最強のFラン冒険者

なつめ猫

暗躍する主人公(前編)


友好関係を結んだ『安心安全信頼がモットーのドレイ館』の皆様の協力により奴隷の方々はしばらく体を休めてもらう手筈になっている。
そんな倉庫から少し離れた3階建ての煉瓦作りの建物の2階会議室で俺は次々訪れる奴隷商人達へ視線を向けていた。
最後の一人が入った後に、その場に最も似つかわしくない俺の事を目踏みするように男達は視線を向けてきた。

「グランカス殿、いきなりの招集どうかされたのですかな?」

資料によると今、発言したのはへポイという男らしい。
見た目もかなりの年齢を感じさせる。

「私もこの時期は簒奪レースのための奴隷を集めるのに忙しいのですよ」

こいつはプルルンと言うらしい。
かなり肥満だな……。

それからは自分たちが如何に忙しいか語っているがそんな自慢話など俺にとってはどうでもいいのだ。
さて、まずは話を進めないといけないな。
俺はグランカスをチラッと横目で見る。そうするとあら不思議、グランカスがガタガタ震えだしたじゃありませんか。

「え、えーと……みなに集まってもらったのはこの隣に居られる御方を紹介するためだ」

グランカスの声に奴隷商人達の先ほどから注がれてる目線に籠る目力が強くなる。
さて、力で従えてしまっても良いんだがそうすると俺がいない所で何をするか分からないからな。
そうすると奴隷と言うのは効率が悪いと言う所を押し出さないといけないんだがポッと出の俺の意見を聞くわけもないしどうしたものか。

「私は、海を司る海神クサナギと言います」

まぁもうこれでいくしかないだろ?
案の定周囲の奴隷商人達は何を言ってるんだ?と言う海賊たちと同じ顔をしているが俺は手を上げる。
そうすると、奴隷の枷を持って部屋に入ってくる人間が数人。
それを見て奴隷商人は自分たちに?と不安な顔を見せていたが俺に取り付けられていくのを見てさらに怪訝な表情を見せ始める。

「さて、皆様。私のこの状態を見てどう思われますか?」

体中20個ほどの奴隷の枷をつけられた状態なら普通は気絶などでは済まなく大変な状態になるらしい。
それを奴隷商人達は信じられない者を見る目で見ている。

「ご理解頂けたようですね?」

俺は、体中に展開してた1000万の魔力を20億まで増やし全ての奴隷の枷を消し去った。
それを見た奴隷商人達が椅子から転げ落ちたり腰を抜かしたりしている。

「さて、これで私が神だと言う事にまだ納得されない人はいますか?」

納得されないならかなり困ってしまうのだが……。

「納得できん!うああああ!?」

途中まで言いかけた男の椅子の足を生活魔法の複合魔法であるウォーターカッターもどきで斬り飛ばした。
もちろん魔力量に物を言わせたものだ。
椅子から倒れた男は突然の事に床に倒れたが自分が倒れた原因が、自分が座ってた椅子の足が斬られた為だと理解した途端顔を青くしていく。
基本、初級攻撃魔法を含めて攻撃魔法と言うのは詠唱が必要らしい。
俺のは生活魔法だから必要ないけどそれがどれだけの脅威か分かるなら彼らみたいな顔になるだろう。
奴隷商人達の眼はいつのまにかグランカスに向けられており、だましたな!この野郎!と言う眼をしていた。まったくグランカスさん酷いですね。

「さてと、ちゅうもーく」

俺の言葉に奴隷商人の方々が視線を向けてきてくれた。その目には先ほどの俺を目踏みするような物ではなく恐怖がチラついてるように見受けられた。
さて、ここからが正念場だな。

「まずですね、貴方達には2つの選択肢があります。一つはこのまま、私の天罰で首と胴体がオサラバしたりするコース。」

信頼と実績がある奴隷館だけに護衛を連れてこないのが仇となったかれらは、俺の言葉に全員が震え始めた。

「次に神の啓示を受けた商人として偉人として歴史に名を遺すコースの二つがあります」

二つ目の言葉に奴隷商人達は混乱していたようだが、このへんはおいおい教えていこうとしよう。

「それではまずへポイさん、お伺いしたいのですが奴隷と言うのは儲かりますか?」

俺の質問に男は怯えながらも頷く。
たしかに儲かるのは分かる、何せ人間を商品として酷使しているのだ。
ただ、生産性ややる気などを加味すると管理体制や監視体制に言う事を聞くように教育したり仕入れたりと大変コストがかかる。
それは本当に儲かってると言えるのだろうか?
それなら日本の人材派遣会社体制を取ったほうが遥かに稼げる。
何せ、中抜きを当然のように言ってくる政府に騙されてるからだ。
まさしくヤクザ状態、ただこれはこの世界に適用するならばそんなに悪くはない。
何せ、奴隷だったものがある程度の消費者に代わるのだ。
しかも中抜きで永続的にお金が入ってくるしまずしい場所ならば、自分から派遣社員になりにくるだろう。
つまりこの奴隷商人達をこの世界初の人材派遣会社にしてしまえばいいのだ。

「そうですか?それは本当に稼げてますか?調教やある程度の教育を施したり輸送の手数料から売れるまでの健康管理から監視体制や管理体制の費用を踏まえて本当に稼げていると言えますか?」

俺の話に奴隷商人達は何を言いたいのだろうと首を傾げている。

「まずですね、後世の歴史において人の尊厳を踏みにじる行為をした人間やその家族や国家と言う物を考えてみてください。
代官が増税で払えない人を奴隷に仕立てあげた事を考えてみてください。後世の人間はそう言った人間を見てどう思いますか?」

「ど……どう思うんだ?」

たしかヘルペトスって名前だったか?まぁどうでもいいが、その答えを聞いてきたってことは少しづつ俺の言いたい事を理解し始めたようだな。

「そうですね、ロクデナシとか人間の屑とか殺されても当然の奴らだとか思われます。決して未来の歴史では良いようには言われないでしょう。貴方達も過去の歴史や神話を見たことはあると思います。人道上外れた行為をしている者は誰でも不快に思います」

「だ……だが、私達にも生活が」

「はい、分かっています。そこでですね、奴隷としてではなく食べれない人に仕事を斡旋して働いた分の2割から3割を中抜きする方向にしてみたらどうでしょうか?たとえば、冒険者ギルドと言うのがありますよね?その拡大解釈版と言う形で人材が欲しい人達と貴方達の商会で専属契約を結ぶのです。そして田舎から出てきた若者に仕事を振って稼いだお金の中抜きをして残りを渡せば管理費だけで
稼げるようになるのです」

俺の発言に先ほどまで混沌とした議会の空気が氷ついたように鎮まり返った。

「さらに言えば、奴隷に給料を払う理由ですがこれは物価の消費を増やす意味合いが大きいです。今、皆さんが販売し使ってる奴隷は物を買いますか?買いませんよね?つまり作った物が余剰するのです。

ですが、その奴隷が物を購入するようになれば潜在顧客として経済を回せるようになるのです。そこで専属契約した若者に対して自らの商会が取り扱ってる物を紹介登録者割引と言う形で販売したらどうなるでしょうか?

それは今まで死蔵されていた通貨交換を促進させさらに奴隷商人の方々をいままで以上に稼がせる結果に繋がりませんか?
そしてこの方法なら奴隷を禁止してる国でも同じ形態で雇用する事が出来、稼ぐ事が出来るのです」

もはや俺の独壇場状態、地球の経済の流れをパクっただけなのだが中世の世界では斬新すぎるのだろう。そして最初に始めた人間には後追いなど出来ない。

「さて次にこの国だけではなく、奴隷を合法化してる国が多数あると聞いてます」

俺はそこで話を区切って奴隷商人達を見渡す。
全員が一生懸命、物事を考えている。
さあ、ここからが俺の仕事だ。

「さて、冒頭に説明した歴史に名を遺す偉人と説明しましたが……もし、この方法で全ての奴隷を解放した状態で雇用を作り出して尚且つ中抜きで永続的に稼げるようにするとします。そうすると世間の評価は奴隷を解放して奴隷に給料を払って雇用してる商会と言うイメージになるのです。それは人を人として自らが国の意思に関係なく動いたと言う事で後世に名を遺す偉業にはなりませんか?」

「た……たしかに……」
「それならコストが抑えられる」
「奴隷の当たり外れを気にする必要も……」
「だが、代官がな……」
「領主もな……」
「王族がな……」

いろいろな意見が出そろってくるが俺は、奴隷商人達のストッパーになってるのがすでに権力者だけだったのを見て内心微笑んだ。

「皆さん、私は今回!王位簒奪レースに参加します。そして海神クサナギの名においてこの国で奴隷廃止に舵を取りたいと思います。もちろん代官だろうが領主だろうが王家だろうが私の魔力量を持ってすれば敵ではありません。どうですか?投資しませんか?」

そう、王位簒奪レースは莫大な資金を使用する事と船の操船技術が必要なのだ。だがそこに国籍などは一切書かれていない。
と言う事は、ここに集まった奴隷商人7人とグランカスとこの俺が参加して王位簒奪レースで全ての王家の船を洋上で撃破して全ての首都の総督府にそっくり奴隷商人達を据えてしまえばいいのだ。
そうすれば奴隷を解放した栄誉と名誉に総督府の地位まで入ってしまう美味しい状態になるのだ。
普通なら資金が調達できても軍船など民間が用意できるわがないが俺なら小舟一隻で魔力砲をぶち込んで全ての王家の船を沈めてゴール出来る。
残りの船はあとからゆっくりゴールするだけでいいのだ。

「投資どのような?」

「そうですね、まずは私とグランカスが簒奪レースに参加します」

さあ、ここからは一か月後に控えてる王位簒奪レースの作戦会議だ。



5時間後、俺とグランカスは奴隷商人達が帰った後の部屋に2人で座っていた。

「それにしても……とんでもないお嬢ちゃんじゃなくて海神様だな……」

奴隷商人からもどこからその知識は得たのかと言われたが微笑んで私は海神ですよ?と言っただけで納得してもらった。
もちろん右手にはいつもどおり石の塊を持って紹介させてもらった。

「でも問題は、グランカスが王様になった場合にサポートするつまり国を運営できる人材がいないと言うのが問題ですね」

「はあああ?何言ってんだ?」

「いやですねー、私が国の運営なんて面倒臭い事すると思いますか?」

俺はニコリと微笑む。俺が全部するならさっさと王家の連中とお話して国を譲りうけてるよ。それをしないんだから察してくれ……。

「グランカス、私達に同調してくれそうな国の運営に関わってる人とか心あたり在りませんか?」

「心あたりか……。そうすると奴隷解放を訴えてる元ルグニカ王家第4皇子カベル・ド・ルグニカ海爵だな」

「そうですか……それは良い事を聞きました。ぜひお話をしにいかないといけませんね?」

楽しそうに微笑むとグランカスは大きなため息をついたがずいぶんと疲れてるようでとても心配になってしまった。

 



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