最強のFラン冒険者

なつめ猫

飛行船

「ユウティーシア、気になっていることがある」
 クラウス殿下は、真剣な表情で私を見てきた。

「草薙と言う者が全ての物語の始まりの基点と言うのは納得ができない。そんなに君の知識の中の草薙と言う人物は世界の理に干渉できるほどの者だったのか?」
 私は、クラウス殿下が何を言いたいのか一瞬分からなかった。教授や草薙自身がそう言っていた。世界の理と正すためにエアリアルブレードとループオブロッドを使えと。

「それと……これは後で聞くとしよう。どうせ、レオナと言う者を助けにいくのだろう?」
 クラウス殿下の言葉に私は頷いた。

「駄目です。もう少し体を休めないと……」

「エレンシア、ティアも全てが終わったら帰ってくると言っているのだ。それに体の方もどこにも怪我の後など見られないだろう?」
 お母様がとても心配した表情で私の身を案じてきてくれている、それをお父様が宥めているが……。

「そうですけども、ティアから手を離したらもう戻ってこないように感じるのです」

「……」
 やっぱり親だからなのか、私が醸し出している雰囲気から察してしまっているのか。
 でも、本来の史実どおりの歴史になれば、本来のユウティーシアが戻ってくる、だからお母様は何も心配しなくていいと思う。

 私はベットから立ち上がる。

 すでに体は死んでいるから感覚をまったく感じないし寒いとも熱いとも思わない。体中の運動中枢を司る神経を無理やり音素で動かしてるだけに過ぎない。

「クラウス殿下、魔法帝国ジールは行かれたことはありますか?」

「ああ、あるが……」

「そうですか、そこにレオナとエンハスは居ます。彼らは古代遺跡から別の惑星に移動しようと考えてるはずです」
 私の神格エネルギーを奪ったという事は、神格エネルギーを利用して作っていた細胞分裂などのデーターなども内包されているはず。
 メディデータには細胞分裂がない。それを全て精神エネルギーで代用してるため、人間とは定義されておらず古代遺跡も彼らに道を作りことはしない。
 でも神格エネルギーを持っていれば人として認識される可能性が非常に高い。そうすれば魔法帝国ジールに存在する軍事開発実験センターからの転移装置で月まで移動することも可能になる。

 すでにこの世界に存在する環境開発実験センター、宇宙開発実験センターの動力は私が人として認識された時点で起動しているのだ。
 軍事開発実験センターの動力が起動すれば月までのバイパスが出来てしまう。
 それを止めないと今度は、宇宙規模の厄災が起きる。

「そうか、分かった。シュトロハイム夫妻、ユウティーシア嬢は俺が必ず守りますので任せて貰えますか?」
 お父様もお母様も私の話を聞いて、クラウス殿下の言葉を受けてどう答えを出していいか迷っているようだった。

「分かりました。クラウス殿下、娘を……ティアを必ず守ってあげてください」

「ティア、約束は必ず守るのだぞ?」
 それは私に必ず帰ってこいっていう意味だろう。でもそれだけはお約束できません、もう寿命は尽きているのですから……でもきっと世界が元通りになれば……。
 そしてお母様の方へ視線を向けるとお母様が、抱きしめてきた。

「ティア、貴女にはずっと辛い思いをさせてきてごめんなさいね。全てが終わりましたらもう一度きちんとお話をしましょう」

「はい、お母様」
 お母様はとても悲しい目をして私を抱きしめながら頭を撫でてくる。

「お父様……」
 私はお父様の方へ視線を向ける。お父様もいつもの怒ったような顔でなくやさしい顔をしていた。
 だから……。

「お母様、生んでくれて育ててくれてありがとうございました。お父様……お父様の事は正直苦手でした」
 私の言葉にお父様はショックを受けているようだけど

「でもお父様が私の事を本当に思ってくれていた事は分かりました。ですから……見守ってくださりここまで育ててくれて愛情を持っていてくれてありがとうございました。お兄様方にも、ティアは幸せ者でしたとお伝えください」
 私の言葉を聞いてお母様の私を抱く強さが強くなった気がした。
 でもこれは言っておかないと行けないから。
 私みたいな不完全な存在を……本来のユウティーシアじゃないのに愛してくれたお父様やお母様に感謝の気持ちだけは伝えたい。
 たとえ、私には消滅しか残されてないとしても。私が生きてきた証が全て消えて私の存在していたと言う記憶が全て消えるとしても、この思いだけは「育んでくれてありがとう」と気持ちだけは伝えておきたかった。

 私はゆっくりとお母様から離れる。
 お母様はその美しい赤色の瞳に多くの涙を湛えている。

「行ってまいります、クラウス殿下お願いします」
 クラウス殿下が私に近寄ってきて魔法帝国ジールへ飛ぶための転移魔術を発動させるけど、かなりの時間がかかっている。私を抱きしめてるクラウス殿下からも困惑した雰囲気が感じられた。

「ユウティーシア、君を連れていけないようんだんだがどう言う事だ?」
 クラウス殿下は私へ疑問を投げつけてくる。そう言われても分からない。もしかして音素になった事でクラウス殿下の魔術を妨げてる?そうなると魔法帝国ジールまでは日本と南米のチリくらいの距離があある。陸路か海路で向かうにしても何ヶ月もかかってしまう。そうなるとレオナやエンハスを止めることが出来なくなってしまう。

「――――――どうしましょう」
 まさかの大問題が発生。
 これはかなりのピンチなのでは……打開策を考えるしかない。
私が考えてるときに、部屋の扉が数度ノックされてお父様の許可によりセバスチャンが部屋に入ってきた。

「教皇アリア・スタンフォール様と神殿騎士長コルク・ザルト殿がお目見えになっています」
 え?たしかアルゴ公国からリースノット王国まではかなりの距離があるはず。日本とインドくらいの距離があったはずだけど……たった数日でここまで来れる物なのだろうか?

「分かった。すぐに教皇アリア・スタンフォール様と神殿騎士長コルク・ザルトを通してくれ」
 お父様の言葉を聞くとセバスチャンが2人を呼ぶために部屋から出ていき、数分ほどして2人が私の部屋に入ってきた。

「ユウティーシア嬢、もう体を動かしても大丈夫なのですか?」
 アリアの言葉に私は頷く。聖女としての契約内容をいろいろと問いただしたい気持ちがあるけどそれは今度で良しとしよう。

「レオナが敵に回ったんだろう?なら俺たちも一緒に行ってやるよ。どうせ神衣が必要になるんだろう?」
 コルクが話してくるけど、神衣はお父様やお母様には話してない。
 もちろんクラウス殿下にも……。
 あれは情報の取捨選択が取れず全て相手に筒抜けになってしまう。
 絶対に私が消滅することも伝わってしまう。
 それだけは避けないといけない。

「それよりもずいぶんと早かったんですね?教会のあるアルゴ公国からリースノット王国まではかなりの距離があると思っていました」
 私の言葉にコルクがその顔に笑みを浮かべて窓の外を見るように促してくる。それに従うように窓の外を見る。

「――――――え……ええ!」
 この世界に生まれて一番の衝撃だったかも知れない。
 まるでファンタジー世界を破壊するような代物。
 たしかに神代時代の遺跡が残ってるからあるかも知れないとは思っていたことも1%くらいは思っても居なかったけど、実際見るとこれはちょっと……と突っ込んでしまいたくなる。

 そう、窓の外には流線型の巨大な飛行船が浮かんでいた。






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