最強のFラン冒険者
求めた代償(中編)
「それじゃユーク坊、この瓶は置いていくからね。きちんと瓶を見ておきなさいよ?」
ミランダはそういうとユウティーシアを担ぎあげた。
「ミランダ、下してください。ユークリッドは私を心配して注意してくれただけなんです。だからきっと話し合えは分かり合えるはずです」
「ユーヤは少し黙ってなさい。これはユーク坊の問題なんだから」
怒りの矛先は俺の方にもきた。
だって俺は外見こそ美少女だけど中身は男なわけで、ミランダよりずっとユークリッドの悩みを聞けると思うんだ。
だから少しだけ話す機会を与えてもらえるだけでいいんだ。
「……ミ……ミランダこれを……」
ユークリッドが、布に入った物をそのままミランダに渡したかと思うと水の入った瓶を持ったまま家の中に入っていってしまった。
俺が外に出たばかりに起きた出来事なのに、こんなのって……。
「今日はうちに泊まりな、あと断るのは禁止」
「でも……せっかく昨日のシチューにアレンジを加えた物とパンを作っておいたのに……」
ミランダは俺を下すと大きくため息をついた。
「ユーヤ、一人で何でも出来ると思ったらダメ、あの子はそろそろその辺を理解しないといけないのさ」
「一人で?」
「そう、誰だって一人で生きてるわけじゃないの」
ミランダは俺の頭の上に手を置くと、まだ早かったかな?と首を傾げていた。
ユークリッドの家から、ミランダの家は歩いて2分ほどの距離であった。
俺は、ミランダの後をついていきながらもまわりを見る。
静で落ち着きのある住宅が並んでいる。
「さあ、ついたよ」
ミランダの声がした方へ視線を向けると、淡い赤を屋根とした喫茶店があり花壇には黄色い花が咲き乱れていた。
「秋なのに咲く花なの?」
「そうさ、これはイーリィスティと言って一年中咲く花で花言葉はずっと待っていますって意味なのさ」
「へー」
一年中咲く花か。でも、この花どこかで見た記憶が……どこだろう?
「さあ、ついておいで」
ミランダの後をついていき店内に入ると10近くある全てのテーブルに白いテーブルクロスがかけられていた。
テーブルクロスの上には先ほど花壇に咲いていた花が乗っている。
カウンターには。席が5席しかなくメインは相席のテーブルなのだろう。
「ここって、男女のデート御用達だったりしますか?」
「あら、よく分かったわね」
そりゃ分かると思ったが口にはしなかった。
それにしてもずいぶんと綺麗にまとめてある店内だと思う。
日本のスターバックスをオシャレにしたような物に近い。
「それじゃ住居は2Fになるからさっさと上がりましょう」
「はい」
階段を上がっていくと6歳くらいの2人の男の子と目があった。
その目はお姉ちゃんだれ?と言っている。
「初めまして、ユーヤと呼んでね。今日だけミランダさんのご厚意で泊まらせてもらう事になったからよろしくね」
このくらい砕けた言い方でいいはず。
子供たちはミランダさんの後ろに回り込むと俺を見て走りさっていった。
「ごめんなさいね、いつもはきちんと挨拶するんだけど」
「いえいえ、大丈夫です」
俺も小さい頃はあんな感じだったしな。
あまり気にしたらいけないと考えていたら先ほど、ミランダさんが数冊の本を差し出してきた。
「これはきっと貴女のよ?彼からのプレゼントかしらね?」
本を受け取り表紙を見ると魔術関連の本だった。
ユークリッドは俺との約束を守ってくれていた、それなのに俺は約束を守っていなかった。
俺が俯いているとミランダは、俺の腕を握るとリビングがある部屋まで引っ張って行く。
突然の事に驚いた俺は顔を上げるとミランダの表情は些か怒っているようだった。
リビングは、子供の洋服などが散らかっていてお世辞にも綺麗とは言えなかった。
まったくあの子たちはーとミランダは言っていたが怒ってるようには見えない。
「座って」
俺はミランダに促されるように椅子に座った。
さっきまでのと違ってやはりミランダは怒ってる。
「ねえ?私が何で怒ってるか分かる?」
俺は頭を左右に振るう。
分かる訳がない、いきなり怒り出す人間の心境など……。
いや、まずは相手を観察しすれば妥協線も取れるのではないか?
相手の瞳を見ようとするとミランダは呆れとも怒りともつかない表情を見せていた。
「そういうのやめなさいって言ったの!貴女、本当に自分の事が見えてるの?ずっと不思議に思ってた。
何であの子が、親に捨てられた子が貴女にあんなに短期間で惹かれたのか」
この人は何を言ってるんだ?
惹かれる?俺に?そんな事ある訳ないだろう?
俺にそんな資格がある訳がない。
「貴女とあの子は似てるから惹かれあったのよ、それはとても危険な事なの。分かる?」
分かるわけがない。
大体、俺とユークリッドが似てる?そんな事ありえない。
ユークリッドは、誰でも助けるようなお人好だ。
「その様子だと分かってないみたいね。貴女も頭も冷やしなさい
隣の部屋を使えばいいから、しばらく泊まっていきなさい」
俺はミランダの提案に頷く事しかできなかった。
ユークリッド自身も動揺を押し隠せずにいた。
何故、自分はあんなに怒ってしまったのだろう。
ユーヤにあんな怯えるような眼をさせるつもりはなかったのに、本当は一緒に……。
自分で閉めた扉に背を預けていたが、この水が入ってる瓶を移動しないといけない。
俺は持ち上げようとしたところで滑らせて瓶を落としてしまった。
瓶の表面には、赤い血がついていた。
そんな血をつけるのはユーヤしかいない。
ミランダも俺も血を流すような怪我なんてそうそうしない。
ユーヤに、大衆食堂で握られた手を見る。
「ああ……そういえばあいつの手、まったく家事なんてしたことが無いような手だったな」
それなのに、ユーヤと来たら料理も裁縫も掃除も高い水準で出来ていた。
分からない、ミランダにユーヤを監禁していた人間と同じことをしてると言われて頭が働かない。
「そうだ……まずは水を拭き取らないと」
バケツが入ってる場所までいくと掃除用具一式が綺麗に磨かれていた。
俺は雑巾とバケツを持って瓶からこぼれた水を拭き取っていく。
全て拭き終えた時には、日はすっかり暮れたのか部屋の中も薄暗かった。
そんな時、ユーヤの顔が思い浮かんだ。
暗いです!現代人は、照明をつけないと物が見えないのです!ほら、照明に魔力をとか言ってたなと俺は思った。
リビングに入ると、いつもよりも部屋を広く感じた。
「食事か……」
流しの方へ視線を向けると魔道コンロの上に鍋が置いてあった。
蓋を開けると昨日のシチューをアレンジしたスープが入っていた。
流しの上の棚にはお皿が2枚置いてあり、それぞれユークリッドの分、私の分を書かれた紙が添えられていた。
まったく間違えてユーヤの分を食べただけなのに根に持つ奴だなと思いつつも彼女らしいなとも思ってしまった。
彼女が作っておいてくれたスープを温め俺の名前が書かれたお皿を取る。
そしてリビングの椅子を引いて座ろうとするとリビングの床が綺麗に磨き上げられていた事に気が付いた。
適当でいいと言っておいたのに、きっと彼女の事だ。
ユークリッドは、掃除は出来るのに中途半端なのですとブツブツ言いながら掃除していたんだろう。
スープを手に取り飲む。
きっと私が作った料理は最高ですね!と彼女は俺に自慢してきたはずだ。
俺もおいしかったから頷いてたはずだ。
でも今はとても味気ない。
スープはとてもおいしい、だけど何かが足りないと思った。
ああ、そうか……これはあの時に似てるんだ。
貴族時代に親に相手をされずメイドが持ってくる料理を広い部屋で一人で食べてる時に……。
彼女の笑顔が見たい。
そして一緒に料理を食べたい。
何で、俺はあんな事を言ってしまったんだろう。
たった数日、彼女が居ただけだったのに、どうして部屋の中はこんなに広くて暗いんだろう。
彼女がくる前はそうでもなかったのに……。
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