異世界に転移した俺の左手は神級パワーで爆弾持ち!?

極大級マイソン

第12話「真理の扉」

「いいか2人とも。俺の目的はただ1つ、日本への帰還だ。そのためなら藁にだって縋るし泥水だって啜ってやる。そしてたった今、俺たちのパーティーに最高の戦力とも言える仲間が入ってくれた」
「うむ!」
「という訳で、俺としては早速その力を奮ってもらうつもりでいる。何せ今の俺の貢献ptはマイナス。1000000ptという無茶なポイントを稼ぐためには、1日でも早い行動が必須だ」
「うむうむ!  リクトよ、その心意気や良し! 時は有限なり、故に思い立ったが吉日なのじゃ!」
「ええっ! 今からって、もう夜更けよ!? こんな時間に外へ出てモンスター退治なんて危ないわよ!」

 確かに、夜間の外出は危険と隣り合わせ。そのくらいの知識は俺にだってある。ドラクエでも、夜に出現するモンスターの方が強いしな。
 しかし、そうも言っていられないのが現実だ。1年365日と考えても、日に3000pt貯めなければ間に合わない計算なのだから、多少のリスクは許容しなければ。

「ファイブよ。お主が嫌なら家で待っていても構わんぞ。妾は上位存在故に、リクトとの付き添いは妾1人で事足りる」
「……それは、もしかして私を挑発してるのかしら?」
「いや、本心じゃが?」
「それは一番腹がたつパターンね……。ああわかったわよ! 私も付いて行くから」



 *****



 そんな訳で、俺たち3人は街外れの草原へ向かう。以前に行った場所は、俺のワンパンで滅茶苦茶だろうから今回は別の場所。反省を踏まえ、前と同じ失敗を犯すつもりはない。

「さてと。この辺りから外灯も少なくなって魔物も現れるようになってくるから、呉々も用心してね?」
「くそっ、思ったより暗いな。手元のライトだけじゃ、遠くが全然見えない」
「本当に人間とは脆弱じゃのぅ。リクト、妾ならばお主が気が付かない魔物の存在も確認できる。故に、妾がお主の目になっても良いぞ」

 それは有り難い。どうやらセンチェルの目は、この真っ暗な中でも辺りを見渡せるようだ。自分のランタンを持ってくるのを忘れた、どこぞの無能案内天使よりよっぽど役に立つのかもしれない。

「ちょっと忘れ物しただけじゃない! ねえ陸斗陸斗。私も"天使アイ"を使って、陸斗の目になっても良いんだけれど?」
「何、ファイブにそんな特殊能力が?」
「ううん。視力は一般の人間と相違ないわ」
「家で寝てろよ」

 今のところ皿洗いくらいしか役に立ってくれてないポンコツ天使をほっといて、俺はセンチェルに話を振る。

「助かる。センチェルが目になってくれれば、魔物が闇夜に紛れて襲ってきても対処出来るからな」
「妾に任せておけ。妾が仲間になった以上、大船に乗ったつもりでいると良い」
「ははっ、頼りにしてるぞ」

 ……もちろん、完全に信用しているわけがない。今日出会ったばかりの相手なのだから。
 相手は最高クラスの魔物、ドラゴン。敵対すればひとたまりもない。それに、油断させた瞬間にパクリと襲ってこないとも限らない。
 とある転生者に復讐するためにここへ来たと言っていたけれど、それが真実だという証拠はないし、他の目的があって俺に近づいてきた可能性も考えられる。俺自身に用はなくて、神様に近づくために俺を利用しようとしているのなら、用済みになった瞬間にガブリと……。
 なんて、少々ネガティヴな考えを連想してしまう。
 しかし、この世界を生き抜くためには、あらゆる可能性を想定しないと……。

「……リクトよ。思ったことは、すぐに口に出した方が良いぞ?」
「ふぇ!?」

 センチェルが俺の考えを見透かしたように口を開いてきた。
 思わず変な声が出てしまう。
 そんな俺の様子をよそに、センチェルの言葉は続く。

「妾は、人間のお主よりずっと長い時間を生き、故に多くの失敗を繰り返してきた。後悔先に立たず。昔の妾は、たくさんのチャンスを不意にした。小さい事で二の足を踏んで、言いたいことも言わずに……。じゃから妾は、以降言いたい事は例え相手が100%不快になるとわかっていても喋ることにした」
「それは極端だな」
「まあ、それをお主に強要するつもりはないが」
「……そうか」
「…………」
「…………」

 そう言って、センチェルは黙ってしまう。
 ………………。
 …………。
 ……。
 え、何この沈黙?
 いやいやいや、ちょっと気まずい感じなんだけれど何だよこれ! まるで俺が悪いことをしたみたいじゃないか!!
 ほら、なんかファイブが女の子を泣かせたクソ野郎を見る目で俺を睨んできてるし! 何だよこの天使! 俺にどうしろってんだ!
 えぇ〜、何だよこの雰囲気。別に大したこと考えてたわけじゃないって!  ただ自分の真隣に30000ptのチョー強いドラゴンがいるから怖いってだけですから!

「いや、何というか……。さっきは頼りにしてるって言ったけど、あれは嘘。正直、ドラゴン相手にどう接したら良いかわからなくて困っている」

 場の空気に耐え切れなかったので、仕方なく俺は思ったことを話した。
 そんな俺に、センチェルはキョトンした顔を見せた。

「なんじゃ、そんな事で妾に遠慮していたのか。お主が」
「えっ?」
「それを言ったら、妾の方が接し方に困るわ。何せ、真隣に自分の腕を軽々と抉った怪物がいるんじゃからな」
「そ、それは……」

 それを言われたら二の句が継げない。まさにその通りの話なのだから。
 思えば、あの岩山での戦いは実質俺の勝利で終わっている。センチェルからしてみれば、自分より強いかもしれない相手が側にいるという事になるのか。

「自分と関わりのない、全く知らない相手なぞ怖くて当たり前じゃ。ましてや、強者ならば尚更じゃよ」
「……センチェルも、俺が怖いのか?」
「うーん。……そうじゃな、怖くないといえば嘘になる。じゃから、こうして行動しているのではないか。未知との遭遇をした先に、何が待ち受けているのか。それは二の足を踏んだものだけが知れる境地じゃ。そりゃあ怖いよ。でも、怖いけど、かつて妾はその先を進んでみようと、そう決めたのじゃ」

 そう言って、センチェルは俺の顔をじぃーっと見据えてきた。
 少女の瞳は宝石みたいに蒼く澄んでいて、覗き込むとそのまま吸い込まれてしまうんじゃないか。
 そんな妄想をしてしまうくらいに、その瞳は蠱惑的な雰囲気を纏っているようだった。

「じゃが、これは妾が志した道。脆弱な人間たるお主が、どのような道を選ぶかはまた別じゃ」
「…………」
「日本へ帰りたいのじゃろう? その道が苦難の連続ならば、お主なりの真理の扉を開かねばならん。自分の目的を達成するための、自分だけの扉を。まあ話を戻すとじゃな。妾はお主より長生き故に、些細な事では拗ねたりせん。それだけは保障しよう」

 だから言いたいことがあるなら言えと、センチェルは言った。
 ……要するに、それだけのことを言うために、彼女は長々と喋っていたのだ。
 年の功と言うべきか、何というか。ひとまず俺がとっさに思ったのは。

「それっぽいことを言って、俺を懐柔しようとしても無駄だぞ。第一、全然理性的じゃないし」
「そりゃそうじゃ、これは妾の真理なんじゃからな。はっは! 『考えるな、感じろ』とは誰の言葉じゃったか! 即ち妾の真理とは"直感"!! 本能の赴くままに、感情に振り回されながら生きる!! 故に速い! 早い! 疾い! この世は"速さ"こそが正義なのじゃ!!」

 センチェルは高らかに笑った。つられるように俺も苦笑いしてしまう。
 スピード厨な感情主義者か。正直言って、あんまり真似にはしたくないな。変人臭いし。
 でも、『自分だけの真理』という言葉は、少しだけ気に入っている自分がいた。善い悪いは無視して、このドラゴンは自分なりの真理を持って生きている。その姿勢だけは、何故かカッコいいと思ってしまった。
 ……俺も、自分の真理を見つけられるだろうか? 自分の生き方を決める、道しるべのようなものが。

「え、陸斗には無理よ。だってまだ日本では高校生で生活保護も抜けてないような子供だったじゃない。そのうえ特に趣味があるわけでもなく、努力をしていたわけでもない。そんな向上心ゼロのさとり世代(笑)だったあなたが! 皿洗いも出来ないくせに自分なりの生き方とか!!」
「うるせー俺より年下のくせに! 生まれたての分際で偉そうな口聞くなよ! 大体、皿くらい洗えるわ!!」

 全く、人の心を読んでグチグチと。何なんだこの天使は!

「ほらその態度! 生まれの差で優位に立とうなんてまさに子供のすることじゃない!」
「ああっ!? 俺より大人だってんなら忘れ物をする癖、いい加減になくしやがれ! 毎度毎度事あるごとにポカやらかして役に立たない分際で!!」
「今その話関係ないでしょォ?!」

 やいのやいのといがみ合う俺とファイブ。ここ最近、外出するときはいつもこいつと口喧嘩しているような気がする。何故だろうか?
 そしてしばらく経ってから、俺は少し離れたところで、センチェルが好奇の目でこちらを見ていたことに気づいた。

「何だ?」
「いや、なに。妾は以前から、転生者と天使はどのような関係を築いているのか興味があったのじゃが……。想像していたより愉快な様じゃったわ!」

『これだから未知との遭遇はやめられん!』と、センチェルは謎の高笑いを始めて。
 俺とファイブは、2人揃って首を捻っていた。

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