最強のFラン冒険者

なつめ猫

盤上の思考

勇者コルクと神官イザッハに連れられて天蓋が存在しない回廊を歩いていると正面から一人の女官が歩いてくる。
そして跪くと

「コルク様、魔法帝国ジールへエルベスカ、ルフンダルク、ヘルバルドの3国が侵攻を開始しており、それに伴い魔法帝国ジールからは第11魔法師団が海上で迎え撃つようです」

と告げてきた。

「それは聖女アリア様には?」

「報告の必要はありません。アリア様はすでに詠んでいらっしゃいます。上げる必要もない話です」

「わかった、各国の英雄には勇者がいくまでには海上国境線を突破しておくように伝えておいてくれ」

「わかりました」

女官はそれだけ言うと立ち上がり俺達から離れて行くが

「コルド様、まさか本当に戦を仕掛けていらっしゃるのですか?」

理解できない、センレーン連邦の軍事力は10万にも満たないのに魔法帝国ジールの軍事力は40万を超える。しかも魔法帝国ジールは常備魔法が使用できる軍事力が40万だ。一般の兵力も含めれば200万を超える。そのような軍事大国に戦争を仕掛けるなんて正気とは思えない。

「ユウティーシア様の危惧も分かりますが勝算のない戦いは致しません」

コルドの代わりに答えたのは神官イザッハであった。

「どういうことですか?」

20倍近い兵力を覆すほどの技術や戦術があると言うのだろうか?孔明でもいるのか?

「これです、ユウティーシア様」

コルドは、腰に差していた剣を引き抜いてみせた。その刀身は透き通っており淡い光が刀身の中で動いているのが見られる。

「その剣がどうかしたのですか?」

わからないないが、コルドが見せる刀身の形はまるで神衣時に使用した雷切にそっくりだ……が……?

「まさか、その武器は?」

「コルド様、それ以上は」

コルドの言葉をイザッハが止める。それに対してコルドは頷くと言葉を紡いでくる。

「申し訳ありません、ユウティーシア様。今の貴女様にはこれ以上は教える事は出来ません。アフラニスカと申し上げても理解できないでしょう?それに明日にはアリア様がご説明されるという事ですので……」

「分かりました」

判断材料が少なすぎてどういう状況に陥ってるのか理解が追いつかない。神代殲滅兵器ラムド、神代破壊兵器エルザルド、神代損滅兵器ブルザルドを持つ3人の英雄を要する国を止めないといけないのに……。

「――――――っ!」

「どうかなされましたか?」

イザッハが倒れそうになる私を支えてくれるが、違う。何を今、考えていた?俺は……。自分が自分では無くなるようなこの感じ一体何が起きてる?イザッハに連れられながら歩いていくとようやく部屋にたどり着く。部屋に入るとそこは総督府とは比べ物にならないほど豪奢な部屋であった。広さで言えばもはや部屋という定義を通り越している。一辺が100メートルもある室内を部屋と言うのだろうか?

「それでは、すぐに身の回りの世話役を呼んで参りますのでお待ちください」

イザッハは俺をソファーに下ろすとすぐに部屋から出ていく。
神代移動兵器エアルアルブレードを持つこの時代の勇者を見上げて私は空ろな頭の中で今後の事を考えていきます。この後は侍女達に沐浴を任せて寝る歴史だったはず。それで問題はないはず……違う!先ほどから多くの知らない知識が頭の中に浮かび上がってくる。
これは一体なんだ?俺は浮かび上がってきた知識を振り払うように頭を振るう。

「どうかされたのですか?ユウティーシア様」

いつのまに跪いていたのだろうか?コルドは草薙の淡く白く光る瞳を見ながら語りかけるが草薙には彼が何を言っているのかボンヤリとした思考で理解できずそのまま眠りに落ちた。

―――――――――

――――――

―――

ここはどこだ?気がつけば俺は、何も無い空間に佇んでいた。そこは俺を転生させたアルファの世界に似ていた。その世界に一人の少女が現れた。

そして少女は

「初めまして、死と生を望む全ての生物の終着点にして壊れた者よ」

少女の言葉は確信を得た力が含まれていた。
俺は少女の言葉を聞きながら考えるが少女が何を言っているのか理解が出来ない。
死と生を望む?どういうことだ?

「何を言っている?」

俺の言葉に少女は首をかしげた。

「本当に分かってないの?この世界を作り出したのは草薙雄哉、貴方自身なのに本当に理解してないの?」

俺がこの世界を作り出した?理解していない?何を……。

「そう、ずっとずっと願っていたから心が壊れたのね。それでも生に執着する、本当にすごいよね?それで私ですら作り上げ内包できる世界を作れるのだから人間って本当にすごいよね。でもそれだけに、とても悲しい生き物だよね。神や世界ですら作り上げる事が出来るのに消滅を望むなんて私たちには理解できないよ」

「何を言ってる?」

「ふふふ、楽しいよね」

楽しくなんてない。この少女の言葉は一々感に触る。

「でも良かったわ、本当はもっと早く草薙雄哉と接触するはずだったのに、ユウティーシアに邪魔されていたから中々あえなかったの」

ユウティーシアに邪魔されていた?つまりどういうことなんだ。

「俺の事じゃないよな?」

「当たり前じゃない、本来の史実であるユウティーシアよ。だって草薙雄哉、貴方は本来もう存在していないのだから」

俺が存在していない?本来?史実……つまりここは時間軸がずれている?つまり俺が本来存在している時間軸とは違う?でも何故この少女はそこまで知っている?

「つまり、お前は何者なんだ?」

「まだ分からないの?これだけ説明してまだ理解しないの?それとも気がつかない振りをしてるの?怖いの?そんなに真実に目を向ける事が?違うよね?貴方はずっと論理的に物事を推し進めてきたよね?

長い長い長い長い時、一人罪悪感を心の中に溜め込んで死ぬ事が出来ずに滅びる事が出来ずにそれでも未来を諦める事が出来ずに人が怖い人から離れたい人から嫌われたくないからって必死に笑顔と言う仮面を作って自分を取り繕って生きたよね?

人が嫌いなのに愛してるのに死にたいと願っていたのに死ぬ事ができずにずっと草薙雄哉、貴方は悩み続けて自問自答しながら時を浪費してきた。

そんな貴方が作った私を分からないなんて言わせないよ?壊れた寂しがり屋の罪悪感の象徴」

「――――――精神の調停者」

一瞬思い浮かんだ言葉を口に出した。

「正解です。アウラストウルスの証明よ、貴方と会う事をずっと待っていたわ」

少女はユウティーシアとまったく同じ表情で学生時代の男の姿の草薙に微笑んだ。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品