むかしばなし

鬼怒川 ますず

消えない約束


「ベオ…私はあなたを愛してる。たとえ私が消えても、いつの日か戻って来てあなたに会う。神様がそう約束してくれたの」

「神様…また神様か…!そんなモノのせいで君がこんなに苦しんでるのに、君はどうして元凶である神様なんてモノに約束なんてしたんだ!」

ベオは苦しい顔で、彼女の頭を胸元の近づけ泣きわめく。
消失は、もう胸元まで迫ってきていた。

「ベオ…私はさ、神様も世界の危機も本当はどうでもいいの……貴方が、無事に過ごせる世界ならそれで…良いの…。こんな結末…嫌だったけど…」

震える手でベオの頬を撫でる。
その顔は涙で濡れに濡れているのに、それを拭おうとする。
涙は尽きない。ベオはその涙を止めることはできない。

「ねぇ…約束してくれる?」

「…約束?」

「そ、私とベオの。もし何百年、何千年…それこそ数えてもキリがない年月が流れた後に私が戻っても…絶対に貴方でいて」

「……」

「優しくて、それでいて頼りになって、物知りで、いつだって私とリイナ、セイレンを気遣いながら生活してくれた。時々、慌ててしまってみんなから笑われる…そんな、私のベオでいて…」

微笑み、一瞬だが消えていた目に光が灯った。
光彩とはいかないが、その瞳の色にはいつもの…それ以上に綺麗で真っ直ぐな意思があった。ベオはシエラの言った事を、ただただ頷き了承する。

「約束する…!僕は君を…変わらない君を待つために、僕は変わらずに待っている、ずっと、世界に人間がいなくなっても、化け物はずっとここに居続ける!たとえ、滅んだとしても僕だけは…!」

そう言って、ベオは強く彼女を抱きしめる。
シエラはもう顎先まで消えていた。手も握れなかった。気付いた時には消えていた、それがベオにとっては悔しかった。

そして、シエラは口元まで消失が進んだところで口を開く。


ありがとう。
またね。

ただそれを聞くことはできなかったが、ベオはその耳で確かに声なきその言葉を聞き取った。
涙を擦り、ちゃんと両目で彼女が消えるのを見届けようとした。

その間に、シエラは消えた。
瞬きの一瞬のように、散ってしまった。
ベオはそれを目の当たりにし、ようやくこの現実が残酷であり、何の救いもないものだと自覚した。

永遠の命、永遠の肉体。
それがとても酷なものだと、大昔に知ったその感情を再び思い出し、彼は叫ぶ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!!シエラァァァァァァァァーーーー!!!!」

森中に、いや、地上中に響いたかもしれないその慟哭。
悲しみに押しつぶされ、悲劇を味わったその声。
化け物はまた、一人ぼっちになる。

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