最強のFラン冒険者

なつめ猫

襲撃者

地軸移動つまりポールシフトは、星の地磁気が反転もしくは移動することを言う。それにより大陸の気候などが一瞬にして変わる。

「そんな事がありえるのか?」

―――――肯定。この世界11の大陸に分かれていました。それが時空融合により磁場の反転と大陸の隆起によりほとんどの人類は死に至りました。現在、時空再生の際に発生した膨大な精神エネルギーを消費するためメディデータに精神エネルギーを触媒とした精神感応技術つまり魔法や魔術と呼ばれている物を使わせてる状態です。

「―――――つまりそれでどうしたいんだ?」

魔法師が使う魔術、それが精神エネルギーを消費するための物だとしたら消費しないといけない理由がわからない。

―――――精神エネルギーは輪廻の輪を構成するために必要な物ですが、この星アガルタにおいて純粋な人間はいません。そのため、人間は誕生せず輪廻の輪は停滞しています。消費されない輪廻の輪は最後には破綻し因果消滅を引き起こします。そのために消費が必要となります。現在、輪廻の輪の精神エネルギーを消費するために調整したナノマシンで構成されている貴女の体を含めたメディデータにより星の復旧を行ってる最中です。この事実は禁則事項にあたりメディデータには……。

唐突に部屋内に響いてた音声が唐突に消え青白く照らされていたドーム内が赤く照らされる。

―――――時空干渉を確認。出現予想地点はルグニカ王国衛星都市エルノ南3キロ上空10キロ。草薙雄哉は至急ここから退去してください。貴方を狙ってきた者と推測されます。草薙雄哉あなたは、現在、魔法帝国ジール帝都に存在する精神科学施設へ赴いてください。

「話の途中で切り上げられても困るんだが?とりあえず敵が現れたってことか?」

―――――肯定。

「―――――ふむ」

自分の魔力量を鑑定する。すでに魔力量は37億まで回復してる。これならどんな相手でも戦えるはずだ。

「分かった。もう少し話を聞きたい。その襲撃者を倒してくればいいんだな?」

―――――否定。草薙雄哉、貴方が勝てる可能性は1%もありません。即、離脱を勧めます。

勧めると言われても……これ俺が逃げたら迷宮が崩壊するパターンだろ?そしたらまたグランカスに何か言われそう何だが……それにコボルト達にも俺を目的に来てるなら巻き込む形になるしそれは困るな。

「無理なら逃げるから、とりあえず俺を目安に来てるなら人気のいない所で撒くのもありだろ?」

―――――否定。一度、認識されれば貴方の力では逃げることは不可能です。

「なら勝てる戦術とか無いのか?」

―――――否定。ひとつだけあります。メディデータとしての貴方の体の本来の力を使えれば倒すことは容易です。

なるほど……。つまりどういうことだ?

「つまりその、俺の本来の力?ってのが使えればいいのか?どうすれば?」

―――――肯定。先ほど来た3人のメディデータのうち一人と一時的な融合を行ってください。そうすればメディデータを動かすアプリケーションを使用することが可能となります。

「融合?」

―――――肯定。融合することにより知識や感情の一部の共有により相手の力を一時的に使えるようになります。これはかなり古い技術ですが神衣カムイと呼ばれている技術です。

精神と感情の一部共有とか……無理だ。

「分かった!」

―――――肯定。草薙雄哉、貴方の精神核に神衣の発動に必要な起動シーケンスを設定しました。必要のある際には神衣と発し一時的に力を借りる相手に接触してください。

「いやいやいや違うから!わかったって言ったのは融合とか無理って意味で言ったから!そんな知識はまだしも感情の共有とかありえないだろ!?」

―――――否定。一度、設定された内容は変更は出来ません。

「……」

なんという事でしょう。勝手に無駄な物を押しつけられてしまいましたよ……。
あれ?なんだこれ……。急に胸が苦しく……。

―――――移動を感知、ドミニオン級1匹。ガーディアンを転送、施設の防衛に当たらせます。戦闘継続意思が無い場合には即退去を願います。戦術的価値から見て戦闘意思が無い者は足枷になります。

「わかったよ、どうやって逃げればいい?」

―――――肯定。ガーディアンは転送用に肉体を組まれている為、問題はありませんが草薙雄哉とメディデータの3人は転送に耐えられない事から緊急用の脱出装置に乗って地上まで移動していただく形になります。このシェルターに来るまでに乗ったエレベーターに乗ってください。あとはこちらで制御します。

「了解だ。また話を聞きにくる」

すぐにホールの扉が開き、ホール外に出るとアリーシャ、パステルが慌てていた。

「落ち着いてください」

「落ち着けだって?目の前からコボルト達が消えていったんだぞ?」

「倒した時以外は消えないのにどうして?」

パステルもアリーシャもかなり混乱しているようだ。

「そういえば、レオナさんは?」

一人だけ姿が見えない事に気がつくが

「コボルトのやつらが消え始めたからレオナの奴がコボルトの集落を偵察しに行ったんだよ」

「そうですか……」

それはともかく、早く移動したほうがいいな。俺を追ってきたってことはさっさと移動しなければこの施設が危険に晒される可能性がある。そうなればまだ重要な話を聞き終えていない以上、大変困ることになる。

「分かりました。長老様よりすぐに脱出するように言われましたので移動しましょう」

まずは自分の命を一番に行動せねば……。建物から出てしばらく走ってると目の前に集落が見えてきた。集落を超えてエレベーターがある岸壁までいければこの地下から脱出できる。
村に入ると4本脚で走ってたコボルト達が集落の中央部分に集まっていた。その数は30近い、そしてそこにはレオナが立っていた。

レオナは俺達に近づいてくると

「クサナギ殿!コボルトの集落には子供達が怯えているだけで成人してるコボルトがまったくいない。どうすれば?」

そう聞いてきたが、どうすれば?と言われても困る。彼ら施設を守るガーディアンとして作られた物であり俺が関与するものではないのだが……。その愛くるしい姿を見てると、居た堪れなくなる。

「いまは……」

自分たちの身が最優先だから?小さい物を切り捨てる?違う、俺が離れればコボルト達がひどい目にあうことはないはずだ。だからすぐにここを離れれば問題ないはずだ。

「この子たちはこのままで、私たちはすぐにここを離れましょう。迷宮には迷宮の掟がありますし」

そうだ。これでいい……余計な事はしないに限る。幸い、誰も俺の意見に反対する奴はいないようだし。俺が集落から離れようとすると俺が抱き上げた子犬が足元にまとわりついてくる。そんな風に纏わりついても今は緊急事態だし対応なんて出来ない。

「クサナギ様、彼らの両親が戻ってくるまでここで面倒を見てあげる事は?」

何を言ってるんだ?俺達がいるから……俺がいるからここは狙われてるんだぞ?俺がいなくなればガーディアンとして転送されたコボルト達も無事に戻る可能性があるかもしれない。だったらここは私情に流されずに効率重視で動いたほうがいいに決まってるだろ?

「私達はあくまで部外者なのです。部外者が手を貸すのはあまり宜しいとは思えません」

「アンタさ!自分さえ良ければ良いって思ってるのかよ!」

俺の発言にパステルがまた切れたようだが

「いまは感情的になってる場合ではないでしょう?長老様よりすぐにここから脱出するように言われています。その事実を優先させるべきではないのですか?」

「ならアンタ一人でいけよ!たしかに無闇に戦うのは良くないってアンタは言ってたよ。でもな?何の力もない怯えてる者を放っておくほど人間腐ってねーんだよ!」

「……何が……言いたいんですか?」

パステルは、何も分かってない。効率的に物事を進めていく上で俺は最善の手を取ってるに過ぎない。なのにパステルは俺に暴言まで吐いてきた。こんな未開の文明人のくせに!!

「また殴るのかよ?いう事聞かなければ殴るのかよ?」

その言葉で俺は自分がパステルを殴ろうとしていたことに気がついた。

「相手が自分の意見を聞かなければ暴力に訴えるなんてさ、アンタが信用できないって言ってた人間や奴隷商人と何が違うんだよ!なあ答えろよ!?」

「―――――っ!これは……」

「クサナギ様は確かに強いですし私達よりも頭もいいのでしょう。ですが思いやりや人を信じないその考えには賛同は出来ません」

アリーシャが伏せ目がちに俺へ意見を述べてくる。

「クサナギ殿、ここはアリーシャとパステルに任せて某たちはここを脱出しましょう。クサナギ殿の無事を確保する事も任務ですゆえ」

「わかった……」

レオナと俺は集落を抜け岸壁にたどり着く。そうすると岸壁がスライドし内部に入れるようになる。

「乗ってください」

俺の言葉にレオナはエレベーター内部に入り俺も後に続く。エレベーターの扉が閉まると一瞬重力を感じたと思うと上昇を開始した。

「クサナギ殿、2人をあまり悪く思わないでください、2人とも思う所があったのでしょう」

それでも彼女らのした事は職務放棄ではないのだろうか?俺には納得できない。

「ですが、私を護衛すると言った立場上、あの態度はよくないと思います」

「そのとおりですね」

俺の言葉に、レオナが苦笑している。とりあえずまずは落ち着こう。あまり感情的になっても仕方ない。俺がこの迷宮つまり施設から離れれば襲撃者は離れるつまり被害は抑えられる?

―――――いや……よく考えろ……。

襲撃者がその施設に目標人物がいなかった場合、普通はくまなく探す。
つまり俺が見つからない場合はここが無事である可能性は限りなく低い。
解析で魔力量を見るとすでに200億まで回復している。
なら……戦うしか方法が?いや……俺の力では勝てないって言われたじゃないか?

自分より強い力を持つ者と戦うなんて馬鹿のする事だ、逃げて大人しく待ってるのが最善の策だ。他人がどうなろうと……。

”アンタが信用できないって言ってた人間や奴隷商人と何が違うんだよ!”

――――――くそっ。

何だよ、自分が一番大事で何が悪いんだよ。他人にやさしくしたって、信頼したって結局は裏切られるんだ。俺の長い人生経験がそう教えたじゃないか?誰かを踏み台にして犠牲にして踏みつけて生きていくのが人間の本質だって痛いほど痛感したじゃないか!

出来ない事は出来ないんだよ!無理なら不可能なら足掻かずに諦めたほうがずっと楽なんだよ!
そうだよ、俺は悪くない、悪くないんだ。

「クサナギ殿」

「なんですか?」

「私には、クサナギ殿が何をそんなに苦悩してるのか分かりませんが年下に出来るアドバイスとしては考えるより行動した方が時にはいい時もありますとだけ伝えておきたいです」

俺の目を見ながらレオナはそう語りかけてきたが、言いたい事は分かる。
だが、もうそんな若い時代はとっくに過ぎ去っている。
物事を考察し論理的に考え効率よく動くことを主軸とした俺にはそんな事はもう無理だ。

それに今更、他人のために動こうなどとも思わない。

「草薙殿ついたようです」

いつの間にかエレベーターが止まっていた。扉が開き迷宮1階の壁が視界に入る。そうだ、とりあえずまずは迷宮から出ることが重要だ。俺は記憶を頼りに迷宮内を疾走していく。途中でコボルトとかまったく違う粘液性の魔物がいたが無視し横を通り抜けた。

「あれです」

俺は、身体強化魔術を使いながら階段を上っていく。後ろからはレオナも息を切らせながら追ってきている。1分程で階段を駆け上がると周囲には何十匹ものコボルト達が横たわっており草原を赤く染め上げていた。

「――――――っ!?」

俺は声のした方向へ視線を向ける。声を発したのはレオナのようで腰からブロードソードを抜いて構えていた。そしてレオナの先には俺達を案内したコボルト3匹とそれを援護するように陣形を組んでるコボルトの姿が見える。

「クサナギ殿、どうしますか?」

どうするかだって?コボルトが相手にしてるのは10メートル近い巨人だぞ?しかも手には光で生成された槍をもっている。それに解析を使った結果……。

name:ドミニオン(第10階級最低品格生物兵器)
HP:52000000000/60000000000
MP:15000000000/15000000000
STR:70000000000
DEX:70000000000
CON:70000000000
WIS:70000000000

全ての数値が俺より高い。勝てるわけがない……。

「レオナ、すぐに逃げましょう。あれとは戦ったらいけません」

そうだ、身体強化を最大まであげたとしてあれには勝てない。絶対に無理だ……。
体の震えが止まらない。少しでも自分の力で何とかできるかも知れないと思っていたが俺が間違ってた。
人間じゃあれには対抗できない。戦ってるコボルト達にそのことを告げる?こっちに注意を向けさせるようなものだ。

俺は震える手でレオナの腕を取った。

「クサナギ殿?」

「無理です、あれとは戦ってはいけません。コボルトさん達が足止めしてくれてる間に逃げましょう」

レオナは俺を言葉を聞きながらもその場から動こうとしない。

「クサナギ殿は、冒険者ギルドと総督府にこの事を伝えてください、すぐに騎士団を派遣するように依頼してください、殿は某がしますゆえ」

「だめです!あれは何とか出来るモノではありません、あれは災害なんです。ですから逃げましょう」

どうして勝ち目の無い事に首を突っ込もうとする?勝算の無い戦いに首を突っ込むなんて愚者のする事だ。理解できない、理解できない。あんなステータスを持った化け物相手に大したステータスも持ってない者が集まってどうなる?まったく理解が出来ない。

「クサナギ殿は、まだ幼いから分からないかも知れません、ですが私が殿になることで時間が稼ぐことができるのならそれは騎士の性分を全うしたことになるのではないですか?クサナギ殿のする事は王家の冒険者プレートを持って衛星都市エルノに危険だと言う事実を伝える事こそがクサナギ殿の仕事でないのですか?」

俺は、レオナの言葉に首を振る。あの化け物のステータスならどれだけ騎士を集めても勝てるわけがない。町だって守りきれるわけがない。きっとすぐに全滅する。皆殺しにあう。

「別に他人なんてどうでもいいじゃないですか!まずは自分が助かることを優先にしないと!!」

「クサナギ殿、騎士は誰かを守るための職業です。国民を民を守るためのものです。自分に言い訳をして逃げるなど騎士ではありません」

レオナと俺が押し問答してる間に一人の白い毛並みをした子犬が俺の方へ飛んできた。名前はたしか、レジェンドだったはず。

「お姉ちゃん。早く逃げて……」

よく見ると体中血まみれで白い部分は背中の毛並みだけだった。両腕が吹き飛ばされたときに折られたのだろう。あらぬ方向へ曲がっている。

「ヒール」

俺は回復魔法をかけるが回復しない。どうして回復しない?どうして?

「無理だよ、お姉ちゃん。僕たちの体は人とは違うから……」

「だったら逃げないと!」

「長老様からお姉ちゃんを逃がすまでの時間稼ぎをしろって言われてるから……それに皆、お姉ちゃんが懐かしいんだ」

「――――――!?」

つまり、この周辺に倒れてるコボルト達は俺を逃がすために犠牲になったってことか?ふざけるな!誰かを手助けするのはいい。それがただ相手に与えるだけだからだ。だが、俺は誰かに何かをして貰いたいとは思わない。そこには何かしらの貸し借りが発生するからだ。利害を求めない関係性なんて絶対に存在しない。そんなのはごめんこうむる。

「頭にくる……」

勝手に恩を押し付けてくる連中もこんな状況にした目の前の巨人も全てが感に触る。
200億まで回復した魔力を全て魔法に込め始める。
そして脳裏にあらゆるモノを貫く鋭利で巨大な槍をイメージする。
俺のイメージに沿って大気の精神エネルギーが収束し物質化していく。

「ファイアーランス!」

長さが100メートル近い炎を纏った槍が生成され俺の魔法の言葉と同時に襲撃者を襲う。
物質化された巨大な質量エネルギーによりドミニオンは、その場から弾き飛ばされ遥か遠くに落下しファイアーランス内に溜め込まれた膨大な魔力が反応する。そして巨大な爆発を巻き起こした。1キロ以上吹き飛ばしたというのに爆風で周囲の木々がきしむ。

「やった……か?」

掛け値なしの全力全開の攻撃魔法だ。生活魔法を主軸とした魔力量にモノを言わせた魔法とはわけが違う。威力はおそらく数百倍、王都クラスですら一撃で消滅させられるほどの威力。
それだけの魔法を食らえば……。

「――――――そんな!?」

レオナだけではなく他のコボルト達もほぼ無傷な襲撃者を見て驚愕している。そして俺も、生まれて初めて恐怖を感じた。




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