最強のFラン冒険者

なつめ猫

偽善の体現者

 アリアに私は何て言葉をかけていいのかその答えを見つけられずにいる。
 私は、アリアの言葉の意味を理解してるのに、答えが導き出せない。

「少しいいか?」
 扉をノックする音と共に入ってきた男を見て私は臨戦態勢を取る。
 彼は私が夜会で出会った男だった。

「どなたですか?」
 アリアも何時の間にか泣き止んでいて法皇としての態度で相手に接している。

「私の名前は、軍事大国ヴァルキリアスのユニコーン団長ロウトゥと言う。アリス皇女殿下より、シュトロハイム家の令嬢ユウティーシア嬢に託があって伺ったが取り込み中でしたか?」

「いえ、それではその用件とやらを済ませて出て行ってもらえますか?」
 アリアがにべもなくロウトゥに告げるが……

「リメイラール教会法皇アリア・スタンフォール様。申し訳ありませんが、これはあくまでもアリス皇女殿下の私的な用件でありまして、私とユウティーシア嬢の2人きりにしてもらえますか?」
 ロウトゥは、アリアに部屋から出ていけと促した。
 アリアは私へ視線を向けてくるが私は……。

「申し訳ありませんがアリア、少し部屋からお願いします」
 私の言葉を聞きアリアは悲しげな表情をしたまま唇を噛んで扉から出て行った。
 その様子を私だけではなくロウトゥも見ている事に気がついた。

「なるほど……以前、見かけた時の貴女とはまったく違っているようだ」
 彼は私に視線を向けてきてそう告げてきた。

「どういうことですか?それよりアリス皇女殿下からの託と言う話でしたがどういう事でしょうか?」
 私の言葉にロウトゥが答えたのは言葉ではなかった。
 彼は懐から白い水晶を取り出すと地面に叩きつけて砕き予め用意していたのだろう魔術を行使してきた。

 気がつけば、先ほどまでいた船内の一部屋ではなく、どこまでも続く地面が地平の彼方まで続いている。

「ユウティーシア嬢、あの時は君の器を図りかねていたが、今回はそうはならない」

「どういう事でしょうか?」
 私は、ロウトゥを睨んだまま彼がどのような行動を移しても対処できるように腰を低く落とすと、私の様子を観察していたロウトゥは目を細くする。

「ずいぶんと好戦的になったものだな?どれだけの血を見てきた?どれだけの戦いに身を置いてきた?どれだけの現実から目を背けている?」
 ロウトゥは私に語りかけながらも空間魔法アイテムボックスから片手剣をその手に取り出した。
 私も、背中に背負っていたリメイラールから託され譲渡されたループオブロッドを両手で持ち構えると同時にロウトゥの姿が目の前から消える。

「―――ツ!?」
 甲高い金属音が鳴り響き、ロウトゥが横凪に振るったロングソードを杖で弾く。
 クラウス様にアリアそしてレオナと新装神衣した影響で私の体術と剣術の技量は格段に引きあがっている。目で追うことは出来なくても、体は経験と知識を覚えている。
 次々と迫りくるロウトゥからの斬戟を弾く。
 数十合も剣と杖を交えた後、彼は私から距離を置いた。

「ルグニカ流剣術に教会の司祭が習う護身術である体捌き、そしてリースノット王家のみに伝わる剣術の本流が君から見える。よほどの修練を積んだのか?それとも……」
 今度は、同時に10本近いナイフが放たれ私に迫ってくる。
 瞬時に理解する。避ける事は不可能……なら……。

私はそのまま突っ込み、杖を彼に振り下ろすとロウトゥは信じられないモノを見るように目を見開きながら私の杖をロングソードで受け止めていた。

「ばかな?避ける素振りも見せないだと!?」
 彼は動揺しながらも私の杖を弾くと距離をとって私を注視してきた。

 10本のナイフは私の右腕、両腿に右目や頬や心臓に突き刺さっている。
 私は右目と心臓と頬に刺さっていたナイフを抜く。
 抜かれた後の傷口から血が流れる事はない。
 そしてすぐに杖の効果で傷口がふさがっていく。

「なるほど、そういう事か。これはとんだ勘違いをしていたな」
 ロウトゥは私を見ながらその表情を曇らせていく。

「死人だと理解してるからこそ、ユウティーシア嬢……あなたは人間を辞めたんですね」
 彼はそう私に告げてきたが私は頭を振った。

「私は人間をやめたつもりはありません。ただ、これが一番効率がいいからです」

「人間を辞めたつもりがない?自らの体が傷つく事を恐れず自分を大事にしないのに?面白い冗談ですね。なら貴女は何のためにそれだけの力を手に入れたのですか?」
 そんなのは決まってる。
 私が守りたい世界のため、大切な人を守るための力。
 そのために私は力を振るうし使う。

「決まっています。私を愛してくれた人の為、大切な誰かを守る為、そして私が生まれて育った世界を守る為です」

「自らの命を捨ててまでですか?」
 ロウトゥの言葉に私は頷く。

「最初は違ったかも知れない、でも多くの人と出会い分かれて気がついたのです。私が本当に成すべき事をそれは……」

「……世界と大切な人を守る為だと?自身を犠牲にしてか?」
 私の言葉を続けるようにロウトゥは、言葉を紡いで来た。
 私は彼の言葉を聴いて頷くが、彼の表情には失望の色が浮かんでいた。

「とんだ偽善だ、自分よりも他人が大事だと?貴様は何を言っているんだ?以前のお前の方がずっとマシだった。どんな時でも活路を見出し生きようとしてた貴様の方がずっとマトモだった。
貴様にも親がいるだろう?その親に貴様は私はもう死んでるので心配しないでくださいとでも言うつもりか?それとも言わずに朽ちていくのか?
偽善も大概にしろ!お前は自分の行為に酔ってるだけの愚か者だ」
 彼はそう言うと、一瞬で私の間合いに入り込んでロングソードで右足を切り腹を蹴りつけてくる。
 私はむき出しの地面の上に転がりながらすぐに立ち上がる。怪我をした足もすでに修復されていて行動には支障はでない。

「とんだ聖女だ、何が聖女ユウティーシアだ。今の貴様は自分自身の事すら満足に理解せずに他者を理解してると思い込んでる愚か者に過ぎん!」
 肉薄してくる彼の剣閃を防ぎ弾く。

「私が何を理解してないと言うのですか?」
 彼は私が他者を本当の意味で理解してないと告げてきた。
 彼が放つ斬撃の強さは益々強くなっていく。

「そのような事すら理解出来てないのか?」
 杖が手から弾かれ私の右腕が切り飛ばされるがすぐに杖は私の元へ戻ってきて左手の中に納まり追撃してきた彼の剣を弾くと同時に右腕は一瞬で再生される。

 理解してないと彼はそう言った。
 わたしは彼の攻撃を弾きながら考える。
 そして思い至る。

「それなら問題ありません」
 私の言葉に彼からの攻撃が止む。

「問題ないだと?」

「はい、私は何れ朽ちる身とロウトゥ……貴方は言いました。それは間違っていません。ですが、普通なら誰かが死ねばその記憶は他人の中に残り続けます。それが残された方を傷つける事は理解しています。

ですが、私だけは例外です。私の場合は、消滅をすれば全ての記憶や存在していたと言う証明全てが消滅します。つまり、誰の記憶にも残らない。だから……だれも傷つかないのです」

「そうか……」
 ロウトゥは理解してくれたのか、右手に携えていたロングソードを下ろした。

「貴様は本当に何も理解していないのだな。道理で今の貴様からは虫唾が走るセリフばかり出てくるはずだ。記憶から消えるという事は、貴様は自身を思ってくれている人の思いすら踏みにじる行為だという事も理解してないのだな。なら見せてやろう。他者を守るために己を犠牲にした者の末路を!」
 私の見てる前で彼は豹変し一つの石を取り出してくる。
 それは私が見たことがある物だった。
 でも、あれは私がユークリッド達のために置いてきた物……。
 彼は私の前で魔術式を組み上げ白色魔宝石の力を使い魔術を超える魔法を発動させた。

「これが、先史国家時代に失われた心象魔法。亡者カーズト理想郷アヴァロンだ」



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