最強のFラン冒険者

なつめ猫

虚構の理想

 周囲の景色が一遍し辺りは砂埃舞う砂漠になる。
その場には、ロウトゥの姿はなく私以外の姿を見ることはない。

 手にした杖を持ちながら周囲を見渡すが何も変わらぬ風景が続くばかりで、こちらの出方を伺ってるとも思えない。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム」
 声がした方へ視線を向けるとそこには、私と同じ格好をしたユウティーシア・フォン・シュトロハイムが居た。
見た目はまるで同じに見える。
ただ、髪の色が白銀で眼の瞳がルビーのように赤い。
まるで、お母様にそっくりだった。

「貴女は?」
 私の問いかけに彼女は眉間に皺を寄せながら言葉を紡いで来た。

「私が本来のユウティーシア・フォン・シュトロハイムよ。アウラストウルスが言っていたわよね?私が貴女を心配してると……」
 彼女はそう言いつつもその表情には、苦悶の色合いしか見つける事が出来ない。

「たしかに、貴女は運命に翻弄されながらも頑張ってきたわ。でもね、私には分かっていたの。何れこうなるとね……だからロウトゥと契約したの、白色魔宝石と私が本来受け継いでいた先史文明の魔方式を渡して貴女と邂逅しようとしたの」

「何の為に?」

「かつて古き時代の英雄であり勇者であり召喚された者であり殺戮者クサナギが作り出したモノ、だから何れこうなる事は分かっていたわ」

「それは、昔……夢で見た異世界から召喚されたクサナギが辿った道ですか?」

「そう、この世界はね輪廻を繰り返すシュトロハイム家……いいえ……クサナギ家が背負う業が生み出す本来の世界。ユウティーシア、貴女は気がついてないでしょうけどね、彼も貴女と同じ死人なのよ?」

「――――――!?」

「私達一族は、この世界を滅ぼした時から時の輪から外れたの。
だから、貴女は私達一族に興味を持った。
八百万の人柱であり輪廻を管理する神の人柱であり生と史の境界を守護するエンハスは私達に興味を持った。
そして、貴女はクサナギがその体から作り出したモノ。
だから、貴女はエンハスに見つかった。
おかしいと思わなかった?何故、この世界の外側に居た貴方をたかが八百万の一柱程度で貴女を捕まえる事が出来たのかを」

「一体、何の話をして……」
 彼女は私に向けて独白をしてくるが私にはその話の内容が理解できない。

「やはり、人の感情が乏しいと理解できないのかしら?そうじゃないわよね?だって本当は貴女は全てを理解しているのだから。全ての始まりを貴女に見せてあげる」
 彼女の言葉に私の意識は暗転した。 


――――――夢を見た。
 異世界から召喚された少年が世界を救う為に勇者に仕立てられた。
少年は幼かった。
彼を召喚した王や側近は傲慢だった。
少年は、何の力もない平凡な人間であった。

――――――夢を見た。
 少年は青年となっていた。
彼は、勇者として戦っていた。
魔物を亜人を殺して殺して殺して殺して殺して殺しつくしていた。
彼にはより所がなかった。
幼い頃に拉致された事、保護する者がいない事、そして勇者としての重責。
それらが全て、彼の心を蝕んだ。


――――――夢を見た。
 青年は一人の女性と恋をした。
その女性を守る為に、勇者は自国を裏切った。
だが青年は知らなかった。
どれだけ人間がどれだけ人々がどれだけ民衆が愚鈍で愚かだったかを。

――――――夢を見た。
 世界は残酷であった。
結局、勇者と言うのは戦争の道具にしか過ぎなかった。
判断が出来なかった。
それは幼い頃から戦いの道具にのみ使われてたいたからだ。
利用され利用されて利用し尽された。

――――――最後に夢を見た。
 青年の手には何も残らなかった。
守ろうとした者に裏切られ愛した女性を殺された。
結局は全てを失い彼は人に絶望した。
世界には、世界と勇者しか存在しておらず彼は世界を手に入れた。


「そう、全ては勇者召喚と言う犠牲の上に成り立つモノ。自国の民を犠牲にしないと言う大儀を掲げた偽善が作り出したモノに過ぎない。これが全ての始まりであり全ての基点となるもの。ここから全てが始まった。そしてこれを作り上げた者はもうどこの次元にも存在しない」


 気がつけば私は、先ほどまでの砂漠に居た。



「人の夢、希望、絶望、愛憎それらは思想を思いから一つの奇跡を生み出す。
だけど、決して誰も幸福になることはないの。
何故だか分かる?そこには必ず等価交換が存在するのだから。
無から有が有から無が作り出せないように決してその奇跡は奇跡には成り得ない。
掲げられた理想は理想にしか過ぎないのだから、だから勇者クサナギユウヤは理想に囚われた。
壊した者、壊れた者を取り戻す為に、たった一つ手に入れた世界ワールド再生リバースを使い人を試している」
 そこで私の前に存在する彼女は一度口を言葉を止めた。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。貴女の今の姿は自分を生贄にして他者の思いや記憶も犠牲にして自らが信じる正義のみを行おうとしている。その姿はかつての始まりの男であったクサナギとどう違うの?」

「……」

「分からない訳が無いわよね?消滅するからいいですって?誰の記憶にも残らないからいいですって?それで本当に誰かが救われると思うの?それで本当に誰かを守れると思うの?全てが終わればそこには従来どおりの世界が広がるから問題ない?違うわね、そこには貴女は存在しない。本来のユウティーシア・フォン・シュトロハイムもそこには存在しない」

「存在しない?」

「そう、存在しないわ。だって時の輪から外れているからこそ、私達は存在しているのだから。
消滅すれば私達は存在しない事になる。
そもそも音素はなんだと思う?万物の元素?人と心を通わせるモノ?違うわね。
音素は守護者の別名なの、世界が歪んだ時に生まれる物。世界が壊れた時に全ての守護する者。
クサナギが完成した時、クサナギの元に現れるように貴女は生まれた。対極に位置する存在にしか過ぎない。
貴女が消滅すれば、クサナギも死ぬわ、そしてそれを世界は望んでいる。
そして死ぬ事が出来なくなったクサナギもそれを望んでいる。
誰もが望んで誰もが求め、誰もが渇望する……でも、そんな物にどれだけの価値があると思うの?」
 彼女は何もない空を見上げて誰かに語るように話続ける。

「結局ね、私には彼を救う事は出来なかった。
壊れて壊れてそれでも戦い続けた彼を……。
私達の世界を救う為に、違うわ。偽善の為の犠牲にして彼を傷つけたのに全てを失わせたのに私は彼を守れなかった。
だから、私はずっと待ち望んでいた。
彼を止めれる者を、この狂った輪廻を断ち切る者を、本来の守護者としての役割を持つにたる者が生まれるのを。
分かっているわ、これは全て私の我が侭だと言う事も。
でも、貴女には知っておいてほしいの。
たしかに貴女が死ねば全ての存在が消えて貴女に関するモノは消えるわ。
でも、そこにある者は何かを犠牲にして作られたという事実だけ。
誰かの思想を犠牲にして作られた世界だけ。
貴女には貴女自身をもっと大事にしてもらいたい。
何れ消滅する運命だったとしても、だからこそ愛する人の感情が理解できるからこそ、自分自身を大事にしてほしい。
私が守れなかった彼を救ってほしい」


―――――― 一度、夢を見た。

 誰かを犠牲の上に作られる世界。
 全てが犠牲になり作られた世界。
 どちらも間違いでどちらも正しかった。
 誤りなんて存在しなかった。
 ただ、望んだ結末ではなかった、ただそれだけだったのです。

「召喚、転移そのどれもが本当は間違っている。
何故ならそれは歪んだ時の営みなのだから、だから決して誰も救われないし報われない。
かならず誰かに犠牲を強いる事になる。
それがクサナギでありユウティーシア貴女なのだから。
ヤハウェはそんな犠牲に成り立ってる世界を滅ぼそうとしてるに過ぎない。
彼女も囚われているのですよ。
犠牲の上に成り立つこの世界の在り方に、そして貴女自身も」

「ならどうすればいいんですか?」
 私には、彼女の言ってる言葉が何故か理解出来ないのに理解できてしまった。
 彼女の言う事は、唯一つ。
 誰もが犠牲にならない世界を作れと言う事だった。
 でもそんなのは絶対に出来はしない。
 何故なら……。


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