最強のFラン冒険者

なつめ猫

失踪した偽聖女

 毎度ながら本家本元リメイラール教会クサナギ診療所大盛況であった。俺が助けた10人の女性がせっせと接客してくれるおかげで市場近くに立てたとは思えないほど、順番待ちの人は大人しくまっており治療は順調に進んでいる。

「次の方、お願いできますか?」
 俺が外にいる女性に声をかけるとすぐに別の患者さんがテントに入ってくる。それにしても先程からこられる方の殆どが体の一部、もしくは全体が不自然に充血していて張っている人ばかりだ。中には壊死している人だって多い。

「えっとお住まいは東西南北どちらの門の近くになられますか?」

「北門になります。おお、聖女様ありがとうございます」
 男性に話を聞きながらこの町の縮小図にチェックを入れておく。骨折や風邪の症状の人は、この縮小図からは除外してある。今回は、疫病の原因を調べたいからだ。

「ユウティーシアさん、リッツホテルにレオナさんは居ませんでした」
 治療が一段落ついたあたりで、バズーがテントの中に入ってきてレオナが居なかったと言ってきた。今日は、一日ホテルにいると言っていたがどうかしたのだろうか?うーん……まあレオナについては問題ないと思うがどこに行ったのかは気になるな。

「そうですか、ありがとうございます。バズーさんにはお願いがあるのですがいいですか?」
 俺の言葉にバズーが頷いてくれる。

「領主館と教会と冒険者ギルドの様子を見て来て頂けますか?」
 本当はレオナにお願いしようとしたのだが、見つからないなら仕方ない。敵情視察をお願いするとしよう。

「遠くから見てくるだけでいいので無理はしないでくださいね」

「分かった!任せてください」
 頭を下げてバズーはテントから出ていった。しばらくして一人の女性兵士がテントの中に入ってきた。
 彼女は頭を下げると

「2日ぶりですね。城塞都市ハントの領主ズール様の部下イスカです。このたびは住民を助けるために、お力添えを頂きましてありがとうございました」
 兵士が来る事は予想していた。
 かってに診療所を立てて住民を混乱させるなと言う領主のお達しを破っていたからだ。
 捕まるかも知れないと覚悟していただけに少し拍子抜けだった。

「ふふっ、驚いてるようですね。ですが私達兵士が聖女様と事を構える事はありません。代々の聖女様と違ってクサナギ様は戦えるのでしょう?それもウリボウのような巨大な魔物すら消し飛ばせる力を持っていると聞いております。そのような大魔法師と矛を交わしたいなど思う者がいるはずもありません」

「そうですか、それは助かります。あと出来れば身動きの取れない方や重病で動けない方もいらっしゃると思うので調べて教えて頂けますか?この場所まで来れない方も多いと思いますので」

「それは……構いませんが大丈夫なのですか?」
 何が大丈夫なのだろうか?魔力の事だろうか?問題はないが……。

「はい、大丈夫です。こう見えても体は丈夫ですからね」
 細胞のミトコンドリアに命じて体の強化は必要最低限行っている。こちらが認識できないアウトレンジからの攻撃を受けないかぎりおそらく問題はないだろう。

「分かりました。それとレオナ様ですが町を出て鉱山へ向かっていく姿を兵士の者が見かけていますが何か調べていらっしゃるのですか?」

「そうなのですか?」
 うーん、知らないな。そんな話まったく聞いてない。レオナは何をしに行ってるのだろうか?

「はい、てっきり聖女様のご指示があったかと思いました」
 俺どんだけ万能なんだよ。知らないよ、それよりも……。

「イスカさん、領主館は私が治療をしてる事に関して何も言ってきてはいないのですか?」

「はい、それどころか領主館からはこの2日間まったく指示がこない状態です。気になったので私の部下数人を領主館に手配いたしました」

「領主館と言うのはどちらにあるのですか?」
 俺は縮小地図を出してどこにあるのか確認することにする。すると城壁の外に領主館があった。

「城塞都市からは離れていますが、これで指示は大丈夫なのですか?それに壁が無いと魔物に襲われませんか?」

「いえ、それがズール様のお屋敷の裏手は切り立った崖になっており、この町の中をとおり南門を抜けないと辿り着けないのです」
 ふむ……なるほどな。まあ飛行魔術とか無いからそれでいいのかも知れないな。

「分かりました、それで教会にいる偽聖女に関しては?」
 俺の言葉にイスカの顔色が曇る。

「それが偽者の聖女一味は忽然と教会から姿を消してしまったのです」
 は?姿を消したって意味が分からないんだけど……。

「それは何時からですか?」

「私どもが、聖女様を向かえに行ったすぐに姿を消したと報告があがってきておりますので少なくとも4日前からだと思われます」
 つまり俺がこの町に来る前にすでに撤収していた事になるな……。

「偽聖女の方がこの町から出た後はないんですよね?」

「はい、この町は城砦都市ですので、必ず南門以外の東西北の門を通らないと町から出れません。ですが偽聖女が出た形跡がないのす」
 なるほど。それで偽聖女の居場所が分からないとイスカは表情を暗くしたわけか……。
 隔離された場所で失踪する聖女一味と連絡がつかない領主館か。

「ここ最近、領主館に行かれた方はいないんですか?」

「行商人が数組だけですね、特におかしな者が領主館へ通じる南門を通った形跡はないようですが……」
 なるほど、そうなると偽聖女が姿を消した理由がさらに分からなくなるな。

「普通の方は南門は通れるのですか?」

「それは無理です。行商人の方や行政関係の者になります」
 そうするとバズーは通れない事になるな。
 まずはバズーが帰ってきてから情報を一度整理することにしよう。



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