
 私とエメラスの間で心のバイパスが形成される。それと同時に世界が時が止まる。
 停止した時の中で……。

「エメラス、貴女はもう私の心の内が見えると思います。
そして私にもエメラスが行ってきた数々の行いを見る事ができます。

最後に聞きます。
今から行う神衣契約は、自分の利益の為ではありません。
誰かを守るために、理不尽な運命から力無い人を守る為に、自らが盾となり剣となり誰かを守る為の力です。それでも、私と共に戦えますか?」

「わかってるさ。クサナギ、アンタの記憶も見たんだ。
それに私の部下達との付き合いもアンタは見たんだろう?なら何も言わないさ」
 エメラスの言葉に私は頷く。

「……なら、ここに契約と制約と盟約を交わします」
 私は透き通った両手をエメラスに差し出し、エメラスも透き通った両手をこちらへ向けてきた。
 私はエメラスの両手を握り彼女も私の両手を握り返してきた。
 二人で頷きあい、契約の言葉を述べる。

「「神霊融合!!」」

 停止した時が、世界が夜の帳が下りてくる。
 それに伴い、私とエメラスの意識を含めた全てが音素に変換されていく。
 闇が集い空間は漆黒に染め上げられた。
 周囲の精神エネルギーを糧とし私とエメラスの音素が重なり合い共振し増幅し合う。
 そして体と器が、神器が編み上げられていく。

 砕けた漆黒の闇の中から現れた姿は、ユウティーシアを成長させた姿であり腰まであろうかという漆黒の髪をツインテールに纏め上げていた。
 開かれた眼はユウティーシアの特徴をもつ黒い瞳をしており腰には2丁のグロックを備えている。


 ユウティーシアとエメラス、2人の神衣化が完成したと同時に停止していた時間が動きだした。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品