最強のFラン冒険者

なつめ猫

盤上の破壊者

聖女が出ていくのを確認した後、俺は部屋の中を見渡した。そして自分が見えていなかった事を理解した。

「これは……ひどいな」

俺は苦笑いを止める事が出来なかった。何故ならこの部屋は壁は存在しているが1面が100メートル近くあるのだ。それなのに一面が一つの大理石で作られているのだ。この世界の技術では、俺の世界でもこんな建築方式は無理だ。

「―――さて、何が出るかな?」

魔力を体に纏わせていくと体中に張り巡らせていた魔力が霧散する。魔力行使が妨げられている?
俺は周囲をもう一度見渡すが、柱もなくあるのはアンティーク家具とソファーとベットだけだ。俺の魔力の妨げをするような物があるようには見えない。
この感じはまるで、そう奴隷の枷をつけられた時のようだ。

それなら……。

しばらく待っていると扉を開けて数人の身の回りの世話をする女性たちが入ってくる。服装は白い修道服であったが俺は彼女たちに近づくと魔力拡散を視野に入れたボディブローで意識を刈り取る。
もちろん、俺に手加減なんか出来る訳もなく女性たちは数メートル浮いてから大理石の床に落下していたがヒールをしておいたので問題ないだろう。

「さて……」

「どこに行かれるのですか?」

部屋から廊下に出ると俺をここに連れてきた勇者がいた。勇者は俺の足元に倒れてる女性を見ており言い逃れはとても厳しいが……。

「少し町まで様子を見にいくだけです」

もう、どうとでもなれー。

「やはり聖女アリア様は、ユウティーシア様の様子が視ていたのと違うと仰られてましたが本当のようですね」

俺に語りかけながらもゆっくりと淀みの無い歩みで勇者が近づいてくる。さて、神衣以降の霞がかった思考もクリアになってる事だしそろそろ俺の本気を見せるのもいいかもな。

「ごめんなさいね。恨みはたくさんあるんですけど思いっきり殴らせていただきますね」

俺はニコリと微笑む。そう何を俺は弱気になっていたんだ?魔法帝国ジールが婚姻問題を上げてきた時も国の中心部に魔力にものを言わせて火と水魔法を打ち込んで水蒸気爆発で国ごと吹き飛ばせば良かったじゃないか?ここの所、少し人に配慮しすぎだろ?

「覚醒してるだけならまだ知らず魔力量が多いだけの女性に私が負けるとでも?」

勇者コルクの野郎は自分の優位性を確信しているようだが、俺にとってそんなのはどうでもいい。
俺は100万の魔力を全て肉体強化に回す。部屋の中から出たからなのか魔力が拡散される様子はない。一瞬で勇者の懐に飛び込むと腰を回転させながら勇者の来てる鎧ごとゴッドブローで打ち抜く。

「ぐふえぶぁ」

何かを発言して錐もみしながら廊下と水平に飛んで行き柱を大理石の柱を数本叩き折りながら止まったようだった。俺はゆっくりと近づきながら中級魔術を唱える。きっと勇者って言うくらいだから丈夫だろうしHPと魔法抵抗値も高いだろう。

「ファイアーランス」

俺の言葉と同時に音速を超えた物質化された炎の槍が勇者が倒れた場所へ突き刺さり爆発を起こす。ふむ、頭の中で魔法式を組み込む。その際に魔法式が与える影響数値を少しづつ弄ることにする。

「ファイアーランス!」

次に放たれたファイアーランスは2本に分かれていた。なるほど、複数の魔法式ここか?ふむふむ

「ファイアーランス!!」

10本近いファイアーランスが勇者が飛んでいった場所を爆撃していく。ふむ、なるほどな。まぁ俺としても婚姻話を有耶無耶にしてくれた勇者や聖女には文句はないんだが、俺の知らない所で物事を進められるのは気持ちいい事じゃないんだよな?だから手加減はするがきっちりと落とし前はつけさせてもらう。

「ふぁいあああああああああああ」

通路いっぱいに生成された鉄の槍。

「らあああああんすううううううううう」

数百に及ぶ鉄の槍に炎がまとわりつき一斉に周囲の壁を溶解し柱を蒸発させ勇者が居たと思われる部分を完膚なきまでに破壊し尽した。

「はぁはぁはぁ……」

視線を後ろに向けるとそこには勇者コルクが立っていた。ただすでに満身創痍の状態であり両手が折れており鎧の大部分が剥がれ落ちていた。

「し、信じられない。予言とはまったく違う。もっとお淑やかで我々を守護する戦の女神と聞いていたのに……何故、私達にこのような事を……ガハッ」

血を吐きながら何か言ってるがそんなのは俺の知った事じゃない。そもそも体は女かも知れないが心は男だぞ?お淑やかなんて物は1%も存在してない。そもそもアポイントも無しで拉致を慣行するような奴らを何故、この俺が守護しないといけないのだ。

「そうですね」

俺は近づきながらヒールをしてコルクが俺に回復させられた事に驚いた所で顔面に拳を打ち込む。コルクは床を転がっていくが俺はそこに追撃のファイアーランスを打ち込む。

ズドドドドドド……連続したファイアーランスの爆撃は勇者コルクの体を宙に舞わせその身を躍らせる。それを見ながら俺はいまだに彼が腰から武器を引き抜いていない事に驚きを禁じ得なかった。
俺との戦力差がこれだけあるなら普通は武器を抜くはずだろう?俺ならたとえウサギが相手でも抜いている。

「どうしたんだ?」
「キャー建物がー」
「これは一体どういうことだ?」
「ばかな?戦女神様がご乱心だと?」

まぁいろいろ聞こえてくるがそんなのはどうでもいい。とりあえず声が聞こえてきた方にファイアーランスをぶちこんでおく。なんかギャーと言う声も聞こえてるかあとでヒールしておけば問題ないだろう。
それよりも、まずは情報がほしい。町に安易に行けないなら勇者とお話(物理)して話を聞こう。

当事者から聞けば一番分かり易いだろう。

俺は床に転がってる勇者を見てやさしく微笑んだ。そしてヒールをする。もちろん俺のヒールはかなり万能で誰に傷も治る。

「ど、どうするつもりだ?お、お、俺は勇者だ!いくら君が戦女神の器のユウティーシアだと言っても絶対に口は割らないぞ!」

「そうですか?仕方ないですね。やっぱりお話(物理)しないとダメですよね?」

右手に魔力を貯めたまま俺は勇者コルクの腹を打ち据えた。





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