最強のFラン冒険者

なつめ猫

予期せぬ顧客

『本家本元!リメイラール教聖女カイジン・クサナギ治療所』を立ててからすでに3日が経過した。

アルゴ公国騎士団の方々が毎日のように怪我をしてなくても治療と称してテントによく来る。その割合は若い男性の方が多い。まことに困ったものだ。怪我がないならがんばって座天使サマエル君と戦ってほしいものだ。

そしてアルゴ公国の近衛兵が何故か数人、俺の警護につくことになってしまっていた。2人とも男性でよく変な目でこちらを見てくることからあまり近づいて欲しくないことからテントの入り口に立ってもらっている。そしてレオナと言えば、やることがなくなってしまっているのでテント内の隅っこで魔法の練習をしている。

「聖女様、シュタイン公国陛下が起こしになられました。」

ふむ。俺が頑なに人々の治療のために、ここから動きたくないと言って王宮へ行くことを拒んだからなのかとうとうシュタイン公国陛下自らが来たようだ。

「わかりましたわ」

俺は、外で待機していた近衛兵に返事を返し席から立ち上がる。そしてテントから出るとすでに日は上がっていて眩しさから一瞬ふらつくが入り口で待機していた近衛兵が支えてくれた。その際に俺の胸に手が触れたのはノーカンにしておいてやろう。

「大丈夫ですか?聖女様。やはり少しお休みになられたほうが?」

「いいえ、皆さんが頑張っていらっしゃるのに私だけが休むわけにはいきませんわ。それに怪我をしていらっしゃる方もいるかも知れませんしいつ急患の方が来られるかわかりませんから……」

「そうですか……」

俺の言葉にとても感激してる近衛兵を見て少しだけ罪悪感が沸くがすぐにそれを押し殺す。そして前方を見ると立派に装飾された馬車が近づいてくる。こんな戦場まで馬車で来るとか正気だとは思えないんだが……。まぁ公国騎士団だけは一日毎に切れる中級身体強化魔術を全員にかけてるからここまで被害が来ることなんてほぼ無いから問題ないか。

馬車は俺の目の前で止まると、イケメンな金髪の男が馬車から降りてきた。

「シュタイン公国陛下様」

と何人もの騎士が膝を地面につけて臣下の証をとっていくが俺は立ったまま何もしない。何故なら俺は彼の臣下ではないからだ。俺の態度に男は少し不機嫌になっていたが

「貴様が聖女カイジン・クサナギか?」

「はい、作用でございます。シュタイン公国陛下様」

答えながら見事なカーテシーを披露する。それを見てシュタイン公国陛下の表情が変わるのを見逃さなかった。

「なるほど、見事な貴族の作法だが生まれは貴族か?」

「さようでございます。生まれはリースノット王国でございますわ」

どうせ聖女アリアが俺の出生を知っているのだろう、隠す必要もない。少し調べたらバレる事なのだがら嘘をつく方がデメリットがでかい。

「そうか、だが何故にリースノット王国の貴族がこの場にいるのだ?」

「はい、私はリメイラール様から信託を受けたのです。このアルゴ公国に危機が訪れると聞き訪れました」

「ふむ、従者が見当たらないようだが?」

従者ねえ。レオナを従者にしても良いんだが国が違うんだよな……。レオナを従者とか紹介すると色々問題が起きそうだし痛い腹を探られるかもしれない。どうしたものか……。

「私は、リメイラール様より一人で旅をして見聞を広めるように信託を受けました。そのために家族に内緒で出てきたため、従者はおりません。幸いですが旅の途中でも出会う方が皆、リメイラール教を信仰される方でしたので今まで不自由をした事はありませんでした。全てはリメイラール様のお導きと思っております」

「そうか。ところでどんな傷や病、怪我すら治せると聞いておるが真か?」

「シュタイン公国陛下様、申し訳ありません。それはお聞き違いかと存じます」

俺の否定の言葉にシュタイン公国陛下の表情が固くなっていく。

「ですが、私は自分の魔力を呼び水として患者を治療してるだけです。あくまでも治療を行い完治するかどうかは日頃からどれだけ品性公平に善意を行ってきたかの結果に過ぎません」

「わかった。貴様の腕前を見せてもらうとしよう」

シュタイン公国陛下が後ろを振り返ると馬車から一人の少女が降りてきた。ドレスを着てる事とその上品な仕立てからかなり位の高い貴族の女性というのが推測できる。ただ、その女性の顔半分は仮面がつけられていた。

「私の娘のカナリアだ。リメイラール教会本部の聖女アリア様ですら治せなかった傷なのだ。カナリアよ、傷をこの聖女に見せてやっておくれ」

「はい、お父様」

カナリアと呼ばれた王女さんは、どうせ直らないのだろうと寂しげな眼差しのまま仮面を外して素顔をこちらへ見せてきた。頬には裂傷の後があり状態からかなり古い傷のように見受けられる。

「これは何時頃の傷でしょうか?」

「幼少期の頃に園遊会でな……それより直せるのか?直せないのか?」

俺は鑑定をしつつ、彼女が殺人系スキルを保有していないかを確認する。

そして……

「私の力はあくまでもリメイラール様の力を自身の魔力を呼び水として使うだけです。怪我が治るかどうかはその方の普段の行いです」

俺は手を翳しヒールと唱える。とたんに王女カナリアの顔の傷があっという間に消えてなくなる。

「―――!?カナリアよ……」

「お父様?どうかなさったのですか?」

「ルベルトよ、鏡をもてー!」

「はっ!お持ちいたしました。」

ルベルトと呼ばれた執事服の男性はすぐに鏡を馬車から取ってきて王女カナリアに差し出す。鏡を受け取った王女カナリアが鏡を見て驚きのあまりその動きを止めていた。しばらくすると実感が沸いてきたのだろう。目の涙をためて

「お、お父様……わ、私……」

とシュタイン公国陛下に抱きついて涙を流し始めた。シュタイン公国陛下も何度も頷きしばらく王女カナリアさんをあやした後に俺に視線を向けてきた。

「これは失礼……無礼な言い方をして申し訳なかった。貴女を試すような事をしたことを謝罪する。娘の傷を治してくれたこのお礼どうすればいいだろうか?」

「全ては普段から品性公平に善良な行動をしていたからだと存じあげます。リメイラール様はカナリア様の善良なる行動を見ており加護を与えてくれただけに過ぎません。私の力ではありません」

俺の謙虚な言葉にシュタイン公国陛下は驚いているが俺もまさか王家相手に恩が売れるとは思っていなかったので想定外であった。きっと近衛兵を配属したのは娘を治療したいと願う親心が少しでも可能性があるなら俺を逃がさないとした結果なのだろう。

―――まぁそれならそれで。

「差し支えなければ、この国の騎士の方々は今、精一杯国を守るために戦っていらっしゃいます。騎士や冒険者の方々に激励のお言葉でも頂ければ士気が上がると思います」

俺の言葉にシュタイン公国陛下は偉く感激したようで仕切りに頷いている。

「なるほど、これが本来の聖職者の姿なのだな。今までは教会が何かと寄進をせがんで着ていたがそうか……これが聖女なのか。うむ……わかった。貴女のその純真な願いと思いに私も答えよう」

シュタイン公国陛下は周囲の騎士達に指示を出してるようだが、そろそろ治療に戻らないとほかの人の迷惑になってしまう。

「それではシュタイン公国陛下様、カナリア様。私はまだ待って頂いております方の治療がありますのでこれで失礼いたします」

それだけ俺は告げると彼らから離れた。クサナギ様素敵!とかカナリア様から聞こえたがそれはスルーしよう。女同士でそういうのはやめてほしい。




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