むかしばなし

鬼怒川 ますず

『』

「リイナを……殺した?」

あまりの言葉に衝撃を受け、声がうまく出せない。
でもリイナはそれを聞き、嘲笑うかのように続きを語る。

「丁度いいところにいたからな、魂喰らって私がこの身体を手に入れたわけだ。運が無い娘だったと思うが、またこれも運命と神の計らいというものだ」

リイナの口を借りて喋る何かは余裕で語るが、ベオはもう聞いていなかった。
ベオ自身、自分が先に駆け出し動いた事に気がついたのは5歩目だった。
剣を片手にいつの間にかリイナに斬りかかろうとした。

リイナはそれを読んでいたのか、軽い調子で剣を構えるとベオの剣撃を受けて両者は鍔迫り合う。

「どうして殺した!!なんであの子を殺した!!返せ!!今すぐその体から出ろ!!!」

「落ち着けよ人間、俺が取り憑いた方が世界のためだぞ?」

「黙れ悪魔め! 」

ベオはすぐにリイナから離れると再び斬り込む。
対してリイナはそれを笑顔で受けきり、更に攻勢に出てきた。
ベオも剣の腕はあるが、シエラとリイナ以上では無いので受けるだけで精一杯だ。

18手でお互いに間を開け、息を整える。
ベオは息を荒げ、リイナは余裕の表情を浮かべてベオを見る。
状況は最悪。
だからこそベオは一旦冷静になった。
まずは整理をする。

「…お前達はなんなんだ?その怪物やお前は何だ?」

「あぁ?そんなこと聞いても…とはいえ、これもある意味運命。神の配下である私の名前を聞くのはいい心がけですね」

ごほん、と咳をしてからリイナは語る。

「私は『』。かつてこの世界を闇に染めようとした邪竜であり、神の配下の者。この異形は『一』、私に賛同した200名の信徒の成れの果てだ」

「……ちょっと待て、邪竜ってまさか!」

「神話上、私に酷似している竜が沢山いるからわからんだろうが、この城の何処かにあるホムンクルスの肉体の元となった男が倒した邪竜といえばわかるだろう」

リイナは悠々と語る中、質問したはずのベオは何も言えず固まった。
突拍子もない、嘘のような話。
まるで違う世界に迷い込んでしまったのかと見間違えてしまうほどに。

「…大昔に殺されたモノが生き続けるのは可能なのか?」

「魂の移動は別に何の不思議でもない、何度も天と地獄から誘いは受けた。だがそれを断り地上を彷徨う事が、邪竜の私が神から貰った贈り物よ。断り続ける限りこの肉体から肉体への循環は続く、それにしてもいい恵体だコレは、死んだ本人には感謝したいほどだ」

しかし現実は目の前で起きている。
あのリイナを殺して肉体を得たという邪竜と黒い異形が答えだ。
現実と答え、大切な者を亡くす痛み。
一気に頭と心で理解し許容できるものではなかった。

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