最強のFラン冒険者

なつめ猫

危機管理意識が足りない人は盗賊フラグを立てる。

セイレーン連邦の国土の大半はステップ気候であり、沿岸に近づくにつれ砂漠が広がっていく。その為にアルゴ公国からヘルバルド国へ入った後、温度の上昇と沿岸部から吹き寄せる砂が混じった風で俺の髪の毛と体は大変に汚れていた。

生活魔法でバスルームの天井すれすれに水を生み出し、その中に種火の生活魔法を作り出す。それにより水を温め、適温にしてシャワーとして体と髪の毛を洗っていた。

「シャンプーかリンスがほしい。叶わないなら石鹸だけでも……」

俺は今、とても切実な問題に直面していた。俺の髪の毛はかなり伸びており腰よりも長く手入れがメンドクサイのだ。バッサリ切ろうとも思ったが、かなり前にアプリコット先生に女の魔力は髪の毛に宿るのですと言う話を聞いてから枝毛だけ切るようにしていたがさすがにここまで伸びると管理が大変なのだ。

「はぁ……」

溜息をつきながら俺はミトコンドリアに命じて髪の毛の細胞修復を行う。それだけで生まれたての赤ん坊のような髪質になる。ただ以前は、ステータスが視れてた時にこの髪質保持の為の魔力消費みたら魔力が5億ほど減ってた事から魔力の消費がやばい。

たしかに髪の毛に魔力が宿ると言ったアプリコット先生の話はあながち間違いでは無いかも知れない。俺の場合は消費してるけど……。

本当に地球のシャンプーとリンスはすごいな。俺にはそっち方面の知識がないからどうにもならないのが困りものだ。

12歳とは思えない均整の取れた体をシャワーで洗っていき余分な肉がないか確認するが特には問題はなさそうだ。体をタオルで拭くと同時に種火と送風の生活魔法で髪の毛を乾かしていき最後に香油を髪の毛に塗って香を立たせてバスルームを出た。

バスルームは寝室に面していて、バスルームのドアから寝室を見て誰もいない事を確認する。そして寝室に入り、下着をつけた後に古代ギリシア時代の服装に近いキトンを纏っていく。セイレーン連邦ではこの服装が一般的な女性の服装らしく市場を調査するならあまり目立たないほうがいいだろう。最後に髪の毛を赤いリボンで後ろにまとめて完成だ。

寝室から出るとリビングには騎士風の軽装な服装をしたレオナが腰のロングソードの手入れをしていたが、町中で彼女は何と戦闘するつもりなのだろうか。レオナのステータスとか完全に人外の領域なんだがあまり周りに威圧を与えるような事をすると事件が舞い込んできそうで困る。

「レオナ、用意は出来ましたのでそろそろ市場に向かいましょう。このヘルバルド国において王都の次に大きな都市ですので有用な情報があるかも知れません」

「分かりました。すぐに支度をします」

レオナが立ち上がって寝室に向かおうとするが、俺は彼女の腕を捕まえた。

「レオナの寝室には、騎士の甲冑しか無かったですよね?」

俺の言葉にレオナが

「そうですがそれが何か?」

「いや、町の探索にいくだけなのにそこまで重武装が必要かなと思ったんだけど」

「必要です。クサナギ殿は性格と考え方は別として見た目は傾国の姫君なのです。セイレーン連邦は、奴隷制度が残ってる国が大半です。感じなかったのですか?クサナギ殿が馬車から降りた時の男達のあの目を」

レオナが解説してきてるが男なら普通、かわいい女の子だったら生物的本能で普通に視線が移動してしまうと思うのだが、レオナがかなり真剣な表情をしていたから頷く。

「それにですね。コレはクサナギ様は言ってました保険という奴です。こちらに抵抗するだけの力があれば襲ってはこないでしょう」

「―――たしかに」

「それにですね。被害者を出さないという一番の理由もあります」

「被害者?俺のことか?」

俺の言葉にレオナがコイツ、何言ってんだと言う目で見てくるが

「クサナギ殿が暴れて問題を起こして犠牲者を量産しない為です。他国で問題を起こしたらそれは大変な事になります」

「まぁ、そうだが……最悪、お話(物理)すれば何とかなりそうな気がもする」

「それをしない為です!それにそんな恰好では襲ってくれと言ってるような物です」

「分かりました。それではレオナはいつも通りの服装でお願いします」

これ以上、話してるといつも通りレオナの俺が如何に危機意識が足りないかの講義になってしまうので途中で折れた。レオナとか俺が公爵令嬢だと知ってからやけに危機意識が足りないだの男の人に対して無防備だの言ってくるから疲れるんだよな。

そういえば俺とレオナが最初に神衣をしてからレオナは俺が町で移動する際にはいつも着いてきてるな。しかも重武装で毎回ついてきてる。レオナにはレオナの信念があるのだろうし好きにさせておこう。

「分かってくだされば良いです。良いですか?クサナギ殿はもう少しご自分の容姿がどれほど……」

結局、レオナの危機意識が足りない講座を俺は回避しきれなかった。

――――――

―――

2時間後、すでに昼を周り市場は夕飯の買い物をする子供連れの奥様達や夜の為の食材を購入する店の人間たちで賑わっていた。

そんな中を完全武装のレオナとアルゴ公国陛下がつけてくれた20人の騎士のうち2人が遠くから俺を警護していた。すごい要人になった感じがすると同時にこの市場中からのコイツ何者だ?という目線がとても痛い。

「あ、あのーレオナ?やっぱり鎧だけでも私のアイテムボックスに仕舞いませんか?ほら、武器だけは兼帯してて構いませんので」

こんな空気だと話も聞きずらいし他の人の迷惑にもなってしまう。

「はぁ……仕方ありません」

レオナはその場で鎧だけを脱いで俺に渡そうとしてきたので

「待ってください!ここだとまずいです」

さすがに希少なアイテムボックス使いだとこんな人が多い所で見られたら困る。俺はレオナの手を取り建物の間に移動する。2人の騎士は遠くから俺とレオナの行動を見ていたが特には動いてはいないようだ。

「ここなら大丈夫でしょう。鎧を貸してもらえますか?」

建物と建物の間の狭い路地で誰もいない事を確認するとレオナに鎧を渡してもらいアイテムボックスに仕舞う。

「それでは、市場探索にい「おいおい偉い別嬪さんだな!少し付き合ってくれよ!」」

後ろを振り返ると数人の皮で作られた鎧を着て砂漠特有の武器であるタルワールを腰に下げた盗賊もどきが5人居た。

「ほら、私の言った通りだったでしょう?」

レオナは満足気に俺に言ってきたが、鎧をアイテムボックスに入れた途端にこんなイベントが起きるなど誰が想像できるだろうか?世の中は理不尽でいっぱいだ。




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