異世界に転移した俺の左手は神級パワーで爆弾持ち!?

極大級マイソン

第2話「金が欲しい」

 前回までのあらすじ。
 俺、大宮陸斗はワケの分からない内に死に、ワケの分からない内に異世界へと飛ばされた。
 今すぐ日本に帰せという、俺の要求は聞き入れられず。翼を持たない自称天使ファイブに連れられ、俺は異世界を歩くのだった。

 ……で、異世界に来てからの俺の生活は、散々たるものだった。
 何が散々かといえば、第一に金が無いことである。
 生活に必要なものはおろか、食べ物も住まいも無い現状はそこらのホームレスと変わらない。
 というかホームレスだ。まごうこと無きホームレスだ。だって家が無いんだもの。

「よし、まずはお金よ! 全てはそこから始まるわ!」

 ファイブの、そんな無責任な発言の元、俺たちはバイトを探すことになった。
 日本でいうハローワーク的な所に行き、そこでの紹介でとある食事処の皿洗いを受け持った。
 俺がこのバイトで一番驚いたことは、異世界なのに洗い場に"蛇口"があることだった。
 しかも洗剤まである!

「言ったでしょ? ここは異世界といっても、文明レベルは日本と大差ないのよ。もちろん差異はあるけど、たいていの生活用品は揃っているはずよ」
「じゃあ、ネットも繋がってるのか?」
「似たようなのならあるわよ」
「マジでか!?」

 アルバイトなんかした事がない俺だったが、皿洗いはよく家でやらされていたので大きな支障はなかった。
 しかし、給料は少ない。食事処の皿洗いなので仕方ないのだろうが、あれだけ働いて5000円って……。時給で換算すると、日本の最低給料より安いぞ。

「そもそもなんで通貨が"円"なんだよ?」
「それは日本に合わせてるからね。言葉や文明同様、この世界のあらゆる部分が日本人を軸として創り出されているの」
「……それは、俺みたいな転生者に合わせてるって事か? 日本人の転生者が困らないように、生活とか環境とか、そういうのに不都合を感じさせない世界を選んで、そこに転生者が送られるのか?」
「というよりは、この世界そのものが、日本人転生者専用の世界といっても過言はないわ。この世界を含め、神様は地球のあらゆる国の転生者に向けた世界を数百ほど創造しているから」
「スケールでかいな!!」

 要するに、俺が来たこの世界は日本語が主流で、通貨も円で統一されているわけか。それにしては、労働基準法は適応されていないようだったが……。
 生活をするにおいては非常に使い勝手はいいのだろうが、何故だか台無しにされた感が否めない。街の風貌は凄く異世界チックだったから、余計にその違和感が浮き彫りになっていく。
 まあ、俺はこの世界に長居する気はないので、別にどうだっていいのだが。
 幸いにも、仕事先の店主の計らいで物置小屋を貸してくれることになったので、寝床の心配は無くなった。
 あとは、せめてまともな暮らしを送れるようにしないとな。

 次の日、俺はファイブと今後のことを相談した。

「なあ、持ち物を忘れたことはこの際もういいけど、それでもこのままじゃまずいだろう。何が言いたいかといえば金が欲しい。何とかならないのか?」
「ふっふっふ。陸斗、私は何も考えてなかったわけじゃないわ! 異世界でお金を稼ぐといったら、モンスター討伐が一番よ!」

 というわけで街の外へ。
 ファイブが出掛ける前にスコップを買った。これからのモンスター討伐に使うそうだ。
 街から少し離れた草原には、異世界のモンスターが点々と見えた。
 ファイブが目を付けたのは、その中の一体である『黄色いうさぎ』というモンスターだった。

「ていうかあれモンスターなのか? ただの黄色いうさぎに見えるけど……」
「無知な陸斗に、この世界でのモンスターの定義を教えてあげるわ。モンスターは"魔物"、つまり魔力を内包した動物たちのことを言うわ。但し人間は除く」
「魔力を内包していると、どうなるんだ?」
「魔法が使える。魔法についての説明は、必要かしら?」
「ドラ◯エ程度のファンタジー知識でいいのなら問題ないぞ」

 結局、魔法についての説明をされたのだが、何が何やらさっぱり理解できなかった。
 魔法を使えるようになるには経験と、高い精神力が必要らしいのだが、モンスターにもそのような性能を持っているのだろうか?

「種族によるけど、人間よりモンスターの方が魔法の質が良いことはあるわ。自然界を生き抜く猛獣たちは、日々生きるか死ぬかの戦いを繰り広げてるのだもの。経験値も精神力も馬鹿にできないわ」

 ファイブが俺の考えを読み取ったのか、そんな感じに答えてくれた。ありがたいのだが勝手に心を読むのはマジでやめて欲しい。
 で、この黄色いうさぎも、そのモンスターの一種らしいのだが、想像していたモンスターのイメージとは違い、全然強そうには見えない。
 黄色いうさぎは食用としてよく食べられ、複数狩れば相応のお金になるらしい。
 生き物を狩ったことはないが、これも生き抜くためだ。頑張ろう。
 まずは初心者である俺のために、ファイブが黄色いうさぎの捕まえ方を教授してくれた。

「最初に地面に穴を掘るわ。次にその穴を木の葉や枝で塞いで、穴を中心にしてコの字で囲んだ柵を作る」

 ファイブの指示通りに作業を進め、二人で一つの深い穴と石と囲んだ柵を作った。
 俺は穴を掘り、ファイブは柵を作る共同作業。
 出掛ける前に買っていたスコップはこのための物だったようだ。
 準備に1時間以上掛けて、罠は完成した。

「……おい、これは落とし穴か?」
「そうよ。黄色いうさぎは、普通のうさぎより体が小さくて素早いの。でも凄くおくびょうで、敵に襲われた際は狭い隙間に篭って敵から逃れようとする習性があるわ。それを利用して、この罠に黄色いうさぎを誘導し、穴の中に落とすのよ!」

 ……原始的過ぎやしないか?
 とはいえ、俺たちは身に纏うもの以外何もない無一文だ。うさぎたちを捕らえる便利グッズなど持っていない。
 仕方なく、俺は目標の黄色いうさぎをひたすら追い掛け回し、罠へと誘う作業をした。

 3時間ほど粘ってようやく2匹捕まえた。
 捕らえたうさぎは1匹10000円。頑張った甲斐もあり、割はかなり良かった。

「でも疲れたなぁ〜。皿洗いの5倍疲れたわ」

 俺たちはその日の夕食を終え、物置小屋に戻っていた。
 先日の皿洗いより割りの良い仕事だったが、体力の消耗は著しい。ただの高校生だった俺にはキツ過ぎた。
 俺の不満は、日を追う毎に増していった。

「なあファイブ。神様との連絡はまだ出来ないのか?」
「うーん時間を置いて交信をしているんだけど、まだね。神様は気まぐれだから、返答してくれるかも気まぐれなのよね」

 どんだけ適当なんだ神様。普段何してるんだよそいつ。

 お金は無い。寝床は物置小屋。
 俺は先日ファイブに、この酷い待遇の改善を要求した。
 そこで彼女が思いついた策は、この世界を創った神様、ファイブのマスターと交信して頼み込むというものだった。
 で、神様との交信をずっと続けているそうなのだが、未だに連絡は取れないようだ。

「だ、大丈夫! 神様は気まぐれだから、きっとそのうち話せるようになるわよ。気長に待ちましょう!」

 相変わらず無責任なことしか言わない天使だ。
 そのうちが100年後とかじゃないだろうな?

 どうしようもできないまま、俺たちの異世界生活は続いていった。
 その日暮らしの生活に嫌気がさしながらも、俺は絶対にへこたれないという誓いを立て、懸命にその日その日を生きて来た。
 時々トラブルに巻き込まれようとも、俺の心は決してぶれない。
 俺は、絶対に日本に帰るんだ!

 ……で、そんな日々が続き、俺の異世界生活は一週間を過ぎようとしていた。
 朝一番に、俺は気だるい気分で物置小屋を後にする。朝の洗顔をしに行くためだ。水洗場にやって来た俺を待ち構えていたのは、朝から興奮気味でいるファイブだった。
 何故そんなに楽しそうなのかと事情を聞くと、ようやく神様との交信に成功したとらしい。その言葉に、俺は盛大に歓喜した。
 やっとこの生活とおさらば出来る。そう思うと、自然と喜びが湧き上がって来たのだ。
 俺たちは早速、その神様と話をするため、街外れの草原で待ち合わせした。
 支度を終えて、俺とファイブは意気揚々と草原へと向かった。
 数日ぶりに浮かべた俺の笑顔は、多分すごく朗らかだった。

 ……それが悲劇の始まりになろうとは、この時の俺は思いもしてなかった。

 俺はこの日、神様から力を授かる。
 それは、神にも等しい力と、

 ……世界を滅ぼす"爆弾"だった。

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