むかしばなし

鬼怒川 ますず

純粋なる奇跡

空は快晴。
ある国の田舎町のすぐ近くにある森の木々の匂いは青く、天と地の恩恵を受けて共生している動物達が囀りや狩りに勤しむ。

いつもの日常。
森の外の世界では多くの人間が醜く生きている中で、彼らはこの迷いの森の中で平和に生きている。
何も変わらない森。
しかし変化があった。
その変化は僅かであり、森に住まう彼らには微々たるものだったに違いない。

リスや鹿が辺りを挙動を止める。
虫が動きを止める。
草や木が呼吸を止める。

一瞬の出来事だった。
それは彼らが生き絶えたからした行為ではない。

拒絶。

森に住まい、外部からの来訪者も食物連鎖の輪にい入れる彼らですら、その変化…憎悪するべき存在に拒否感を覚えたからだ。

恐ろしい、怖ろしい、おそろしい、おそろしい、絶望おそろしい。

息を止め、その一点に集まる醜さに彼らは野生としての恐怖を感じた。
だが、本来なら逃げ出すであろうソレに対して彼らは背を向けようとしなかった。

現状維持。

何故かは分かならなかった。
もしここで逃げ出せば、この森を失う。
あの黒い感情の集まる一点にいる誰かが消えればこの森も消える。

その何故が分からないのに、体の向きを変えない。
本能にも似た叫びが彼らの足を退かせない。

森を失いたくない。

その感情は動物だけのものではない。
虫たちも、巣穴から飛び出してはその一点に頭を向ける。
草木も風がないのにさざめきを起こし、木から木へと情報を伝播させる。

そして、彼ら『迷いの森』の住人は奇跡を願う。

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