むかしばなし
喪っても失うのが嫌な『人間』
リイナの死、セイレンとベオの危機、ホムンクルスである自身の身の危険。
色々と、色々と起きすぎた。
でも。
「…そうか」
あの人の語気に何か変化が起きた。
「…シエラは、こんな化け物に利用されようとしていたのか」
物陰から顔を出して彼の顔を見る。
いや、その身体を見た。
左腕が、目に見えるように蠢き出した。
ゾクリとシエラは初めて見る彼のそれに恐れた。
あれは不死とは違う。
ベオの背中が服の上からでもわかるぐらい躍動し始めた。
「運命があるのなら、娘を殺し、妻をも奪おうとするこの化け物を殺せる機会を与えてくれたことに感謝する…」
ベオが、彼じゃなくなる。
あれだけ優しかった彼が、あれだけ温情だった彼が残酷になる。
この城でかつて行われていた殺戮、彼が来た半年間でも、彼はシエラが殺した旅人を丁重に埋葬してきた。
そんな彼が殺すと言った。
シエラは耳を疑った。
でも、変化は止まらない。
彼の顔が遠くから見ているのにみるみる変わっていくのが分かる。
見たことのない顔。
聞いたことのない恨みの篭った声。
感じたこともない嫌な予感。
「…殺す、私はお前を殺すよ『』…」
もうそれ以降の言葉は聞きたくなかった。
シエラの何かが砕けそうで、何かがおかしくなりそうで、シエラは震えた手を止めると剣をしっかりと握り、物陰から姿を現わす。
失いたくないもの。
喪いたくないもの。
二つのうち一つを喪った彼女はもう一つを失いたくなかった。
今いるあのリイナは偽物、中身はあの健気で純粋なリイナではない。
娘の笑顔を思い出し、胸に空いた虚無の穴から何かが湧き上がる。
愛する夫の声と優しさを失いたくないと、彼女の頭が叫んでいる。
血に飢えた獣のように、かつて多くの命を奪い屍肉を貪った化け物。
あの化け物は私だけで十分だ。
「…私は…シエラを守る……」
その言葉が聞こえた時にはシエラは疾走していた。
穴ができたことによって地中にあった土でぐじゃぐじゃになった庭を、彼女は狂気の剣士として駆けた。
そして斬りかかる。
彼女の娘を殺し、彼女を狙う人間に向かい。
色々と、色々と起きすぎた。
でも。
「…そうか」
あの人の語気に何か変化が起きた。
「…シエラは、こんな化け物に利用されようとしていたのか」
物陰から顔を出して彼の顔を見る。
いや、その身体を見た。
左腕が、目に見えるように蠢き出した。
ゾクリとシエラは初めて見る彼のそれに恐れた。
あれは不死とは違う。
ベオの背中が服の上からでもわかるぐらい躍動し始めた。
「運命があるのなら、娘を殺し、妻をも奪おうとするこの化け物を殺せる機会を与えてくれたことに感謝する…」
ベオが、彼じゃなくなる。
あれだけ優しかった彼が、あれだけ温情だった彼が残酷になる。
この城でかつて行われていた殺戮、彼が来た半年間でも、彼はシエラが殺した旅人を丁重に埋葬してきた。
そんな彼が殺すと言った。
シエラは耳を疑った。
でも、変化は止まらない。
彼の顔が遠くから見ているのにみるみる変わっていくのが分かる。
見たことのない顔。
聞いたことのない恨みの篭った声。
感じたこともない嫌な予感。
「…殺す、私はお前を殺すよ『』…」
もうそれ以降の言葉は聞きたくなかった。
シエラの何かが砕けそうで、何かがおかしくなりそうで、シエラは震えた手を止めると剣をしっかりと握り、物陰から姿を現わす。
失いたくないもの。
喪いたくないもの。
二つのうち一つを喪った彼女はもう一つを失いたくなかった。
今いるあのリイナは偽物、中身はあの健気で純粋なリイナではない。
娘の笑顔を思い出し、胸に空いた虚無の穴から何かが湧き上がる。
愛する夫の声と優しさを失いたくないと、彼女の頭が叫んでいる。
血に飢えた獣のように、かつて多くの命を奪い屍肉を貪った化け物。
あの化け物は私だけで十分だ。
「…私は…シエラを守る……」
その言葉が聞こえた時にはシエラは疾走していた。
穴ができたことによって地中にあった土でぐじゃぐじゃになった庭を、彼女は狂気の剣士として駆けた。
そして斬りかかる。
彼女の娘を殺し、彼女を狙う人間に向かい。
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