最強のFラン冒険者

なつめ猫

幕間 ある奴隷商人の話

俺の名前は、ジャスキーと言う。
奴隷商人を親からついで25年続けてきた。
仕事の内容は簡単で、領主とその下で領地を管理してる代官から送られてくる奴隷を躾けて売るだけの仕事だ。儲かるのかと言えばそこそこ儲かるが規模を拡大できる程じゃない。
なんと言っても同じ領民なのだ。
代官には金を払わないといけないし売りつける時も顧客を吟味する必要もある。正直言って、苦労のわりには儲からない、唯一良いのは女が抱き放題なくらいだろう。

そんなある日の事だった。
俺たちの元締めのグランカスから召集を受けた。
どうやらかなり稼げる話らしく急いで安心安全がモットーの奴隷館に向かった。
グランカスは一代で衛星都市スメラギを代表する奴隷商人に成り上がった男で、古くから奴隷商人を続けてる仲間達からはカリスマ扱いされてた。
そんなグランカスが稼げる仕事?胸が高鳴らずにはいられなかった。

そしてグランカスが経営する建物の会議室に入ったところ、スメラギの主だった奴隷商人達が全員集められていた。どうやら相当デカイ仕事らしい。

俺は、どれだけ大きい仕事なのかと体の震えを抑えることができなかった。

そんなグランカスが、一人の女性を紹介すると言ってきたのだ。
当然、儲け話があると思ってた俺を含めた奴隷商人達は女性を目踏みしていく。
俺たちがどれだけ稼げるかこの女にかかってるって事だからだ。

だが、見れば見るほど俺には目の前の女性が少女にしか見えなかった。
長年女を抱いてきた経験から言わせてもらえばコイツは間違いなく12歳から13歳くらいの餓鬼だ。
なのにグランカスはこの少女に横目で見られただけで震えているのだ。

俺は落胆した。そしてこの少女はきっと王家かそれに連なるものなのだろうと考えた。
ちっ!グランカスも落ちぶれたもんだ。と俺は内心毒づいた。

そんな少女が突然、話はじめた。
その話し方はとても堂に入っていてまるで貴族の令嬢のような話し方、間違いなく王家の女だ。
だが俺にはその女をどこの王家でも見たことがなかった。
少なくとも海洋国家ルグニカには黒髪のこんな美しい少女はいなかったはずだ。
そんな少女が突然意味不明なことを言い出した。

「私は、海を司る海神クサナギと言います」

は?俺はこいつ何を言い出したんだと疑問を浮かべた。集められた奴隷商人も同じことを思っているようだ。全員が海の神と言った少女を怪訝そうに見る。

そして少女が手を上げるとグランカスの事務所の人間が入ってきた。どいつも奴隷の枷をもっている。一瞬俺たちにつけるのかと警戒したがそれは先ほどのクサナギと言った少女に次々と嵌められていく。

その数は20個にもなっていた。普通、一個で初級魔法師、2個で中級魔法師、3個で上級魔法師の魔法の行使を止めることが出来る。
5個になれば体中を動かすことすら困難になるというのに20個をつけられた少女は平気な顔をしてその場で立っていた。

「さて、皆様。私のこの状態を見てどう思われますか?」

どう思われますかだと?理解できないに決まっている。。こんなことはありえない。こいつは一体何者なんだと?頭が理解することを拒む。

「ご理解頂けたようですね?」

そう言って少女は奴隷の枷を全て俺たちの目の前で破壊してしまった。
思わず俺は椅子から転がり落ちた。ありえない、ありえない、あれば魔法帝国ジールで作られた物で破壊は愚か欠ける事すらないというのに跡形もなく消し去った。
気丈な奴隷商人の一人が椅子の足を無詠唱魔法で切断されて床に倒れていたが大半の奴隷商人はこの得体の知れない少女に恐怖を感じていた。

そしてクサナギと言う少女は告げてきた。
これ以上奴隷商人を続けるなら殺しますよ?と、俺たちはグランカスへ視線を向けたがグランカスもクサナギに視線を向けていた。そして悟った。
グランカスはクサナギにすでに屈しているんだなと……。

だが俺たちにも生活がある以上、折れるわけにはいかない。

そんなクサナギが俺たちに2番目の選択肢を突きつけてきた。
それは、歴史に名前を残すという物であった。
一瞬、こいつは何を言ってるんだろうと思ったが歴史に名前を残す、偉人としてと言われると男としてはとりあえず話しを最後まで聞いてみようと思った。

そしてクサナギは俺たちに奴隷よりもさらに稼げる道を示してきた。
それは今まで考えた事もない物だった。
派遣法というものらしく、人材管理をしてるだけでお金になるらしい。
こんな稼ぎがいい物があるのかと目からうろこだった。
奴隷を購入して管理して躾けをして売るより遥かに儲かる。しかも永続的に中抜きが出来るとなれば誰も反対するはずがない。

そしてクサナギは、効率よく人材を獲得し運用するためには学び舎を作る必要もあると言ってきた。全員が何故かと首を傾げていたがクサナギは俺たちに説明した。
宝石でも加工しなければ高くは売れない。
人間も同じで必要最低限の教養である文字の読み書きから計算までを学び舎で教えればどこへでも派遣できると、つまり人間の品質を高める事こそ派遣法をよりよく活用できる方法を諭してきたのだ。

今までそのようなことは考えたことはなかった。
グランカスですら驚きながらクサナギを見ていた。

そして最後に極めつけはそのような体勢を押し通すためにクサナギ自らが簒奪レースに参加し王となると公言したのだ。震えた、会議室は誰もが自分たちが未来の総督府の地位になること、そして国を導く存在になるかも知れないという野望に燃えた。

それからは、グランカスも俺たち奴隷商人も私財を投げ打ってガレー船を修理し一ヶ月の航海に耐えられるようにした。そして、俺たちが総督府になったときに反発が起きないように他の町の酒場で噂を流した。
海神クサナギが、民を弾圧する王家を倒すために降臨したと。
これはクサナギがプロパガンダと言う手法と言っていた。
俺たち自身の名前で広めろと言っていたが、見目麗しい少女の方が神秘性が出るだろうとクサナギには内緒で広めた。

重税で苦しんでいた国民達は、ただの噂だと思っていたがクサナギが王家の騎士達を派手に倒して回ってるせいもあり、もしかしたらという憶測が流れそれからはその人気に火がついた。

ただ、俺たちとクサナギの関連は知られたらまずい、だからクサナギには手を貸せない。
だが俺たちの手助けなどいらないと言わんばかりにクサナギの一人無双状態だった。

刻々と減っていくスメラギ総督府の騎士達に国民は狂喜した。
そして王位簒奪レースが始まり問題もいろいろあったが王家の船はクサナギが間接的にすべて沈めてしまった。
国民は喜んだが、レース主催者達は怒り狂った。
何せ自分たちの主でもある出資者でもある王家が敗退してしまったのだ。

ただ死刑には出来なかった。
多くの国民がクサナギの支持していた事に加えカベル海爵の後ろ立てがあったからだ。
そこに俺たちが総督府として死刑判決を却下したのだ。

もはや大会運営は何も出来ずクサナギに命じられたのは、所持金没収と市民権剥奪に一ヶ月間の牢屋暮らしだった。
グランカスは、仕方ねーなと言いながらもクサナギが入れられる予定の牢屋付近の軽犯罪者達を全員、恩赦という形で釈放していた。

一言、これであいつも安心して寝られるだろうと言っていたが、クサナギがそんなやわい精神なのか俺には甚だ疑問だった。

それはともかく、ガレー船に俺は乗っている。衛星都市ペルメシアの総督府が俺の赴任先なのだ。総督府から落ちればこの国ではもう王家とは呼ばれない、今の俺の肩書きはジャスキー海爵だ。

クサナギに2週間教えてもらった学び舎の設立と人材派遣ギルドの設立、そして衛生ギルドの設立がまずは俺の仕事だ。

これからは偉人として公正に民に接することにしよう。
ただクサナギみたいにはなったら行けないと心に誓った。



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