最強のFラン冒険者

なつめ猫

アウラストウルスの最後

「なんだ?その姿は?」
 神衣化した私に視線を向けてアウラストウルスは目を見開いて言葉を発してくる。

「アウラストウルス、貴女には関係のないことです」
 私は彼女に告げる。人の心の中に住まい利用する者に教える事なんて何もない。

(ユウティーシア、やつの魔力発動を感知した。迎撃プロトコルを組み込むぞ)
「わかりました」

 私はクラウス様の言葉に頷きながら、アウラストウルスの動きを抑え込んでいたアリアに視線をおくる。アリアは頷くと、術式を維持したままアウラストウルスと距離をとる。

「クラウス、いきます!」
(任せろ。魔力の展開と構成はこちらで行う。術式展開は任せられるか?)

 クラウス様の内面の声に私は問題ありませんと頷く。
意識が神経が心が感情が知識が全てが渾然一体となって私とクラウス様を繋ぐ。
クラウス様がどのような魔力を組むのか私がどのような術式を組めばいいのか理解し合える。

 背後に展開していた三角錐のビットは私の前に移動し六芒星の形に配置されていく。
それぞれが頂点に展開され、クラウス様の魔力が軌跡を描いていき巨大な魔方陣を展開する。
 そして私は手に持った神衣武器である弓を引く。力を少し入れただけで引かれていく弓は、その形を変化させながら周りに波動を撒いていく。引かれた瞬間、私の脳裏に展開されていた魔術を超える魔法である重力魔法の術式が矢となって顕現する。

「神格の位置を確認!放ち穿て地裂のジリオン!神弓一閃エンドオブアース!!」

 放たれた矢が展開されたビットに触れた瞬間、数千の軌跡を残しながら神衣化したアウラストウルスの体に突き刺さる。

「ぎゃあああああああああああああ」
 数千の退魔の矢が精神アストラルサイドに身を置いていたアウラストウルスの体を破壊していくと同時にレオナとの神衣が強制的に解除される。
 神衣化が解除された事と神核を傷つけられた事で暴走を開始したエネルギーの影響からかアウラストウルスは体をよろめかせている。
 とどめを刺そうとしたところでアウラストウルスは、軍事開発実験センターではなく私とアリアが明けた穴から地上に向かってしまう。

(ユウティーシア!)
「はい、分かっています」

 アウラストウルスを追おうとしたところで私は足をつかまれた。

「レオナ?」
 掴んできた相手を見るとそこにはレオナが横たわっていた。
 彼女はすごく消耗しきっている。

「クサナギ殿、申し訳ありませぬ。神衣化をした事でやつの心が、感情が見えました。某は奴に騙されていたのですな」
 私はレオナの言葉に頭を振る。
 自らの肉親を盾に取られたのだ。
 私だってレオナに裏切られた時は、ショックだった。でも、それでもレオナとまたこうして話せる機会が得られた事の方がずっといい。
誤解したまま、すれ違ったまま分かれるなんて嫌だと思う。

「お願いがあります。某に某が行った事の始末をつけさせては貰えませんか?」

「で、でも……」
 それだけ体が傷ついてるのに戦うなんてそんなのは……。

(ユウティーシア、レオナの体には回復魔術が通じる。彼女の回復は私が行おう、彼女には彼女なりのけじめのつけ方があるのだろう?なら、それを手助けするのが友の役目だろう?)

 クラウス様の言葉を聞き、私は……。

「神衣解除!」
 私と別れたクラウス様は、レオナに近寄り回復魔術をかけている。

「ユウティーシア様、勝算はあるのですか?」
 私に近づいてきたアリアが聞いてくるがはっきり言って勝算があるかどうかといえば……。

「わかりません」
 先ほど対峙してた時よりもはるかに強いプレッシャーを地盤を通してまで感じる。きっと暴走し始めた神格エネルギーをアウラウストウルスは制御しきれてないんだ。

「クサナギ殿、いきましょう!」
 すでに回復を終えたレオナが差し伸べてくる手をとり互いに近づく。

「申し訳ありませんでした、信頼を裏切る行為を行ってしまいクサナギ殿を失望させてしまいました」

「そうですね、ですけど……それはこれから返上して頂けるのでしょう?」
 私の言葉に、レオナが頷いてくれる。

「「それでは、いきますか!神霊融合!!」」
 私とレオナの声が空間内に同時に響く。

 その瞬間、世界が凍結し周囲の元素が組み変わり水と氷が私たちを包み込む。
私とレオナの体は音素へと還元し、水の粒子がそこに力を与え増幅していく。
周囲の精神エネルギーを吸収し力へと還元する、それらは一本の氷の刀を作り上げていく。
作り上げられた体と神衣武器から発生した余剰エネルギーは周囲の粒子を舞わせる。
 その中から現れたのは、紫色の髪を頭の上でまとめ背中に流したユウティーシアの面影を残した妖艶な美女であった。開かれた瞳はレオナと同じ紫色の瞳をしており、腰には透明な水晶で作られた日本刀を差している。そして背中には水色の羽衣を展開していた。

(某が不甲斐ないせいでクサナギ殿……いえ、ユウティーシア殿に……)

 神衣化した事で、レオナは私の寿命が自分のせいで無くなったと理解し後悔している。
 でも、どちらにしても私の寿命は神兵と戦うことを選択した時点でいつかは無くなる事はきまっていた。だから……。

「今はそんな事を論じてる場合ではないでしょう。私にもレオナ、貴女にもやる事があるのだから」
(そうですな、我が力存分にお振りください)

 レオナが羽衣に魔力を与え、揚力を生み出すことで地上に向けて飛翔する。数秒で地上に上がると遥か上空にはアウラストウルスが体を抱きながら上がってきた私を憎しみが篭った眼差しで見てきた。

「おのれ……草薙、貴様のおかげで我々の計画は台無しだ。こうなれば貴様を道ずれに私と一緒に世界ごと消滅しろ!」
 神格が暴走していくのを増徴させるかのようにアウラストウルスは魔力を開放していく。

「そんな事はさせない!この世界に住まう者は皆、一生懸命生きてるのよ!私が旅で出会った多くの人達の幸せを貴女達の都合で奪ったり巻き込まないで!!」
(良く言われました!それでこそ、我が主様!それでは、いつもどおりでいきますか?)

 レオナの激励に私は頷く。
 そして腰から刀身が透明な神衣武器雷切から進化したレオナ特有の神衣武器を抜く。
 刀身に纏われていく水滴は音素たる私の振動、音により高振動を発し熱として刀身に蓄積されていく。

「レオナ、体の操作は任せます」
(是!)

 レオナの肯定の言葉を受けとり私は意識を、アウラウストウルスの体内に向ける。高速で移動する神核だけを破壊する。先ほどは失敗したけど、今度は失敗しない。
 何度もレオナと神衣化して戦ってきたのだ。
レオナの癖などはもう分かる。そしてレオナが心の中で思っていた、私を思う気持ちや家族を思う気持ちも今ならきちんと流れてきて理解出来る。
 だから失敗することなんてまったく考えられない。

 私達の前で、暴走し爆発寸前の神核エネルギーをアウラストウルスが解き放とうとする。

「「させるかあああああああ!切り裂き分断し塵へ返せ!氷爆アルテマ神剣ブレード!!」」

 完全にシンクロした私とレオナの同調した意識が神衣武器に伝わり蓄えられた熱はレオナが展開していた単分子氷結と合わさる事で反物質エネルギーを超える力を生み出す。
それらが全てを構成している物質を破壊崩壊消滅させていき神核エネルギーすら相殺していく。

「ばかな!ばかな!ばかな!どこにこれほどの力を!人間程度が何故これほどの力を有しているというのだ!?」
 アウラストウルスがその時になってようやく理解出来ないものを見るようにこちらへ視線を向けてくる。

「「貴女には分からない!エンハスと共に安全な場所から生きてる生物を利用して見下してくる存在には!そして。これこそが本当の神衣の力。人の思いの力だああああああああああああああ」」
 刀身に込める力を最大まで引き上げると同時に神格エネルギーを完全に相殺消滅させたアルテマブレードの力は、神核に食い込みその存在すら完全に破壊し砕く。
その余波が、神核を取り込んでいたアウラストウルスの精神体を完全に破壊した。

「バカな……たかが、人間の分際で……ぎゃあああああああああああ」
 断末魔を上げたまま、私たちの目の前でアウラストウルスは灰となって消え完全に消滅した。

 消滅したアウラストウルスを見届けた後、私とレオナは地面の上に降り立つ。

 そして神衣を解除しそれぞれ地面の上に横たわった。

「なんとかなりましたね」

「そうですな。某ももうクタクタです」
 私の言葉にレオナも頷き返答を返してくれる。そうして横になっていると遠くから、私の名前を呼ぶコルクの声が聞こえてきた。

 頭だけ動かして声がした方へ視線を向けると魔法帝国ジールの王城は見る影もなく綺麗さっぱり倒壊していた。

「……レオナ、これって請求されたりしませんよね?」
 私はレオナに問いかけるけど……。

「どうでしょうか?」
 レオナはそんな風に言葉を濁しながらも私に笑顔を向けてきた。
 私はそれを見て、ようやく自分が本当に何をしたいのか理解した。

 それは……皆が住んでる世界を守りたいということだった。


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