最強のFラン冒険者

なつめ猫

暗躍する慈善団体

「クサナギ殿、購入してきました」

テントに入ってきたレオナが開口一番に語った。

「そうですか、ありがとうございます。それでは夜に向けての治療の為に篝火を炊いて頂けますか?」

「分かりました」

俺はテントの中に戻り、これからのことを考えていく。教会というよりもアリアの力を削ぐ為には一日、二日じゃ駄目だ、もっと長い時間をかけないといけない。

「聖女様、少しよろしいでしょうか?」

最初に俺を呼びにきた騎士がテントの中に入ってくる。

「はい、どうかいたしましたか?」

「実は聖女様に我が公国騎士団全員にリメイラール様の加護を与えてほしいのです。先ほどの加護を与えて頂けた者達の活躍は凄まじく全員が受けられれば戦況も有利になると思いまして……」

ふむ……。そのくらいなら問題ないか。どうせ座天使サマエル君とか強すぎて100倍にステータスが上がっても倒せる訳ないし。

「分かりました、案内して頂けますか?」

「すでにこちらの前に集めております」

俺は両手で口元を覆い驚く仕草を演出しながらかなり信頼されたなと口元で微笑む。

「申し訳ありません、私の力が至らないばかりに……」

「いえいえ、そんなことありません。戦闘を行う者だけではなく住民も無償で診てくれていては仕方ありませんよ」

俺は椅子から立ち上がるとテントの外へ出る。そこには1000人近い兵士が居るようだが戦況維持は大丈夫なのだろうか?横目でチラッと座天使サマエルの方へ視線を向けて鑑定をするとダメージはほぼ無いようだ。ただ攻めあぐねている姿が見える。ふむ……人間相手じゃない場合は力を発揮しない?でも耐久は健在のようだし今一わからないな。

「聖女様?」

「いえ、何でもありませんわ」

「それでは、参ります!リメイラール様の御名の下に戦う勇敢な勇者達へ加護を!パワーオブディフェンス!」

魔力量がごっそりと減る。いまの魔法発動で1000万は持っていかれたか?消費魔力は一人1万という所だな。そういえば前にアリーシャが中級魔術であるパワーオブディフェンスは他人に掛ける事が出来るが効率が非常に悪くMP消費も通常の身体強化魔術が5としたら20は使うから使い勝手が悪いと言っていたな。

つまり1万の魔力を消費するってことはステータス上昇率が通常のパワーオブディフェンスの50倍増えたとしても魔力消費量が500倍になるからひどいコスト増になる。

だが絶対魔力量が多い俺にはあまり問題ないし逆に神秘性を上げてしまえるからかなり使い勝手のいい魔法だな。それに普通の魔法師ではこんな芸当は出来ないだろうしと出来たらこの世界の基準値の人間やめてるしな。

「これは、力が湧き上がってくる」
「これが聖女様の力なのか?」
「今ならあの技が使えそうだ」
「指揮しかしない聖女とは一体……」
「だよな!聖女って言うんだからこのくらいは出来ないとな……」

アルゴ公国の騎士達が何か言ってるが聞こえないフリをしておこう。

「皆さん、まだ動かれないでくださいね、かなりお疲れのようですからヒールを致しますので終わりました方から戦列に戻ってくださってくださいね」

「ヒール」

「ありがとうございます。聖女様、それでは!」

ヒールを受けた騎士は戦列に走って戻っていく。それから30分後、全員にヒールをした俺は最初に呼びにきた騎士に感謝された。どうやら彼はアルゴ公国の騎士団長だったようだ。

やれやれ……表面を取り繕うのは疲れるな。

「クサナギ殿、用意ができました」

どうやらレオナが篝火を設置してくれたようだ。俺はそのままテントの中に入っていく。そしてレオナが手配してくれたのだろう、ベットをアイテムボックスへしまう。ここにベットがあったら頑張ってると言う印象を与えないじゃないか。

「クサナギ殿、少しは体を休ませませんと……」

「大丈夫です、今が正念場ですから」

「そうですか」

とだけ言うとレオナは外に出て行ってしまう。おれは少し気になってテントの外へ出ると教会の修道服を着た女性が近づいてきた。彼女の表情はかなり剣呑としていてヒールを受けにきたようには見えないが、鑑定するとMPは1になっていた。まあ0になると昏睡状態になるからな、ぎりぎりで何とか抑えているのだろう。

「貴女がリメイラール様より信託を受けたとホラ吹いてる自称聖女ですか?」

もっと前に妨害工作要員をアリアなら手配すると思っていたが結構時間がかかったな。それほど戦場に余裕がないのか?それにしてもアルゴ公国での俺の立ち場はかなり確立されているのにコイツは気がついていないのか?

民衆からお金を巻き上げ教会の権力を拡大させるために私利私欲のために治療師を囲う教会に所属してる治療師と無償で誰にも分け隔てなく治療を施し軽い怪我だけではなく先天的な病すら治すこの俺が扱う超絶的なエリクサーヒール。

民衆から見たらどっちが本当の聖女なんか一目で分かるようなものだけどな。しかもこちらは大陸最古の王家リースノット王国の次期王妃として徹底的に作法を仕込まれた生粋の令嬢。それに比べて聖女アリアと言っても所詮は王家に連なるまでの作法を受けていない。そこには雲泥の差がある。

しかも容姿に至ってはたしかにアリアは美人で白銀の髪は神秘性があるだろう。だが、俺はそれを遥かに超える美少女だ。しかもアリアと一番違う点は貴族の作法を知ってるのに冒険者の格好をして危険な場所にまで赴いて信託まで受けて治療を施していることだ。教会が大陸の危機に戦うのは当たり前だろう?だが俺はそうではない。

場の雰囲気がおかしいと思ったのか俺を自称聖女と発言した女性が回りと見渡してうろたえている。

「たしかに、私がリメイラール様から信託を受けたと信じられないかも知れませんわ。それでも私はリメイラール様から受けた信託を成す為にここに居ります」

俺の治療を待つ騎士だけではなく町の住民もようやくリメイラールの修道女が俺に対して偽者!と言ってる事に気がついたのだろう。ただ、俺にはすでに実績がある。実績は信用につながり信頼の元となる。すでに俺が治療した数はかなりの数にのぼり本来なら一度に同時に複数人に掛ける事が出来ないステータス上昇魔術までも使いこなしてる。これが神の力でなかったら何だと言うのだろう?と普通の人間なら考える。まあ人は自分の信じたい事しか信じないからな……。

「ですので私は貴女もお救い致しますわ」

俺のヒールで文句を言いにきた修道女の疲労状態であったステータス異常の回復とHPと魔力量を全回復させる。

「!?」

「気に病むことはありませんわ。全てはリメイラール様のお導きですから……クレメンテさん、貴女のお力が回復したと言うことはその信仰は本物なのでしょう。私の力は、かけられる方の信仰心が強ければ強いほどその力を発揮するのですから」

「お……」

「お?」

「覚えていなさいよおおおお」

捨てセリフを吐いたままクレメンテさんは、走り去っていってしまった。ふむ……鑑定魔法で相手の情報を読み取って何でも知ってますよ?という実演をしたのだがやりすぎてしまったようだ。

「さて、治療を致しますので順序にテントに入ってきてくださいね」

俺は外に並んでる人へ話しかけるとテントの中へ足を踏み入れた。そして現在並んでる人の比率を一目見て考察する。回復の主な騎士の内訳の9割はアルゴ公国の騎士団。時折一目憚るように教会騎士団は来る程度で残り1割は鎧の形式が違う事から冒険者だとは思う。きっと冒険者ギルドへ参戦の手配をかけているのだろう。冒険者ギルドは国の管理の下に動いてるらしいから断りきれないのだろう。

そして今並んでる内訳としては1割が冒険者風とアルゴ公国騎士団所属してる人が数人であとは全員、町で暮らしてる方の服装だ。つまり治療内容は今回の襲撃で怪我を負って後回しされた町の人にシフトしてきたわけだ。

「聖女様、見ていただけますか?」

「はい!そこへお座りくださいませ」

俺はテントに入ってきた老人へ笑顔を向けた。



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