最強のFラン冒険者

なつめ猫

衛星都市エルノの闇(後編)


「はぁ……」

思わず溜息が出てしまった。あまり人前でこう言うのはこちらの思考が読まれるからやらないんだが……。
ギルド、市場、キッカの話を総合するとこの町は絶望的な状況と言うのがよく分かった。
まずはトップだが、息子が牛耳ってるってことは父親であるカベル海爵は幽閉されているか殺されているのだろう。
簒奪レースにさえ参加すれば買っても負けても王家の血筋は自動的に海爵に成れる。
つまり簒奪レースと言うのはただの出来レースなのだ。

さらに今のこの町の状況は、おそらくカベル海爵が奴隷解放をして町の運営がダメになったどうかは分からないが、グランカスの情報を最近の物だと考えると息子が重税を貸したのは最近なのだろう。そう考えると奴隷解放の煽りで経済が崩壊しかけた所を重税で潰したと?洒落にならないな……。
こうなると町の財政を立て直すのにどれだけの時間がかかるか想像もしたくない。
ギリシャのデフォルトより遥かにひどいと思う。
何せIMFも日本やEUのように資金を貸し出してくれる所がセーフティネットがこの世界にはないのだ。

そんな状態でどうやって立て直せと?
そもそもそこまでやっても俺にメリットが殆どない。
これは衛星都市スメラギに戻って簒奪レースに勝った後に各地の海爵(領主)の下で働いてる人間を雇用した方が良い気がしてきた。
というか絶対、そっちの方がいいだろ。

「大丈夫かい?」

「ええ、問題ありません」

そう問題ない。ここの町は俺にとってはどうでもいい町になった。
多少予定は変更されるが衛星都市スメラギに戻ってやる事やるとしよう。

「ユリカの面倒を見てくれた礼だけど、今日はうちに泊まっていかないかい?」

「いえ、宿を取ってありますので……」

実際は宿なんて取ってないが人を刺してくるような幼女と同じ屋根の上で寝るなど危険以外の何者でもない。
もしやるなら相当お人よしか小説とか物語の主人公くらいだ。
人間がそんなに簡単に改心してたら世界から争いなんて無くらない。
キッカに、俺はユリカに刺されたんですよと説明しないだけマシだと思ってほしい。

俺は寝たままのユリカをキッカに任せるとお店を出た。
すでに夕方を過ぎてることもあって薄暗いが冒険者ギルドで聞いた一番高い宿に泊まる事にした。
教えてもらった所に到着すると5階建ての建物が視界に入った。
かなり立派な建築様式になっていて壁は全て煉瓦でつくられている。
宿泊料金は高いらしいが警備はきちんとしてるらしく帝政国に本店があると言う事もあり滅多に手出しできないと冒険者ギルドの受付の女性は言っていた。
建物に近づくと8人の兵士が入り口を固めており俺を一瞥し俺の恰好からして客だと理解したのかすぐに中に通してくれた。

「いらっしゃいませ」

中に入ると執事風の服を着た男性が話してくる。

「一部屋借りたいです」

合えて高級な部屋は最初から頼まない。
あまり高級な部屋を借りると問題が起きたら困るしな。

「ランクがありますが如何いたしましょうか?」

「普通で頼みます」

「畏まりました。金貨30枚になりますが宜しいでしょうか?」

俺はうなずぐと袋から金貨30枚を出して渡して鍵を受け取った。

「こちらになります」

部屋まで案内してもらい鍵で部屋の扉のドアを開けて中に入るとかなり手入れの届いた部屋が目に入った。部屋はバストイレ完備になっており寝室にはベットが2つとリビングがある。
これで普通なら最上級の部屋はどのくらいなのだろうか?少し興味はあったが疲れてたこともあり公爵邸を出てからの初めてのお風呂に入った。
出た後は、すぐにベッドにもぐりこんだ。

翌朝、俺は珍しくスムーズに起きることができた。そして気分が落ち込んだ。こういう風にスムーズに目覚める時は絶対何かが起きてるからだ。
ほら……何やら、外がざわついてるような……。

部屋の窓から下の通りの見るとそこには俺に金品を謙譲した騎士達と同じ格好をした人間が100人近く。そして青色のラインが入った騎士風の騎士達が200人近くホテルの前で並んでいた。
そして騎士達とホテルの入り口を守っていた兵士との間でごたごたが起きていた。

「何を話してるのか聞こえないな?」

俺は身体強化魔法を発動させると下に見える騎士達とホテルを守ってる兵士との話し合いの情報を聞き取っていく。
ここに衛星都市スメラギで王家に刃向った犯罪人クサナギがいるはずだ!すぐにさしだせ!などのような事を言ってるが兵士はそんな人は知りませんと答えてる。
そんな間でも俺は考える。

もう、この町ですることはないしさっさとスメラギに帰ろうと……。
その前に軍資金が結構減ったから、騎士さん達から寄付してもらおう。
街中では迷惑がかかるからやるなら外だな……。

「しかし300人か……魔法の練習になるな」


俺はすぐさま荷物をまとめると1階に降りていく。
執事風の人が近づいてくるが慌てた様子は見受けられない。

「クサナギ様、当ホテルに宿泊してる限り問題ありませんのでご安心ください」

「ありがとう。でも大丈夫です、あとはこちらで処理しておきますので」

俺は執事の方へ取り出しておいた金貨30枚を渡すとホテルの外へ出た。

「クサナギ!見つけたぞ!」

「……」

俺は、体を身体強化魔法で強化して集団を飛び越えで南側へ走る。
後ろを見ると騎士達が思い金属鎧をつけて追ってくるのが見える。
しばらく走ると南門が見えたが木材の門で締め切られていた。
こうなるとここのトップとスメラギは繋がりがあるのかとも思ってしまうが、俺は走りながら足元の小石を拾い上げると思いっきり投げつける。
小石はあっさりと南門を破壊した。

俺は南門から外に出てしばらく走ったあとに後ろを振り返った。
誰も脱落していない……すごいな。
ぜーぜー言いながら何か言ってくるが気にしない事にするか。

疲れてる皆様に向けて上空で魔力量4000万分の生活水を作り上げた。魔力量1で180ml程度の真水が作れる。つまりMP4000万だと25メートルプール200個分の真水が生成されるのだ。
それを一気に彼らの頭上に降下させた。
巨大な大瀑布が上空から地上に降り注ぎ水が振り終わった後には300人の騎士が全員地面に倒れ伏していた。
この技を命名するならナイアガラと名付けよう。

「それにしても……」

おそらく誰も死んではいないと思うが死屍累々だな……。

「お金を回収するのが大変そうだ……」

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