最強のFラン冒険者

なつめ猫

幕間 夜会場の舞台裏で警備隊は踊る

俺達は立ち止まっていた足を動かし酒場に向かおうとした所で違和感に気が付いた。

「おい、スレイン」

「ああ。こいつは……」

俺とスレインは腰に差していた警備隊に配られる制圧武器である鋳造で作られた警剣を抜いて構えた。

長さは普通の剣と同じだが、刃の部分は潰されているため殺傷力は極めて低い。
それでも当たり所が悪ければ怪我をするかもしれないし死ぬかも知れないがそれは今は置いておく。

まだ日が落ちる前だと言うのに裏通りにはまったく人の気配がなかった。
いつもはそこそこ人通りがあると言うのに……。

「そこにいる奴出てこい!」

スレインが緊迫した声色で建物の物陰に向けて叫んだ。
俺は気が付かなかったがどうやらスレインお得意のサーチの魔法なのだろう。

スレインと俺が動かないのを見るや黒い服装をした男が物陰から姿を現した。
そして俺とスレインは、その男の胸につけていたエンブレムを見て息を呑んだ。

「なるほどなるほど、どうやら最近のリースノット王国の兵の質は、以前と違ってずいぶんと上がっているようですね」

男は俺とスレインを観察しながら語ってくるが俺達としてはそれどころではない。

「どういう事だ?なんでここにヴァルキリアスの一角獣がいるんだ?答えろ!」

俺はいつでも男を制圧できるように警備隊から支給された警剣に魔力を通していく。通された魔力は警剣内で循環し強化された後、俺の体内に戻る。
これは最近、王都警備隊で採用された戦う方法だ。良質な魔石が安定供給されるようになった事で他国でも採用されていた戦闘方式が採用になったのだ。
これは少ない魔力量で、身体能力を効率よく数倍引き上げることが出来る。視界の端でスレインの体も薄っすらと白く光り始めた事を俺は見てとった。スレインも俺と同じで魔力循環法を使った戦闘術、循環魔闘術を発動させたようだ。

「私は貴方達とは戦う気はないのですよ?どちらかと言えば、力を貸してほしいのです。そう……我らがアリス皇女殿下が思いを寄せるリースノット王国第一王子を救う為に力を貸してほしいのです」

 俺とスレインはこの男は何を言い出したのかと思った。

「どういうことだ?救うためとは?何故、俺達にその話をする?」

王子を救うなら彼らの主から直接、言って貰えばいいはずだ。それなのに、何故俺達に直接接触してくる?

「シュトロハイム家と言えば分かりますか?」

ここ数年で急速に力を増しているリースノット王家を支える三大公爵家の一角であると同時に王国内最大の魔石供給をしている貴族。
今までは、他国で屑魔石扱いされて貿易制限対象外とされていた魔石を輸入して富を得ていた貴族家は、シュトロハイム家が品質の良い魔石を安定供給を始めた事により軒並み衰退した。
俺の実家だった侯爵家もスレインの実家だった伯爵家も例外じゃない。つまり俺達に実家の恨みを晴らすために手伝えと言うのか?馬鹿らしい。俺達はすでに実家から絶縁されている。いまさら実家のために動くつもりもまったくない。

「その顔色を察するにどうやらご理解頂けた物かと思います」

「ああ、理解したが無駄だ。俺達はとっくの昔に絶縁されてるから実家のためになんて動かない」

「そうでした。忘れ物でした。これを渡さないといけませんね」

 男はそう呟くと、花飾りが刺繍あれた女性用の手提げ袋を投げてきた。それには見覚えがあった。

「スレイン、これは……まさか!?」

俺とスレインは男へ視線を向ける。 

「貴様……何が望みだ!」

「取引は成立でよろしいでしょうか?」

「……」

「ああ、そうでした。そうでした。貴方達が、私の事やアリス皇女殿下の事を誰かに話すそぶりを見せたらその手提げ袋の持主はどこからへ旅にいくかも知れません」

「俺のせいで……」

声が聞こえてきた方へ視線を向けるとスレインがいつの間にか座り込んでいた。よく見ると、地面に落ちていた手提げ袋を抱えて震えていた。

「貴様っ!」

俺は怒りを露わにしたが人質を取られてる以上、下手な事は出来ない。

「さて、現状を正確に把握して頂けた所で、二つお願いがあります。一つ目は、王都警備隊の身分を利用して迎賓館の客間で休んでいるシュトロハイム家のご令嬢、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムを夜会場にまで連れてきて欲しい事。二つ目は、クラウス殿下の足止めをして戴きたい事です」

「それだけか?」

「ええ、それだけです。クラウス殿下と面識があり王都警備隊として警護対象となる迎賓館へも出入りができる。貴方達には御あつらえ向きの仕事かと存じます」

「分かった……言う通りにすれば、アンナは返してもらえるんだな?」

俺と男の話の合間に割り込んでスレインが内容を確認してくるがこれはまずい。男の目的がまったく読めない。
だから

「おい!スレイン!!」

スレインを止めるために声を荒げる。

「頼む、ユークリッド!アンナを……アンナを助けるために力を貸してくれ!!」

「分かった……。だが、一つだけ約束してくれ……か、必ず、人質は解放すると……」

「ハイ、アリス皇女殿下の名においてお約束します」

男はそう言うと俺達の前から姿を消す。しばらくすると、裏通りには人が通り始めた。

「スレイン、立てるか?」

俺はいまだに手提げかばんを持ったまま焦点を失っていたスレインを力尽くで立たせると裏通りの建物と建物の隙間に入った。

「ユ…ユーク……」

最後まで俺の名前を口にすら出せないのかスレインの顔はいまだに真っ青であった。

「とにかくだ、時間がない!」

今いる場所は丁度、王都警備隊の詰め所付近であり迎賓案までは走っても5分はかかる。おそらく、俺達に対策を取られないようギリギリのタイミングでこちらに接触してきたのだろう。

「迎賓館の客間は分かるな?」

「ああ……何度か行ったことがあるし……」

俺は、スレインの言葉を聞いて唇を強くかみ締めた。こちらの事情を知り尽くしそれを利用する周到さそして何より狡猾さに怒りが噴き出しそうになる。
ようやくスレインが人並みの幸せを掴めるところまで行ったのに、あいつらは俺達を巻き込んできた。

「いいか、殿下はかなり機微に聡い。今のお前だと足止めは難しい。だから殿下の足止めは俺に任せろ。スレインお前は、公爵令嬢様を夜会場までエスコートしたらすぐにの場を立ち去るんだ」

俺は、スレインが頷くのを見るとスレインを連れてその場を離れた。
そして迎賓館に向けて走る。だれも俺達を不審に思っていない。

「そろそろ迎賓館だ。私は殿下を探すからお前は客室へ向かってくれ」

頷くスレインと俺は別れた。


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