最強のFラン冒険者

なつめ猫

求めた代償(前編)


「ユークリッド、それにしてもお前が魔法書を買うなんて何かあったのか?」

王都警備隊の仕事を終えたユークリッドとスレインは、その足で魔法書の取り扱いを専門に行う魔法道具店に足を運んでいた。ここの魔法道具店は人口が10万人のリースノット王国において唯一の魔法書を置いてある場所であった。
店内は、日本でいう所のコンビニ程度の広さがあり魔道コンロ、魔道冷蔵庫のように誰でも購入できる物の他に魔道ベルのような資格を提示しないと購入出来ない物が置いてある。
ユークリッドは、店内に入るとそれらには目を向けず書棚に向かう。

「何もない……少し気になった事があっただけだ」

詰め所から興味を示してついてきたスレインの問いかけに答えながら俺は、書棚の前に立つと魔法書を本棚の上から順に確認していく。
まずはユーヤは体を動かす事が極端に苦手だ。
そうなると、最優先として必要な魔法は身体強化魔法だろう。

身体強化魔法の習得が書かれてる本を手に取る。
ミランダが俺よりも強い力を発揮してるのは身体強化魔法の影響が大きい。
もし、ユーヤが魔力を持っていて身体強化魔法を使えるようになれば、彼女の私生活もかなり改善されるはずだ。

次に手に取ったのは、初級回復魔法が書かれてる本
刃物で指を切り落としたらダメだが少し切るくらいならこれで回復が出来る。
ユーヤは、料理が得意で家事が好きなようだからあると便利だと思う。

「それ本当に買うのか?」

スレインがさっきから俺の周りをウロウロしてきてマジで買うの?マジで?と言う目で見てくる。

「お前はアンナの所、行って来いよ。このくらいならついてこなくてもいいから……アンナの両親の所に顔を出しに行くんだろ?」

「そうなんだけど、何かお前いつもと違う気がして気になるんだよなー。何か隠してね?」

思ったよりずいぶんとスレインは鋭い。
ガキの頃からつるんでるから俺の態度から何となく察しているのだろう。

「今日、なんかずいぶんソワソワしてて仕事に身が入ってなかったよな」

スレインの話を聞きながら、俺はそうだろうか?と自問自答するがたしかにユーヤが勝手に外に出てないだろうか?とは心配していた。
彼女は無防備すぎる。だから本当はこの国に冒険者ギルドはあったが教えなかった。
冒険者の仕事は魔物と戦ったり迷宮に潜り探索したりするだけが仕事ではない。

雑務系の仕事もありそれは王都内だけではなく王都付近の町や村からの依頼も貼り出される。
中には臨時雇用の畑の耕し作業やウエイトレスの仕事なども書かれているからこそ、ユーヤには正直教えたくかった。彼女は、ずっと屋敷に監禁されていた事もあって常識に疎く本来なら危機感を抱かないといけない男の俺にも同性のように接してくる。
たしかにユーヤは見た目に反して、論理的に話を話を進めてくるがそれが通じるのは相手が話を通じる相手だけだ。
もし相手が話が通じない人間なら?彼女を抱き上げた時にも感じたが正直軽すぎると思って不安に思ってしまった。

そんなユーヤが、俺は……。

「ユークリッド、見てみろよ隊長達だ」

途中で思考の海から引き揚げられた俺は、スレインが指差している方へ視線を向ける。
そこはちょうど店内の壁にガラスがはめ込まれていていた事もあり王都の通りが見る事ができる。

「なんだ?あれは普通の探査魔法じゃないな?」

俺は一人つぶやきながらも目を凝らす。
俺たちの隊長が使ってる魔法は初級魔法師が使う生命体の大雑把な位置を確認するような探査魔法ではなく、それよりも上位の魔法だった。

「―――あの魔法は、指定探査魔法だ」

スレインの話に俺は眉を潜めてしまった。
犯人を追う際に使う魔法、それも初級魔法師が使える魔法の中でも上位の魔法を隊長達は仕事を休んでまで使って何かを探している。

「凶悪犯でも逃げ込んだのか?」

スレインの言葉に俺は違うと思った。
それなら王都警備隊の俺達にも話は降りてくるはずだからだ。

俺達にも降りてこない話で魔力量が多い隊長クラスを総動員して特定の人物を探してる?誰を?
考えがまとまらない、それでも膨らみ始めた疑念は消せずにいる。

「お、隊長達も解散するみたいだな。あまり多様できる魔法じゃないしな」

スレインは一人納得していたが、特定の人物を探してるのに焦っていない?
つまり王都に潜伏していて犯罪性になる可能性は低い人物だけど探す必要のある人間……。

そこで唐突にユーヤの顔が思い浮かんだがすぐに脳裏から追い出す。

彼女は王都の警備隊の隊長を総動員してまで探すような人間には思えないからだ。
弁論が得意なだけの見た目は15歳くらいの少女。
彼女を探してる可能性は低いと思った。


魔法書を購入した俺は、そのままスレインを分かれて家に向かって歩を進めた。
俺が購入したものは生活魔法と防御魔法と回復魔法と身体強化の4冊の魔法書だった。どれも初級魔法師が使う魔法の習得方法が書かれてる。これが使えるようになるかどうかは本人の資質が大きく影響してくるし俺が使える魔法は身体強化の魔法だけだ。

10分ほどで、家に着きドアを開けようとすると違和感を感じた。
ドアに鍵が掛かっていない。

たしかに仕事に出る前には鍵をかけたはずなのに鍵が開いていた。
家に鍵を掛けない人間なんかこの王都には限られる。いくら治安が他の地方と比べていいとは言っても鍵をかけないのは……!

「ユーヤ!!」

扉を開けて中に入ると、ユーヤの靴が無くなっていた。
部屋の中を見ても荒らされた様子はなくいつもよりも部屋の中は綺麗に磨きあげられてはいたがユーヤの姿が見えない。
俺が仕事に行く前に、俺と一緒じゃない時は家から出るなと言った時にユーヤは分かったと言ってはずだ。
其れなのに居ないと言うのはどういう事だ?

まさか……出ていった?

嫌、そんな訳がない。彼女は聡いしお金を持っていない。それなのに出ていけるわけがない。
考えてるだけだと分からない。
まずは周囲に聞き込みをしてから……。

玄関を開けて外に出ようとすると何かにぶつかった。

「―――きゃっ」

俺とぶつかったユーヤが倒れる前に、彼女の腰を左手で抱きかかえる事が出来て倒れるのを防ぐことが出来た。

「―――ユークリッド。突然、ドアを思いっきり開けるなんて危ないです。もう少しゆっくり開けないとダメですよ?」

いつも通りの彼女が目の前にいた。
そしていつもどおり俺に語りかけてきた。

「お前は何してるんだ!!!!」

「えっ?」

「一人で外を出歩くなと言っただろう?何かあったらどうするつもりだ?」

彼女の顔を見て安心したと同時に怒っていた。
俺が見てる間にも彼女は茫然として俺を見上げてくる。
それが余計に腹立たしい。
この俺がどれだけ先ほど心配していたのか、今日一日彼女をどれだけ心配していたのか分からないのだろうか?

「……ちがうんです。お水を汲みにいってたんです。お掃除してたらお水が「そんな事はどうでもいい!」」

「どうして分からないんだ?お前は自分が常識が無い事くらいは分かってるだろ?」

「で……でも」

「その辺にしておきな、ユー坊。女は所有物じゃないんだよ、少し頭を冷やしな」

今まで気が付かなかった。
ユーヤの後ろからミランダが近づいてきた。

「ユーヤにも否はあったかも知れない、でもねそんなにガミガミ言ってどうなるのさ?ユーヤは生きた人間なんだよ?それを家から出るな?ってアンタずいぶん偉くなったね。貴族みたいに気に入った人間を閉じ込めて愛でるつもりなのかい?」

ミランダの言葉に俺は、ユーヤが生まれてからずっと家から出してもらえず監禁されていた事を思いだす。

「違うんです、ミランダさん。私が全部悪いんです、約束を守らなかったから」

ミランダと俺の間に入ってユーヤが俺を庇ってくれるが、ミランダはユーヤを抱きしめると俺を見上げた。

「ユーヤは今日は、うちに泊めるからアンタはしばらく頭を冷やしな」





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