最強のFラン冒険者

なつめ猫

発進!スカイ・フィッシング・ボート!!


衛星都市スメラギの王位簒奪レース会場より海爵の血筋が乗る7隻の軍艦が出航していく。
港から出た軍艦の側面から突き出た長いオールが海面を叩き始めた。
少しづつ船足があがっていくその様子は一糸乱れぬ様相であった。
次にかなり遅れて出航したのは奴隷商人が乗る船であり、オールを漕ぐ姿も統率が取れておらず中々速度を上げることが出来ずにいた。

統率された軍の軍艦には民間のガレー船では絶対に勝つことはできない。
会場の誰もが予想していた姿がそこにはあった。

そんな様子を草薙は見ながらいまだに会場内にいた。

「ふむ……そろそろか?」

俺は呟きながら肉体強化魔法を発動させる。
肉体強化魔法は、体内から皮膚までを強化するが魔力を纏うなら服までもが強化対象となる。
つまり、その纏う対象が服と言う限定的な物ではなく船なら?

その答えが今、白日の元に晒されていた。
会場の一人が草薙が中々出航しない事を不思議に思っていると船が輝きだした事に目を見張った。そして今まで軍艦やガレー船の出航ばかりに目を送っていた会場中の視線が草薙と船に向けられていく。

それと同時に船からは、きぃいいいいいいいいんと空気を振るわせる音が会場中に鳴り響き始める。
観客たちは耳を塞ぎながらも草薙が乗る船が少しづつ海面から上昇していく姿を驚愕のまなざしで見ていた。

船酔いと言うのは三半規管が弱い人がなるものと言われているが、俺にはそれがどういう理屈かがわからない。だから身体強化魔術を使っても理が分からないことから改善できずにいた。
この世界の人間は漠然と強化できるらしいからここだけは現代日本の知識の弊害ともいえる。

そんな俺が導きだした答えとは、別に海に浮かばなくてもいいんじゃね?だった。
大会規約にそんなの書いてなかったし、そこで俺は自分の魔力量から計算してこのくらいならいけるかも?と思った船を奴隷商人のグランカスに作ってもらった。

それがこの底と縁と先端部分を鉄板で強化しマストを取り除いた船だった。
推進装置は、生活魔法である洗濯物を乾かすためのそよ風を起こす魔法を魔力量に物を言わせた物だ。
そう、名づけるなら”空飛スカイ漁船フィッシング・ボート”ってところだろう。

漢字だとダサイのに英語にするとカッコイイのは何故だろう?とも一瞬思ったが気にしないことにする。
強化された聴力が、「う、浮いてるぞ?」とか「あれが灰塵クサナギの力なのか?」とか「ヒールこわいヒールこわい」とか「きゃークサナギさまー」とか「あれが神の力か」とかいろいろ聞こえてくるがもうこの際気にしない。
っていうか灰塵ってなんだよ。俺そんなひどいことしてないぞ?
兎に角、このスカイ・フィッシング・ボートは底が空気を効率よく使えるようにするため底を平らにしてあるために海の上では上手く浮くことが出来ない。

魔法を連続使用したことはないがたぶん数時間が限度だろう
さあいくぞ!
俺は、生活魔法の風の力を船の後方へ集め弾けさせた。船はホバリング状態のまま船体を軋ませ一気に会場から洋上へと躍り出た。
俺が浮上したことを察した奴隷商人が乗る8隻のガレー船は、俺の進路上からすでに逸れていたが残りの軍艦7隻は進路上に位置していた。

あとは追い抜いた後、生活魔法の風で軍艦が浮いてる海の底に気泡を作り出し軍艦の浮力を失わせて沈めてこのまま俺が海上都市ルグニカまで行けば勝利だ。

ワハハハハハ!これこそが俺の勝利の方程式!!中世時代に現代科学の力を持ち込んだ俺を悪いとは思うなよ?勝負は常に非情な物なのだ。

「な……なんだ!?あれは!!!」

突然、後方に姿を現した草薙が操る空飛ぶ漁船に7隻の軍艦に乗った人間は誰もが信じられない感想を抱いていた。

「空を飛んでる!?」

中世では自然風か人力が主だった時代では、時速8km~10km程度の船足が精々であった。
それが草薙の魔力量に物を言わせた船足の速度は時速700kmを超えていた。
いくら海面から浮いていたとは言え、その影響は洋上に出れば出るほど大きくなり軍艦の側面ぎりぎりを通ったときに発生した衝撃波は高波をを誘発させ全ての軍艦を側面から飲み込んでいく。

「うああああああああああああ」
「え?どういう……きゃああああああああ」
「いやあああああ」
「ま、まだ出航したばか……」
「船が船がしずがぼぼおっぼぼ」

側面からの高波に弱い船は次々と船体のマストが破壊され横倒しに倒れていく。
そしてそれを見ながら草薙は思った。

「まさか……これほどの威力があるとは……ぶくぶくぶくぶく」

そうあまりの速度に草薙の乗る船も船体を強化されていたが耐え切れず空中分解したのだった。
ここに、王位簒奪レースは類を見ない初日に王家の軍艦全滅そして草薙が乗る船も分解し海に沈むというあまりにもあまりな事件が起き終結したのであった。

ただ、ひとつ問題があるとすれば草薙は泳げなかった。
そんな草薙が板切れにしがみ付いて助けだされたのはレース開始後3時間後であった。

一ヵ月後……。

海上都市ルグニカでは異例の……建国以来始めての王家の船が全滅し王家以外の人間が王位簒奪レースで優勝するというハプニングが内外に流れていた。
町は、国を私物化してきた王家が悉く総督府から失脚した事と奴隷制度の廃止それに伴う派遣法の交付に国民の生産性を上げるための税金を投資する学校の設立など多くのことが新しい総督府に任命された奴隷商人達から国民に広く発表されていた。
それに伴い祭りは最高潮に達し海上都市ルグニカは類を見ないほど活気に満ち溢れていた。

「ほら!めしだ!」

地面に置かれた具が何も入ってないスープを見て草薙はため息をついた。

「うううう……ひもじい……」

味がまったくしない薄い塩だけの味付けのスープを草薙は涙を流しながら飲んだ。

草薙は皆が外で楽しんでる間、一人だけ御勤めをしていたのだった。

そう、刑務所での御勤め。罪状、レース妨害であった。

審議の際に草薙は言った。

なんだよ!船に直接攻撃しなければいいって言ったじゃねーか!と……その草薙の反論は無視された。
むしろそれでさらに炎上した。

そして審議の結果、草薙は資産を全部没収の上、市民権取り消しに海上都市の刑務所の牢屋で一ヶ月御勤めのトリプルコンボの刑に処されたのだった。




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