むかしばなし
意気地無し
 私はシエラ。
 森の奥の城に住む化け物。
 人の姿をした、人ではない化け物。
 作られた意図も私以外のものを手に入れようとした人間の欲望のみで、当然その欲望の中では私は必要ない存在だった。
 そんな運命。
 だからこそ、一つの村を壊滅させたあの時の狂気と蛮行には悔いと同時に感謝もあった。
 感謝があるということもおかしい。
 私は多くの人の命をこの手で奪ってきたのだ。
 その結果が城から出れない呪縛…いや、この顔のせいでもある。
 美貌が幽霊を縛り付ける。あの錬金術師がかけた呪いの要因はこの顔だ。
 多くの悲劇を起こしたのも、生き地獄を味わうことになったのもこの顔のせいだ。
 でも、あの時の狂気が救われることのない私の運命を変えたのだ。
 もし、呪いがなかったら。
 もし不死ではなかったら。
 今の私にはとても怖い未来だったろう。
  でも私は運命を変えたはずだ。
 その結果が2人の愛する人と大事な召使いとの生活なのだから。
 だから私は感謝する。
 たとえこの場で娘と相対してもだ。
 私は今、娘のリイナに対して剣を突き付けている。
 リイナも震えた手で私の愛剣を握って構える。
 その姿には怯えや恐怖、その他雑念や感情が混じっているのがわかる。
 私もそうだ。
今すぐこの手を引っ込めたい。
剣を落として私の娘を抱きしめたい。
ずっと一緒にいたい。
でも、それは出来ない。
リイナは不死じゃない。
彼女は普通の人間で、私達とは違って永遠の生を得ていない。そのような中で一緒に暮らし、老いて死ぬ姿を私や彼は見たくないはずだ。
だからこそ、リイナをこの城から追い出してもう二度と会わない為にも、私はこうするしかなかった。
彼はリイナに説明したほうがいいと言ったが、あの子は言っても聞かないはずだ。
あの子は良い子だ。
私の娘かと疑うほど、あの子は純粋だ。
世俗とは無縁だから仕方がないと思うけど、それでも私が見てきた人間以上に綺麗だ。
あの子の天性、私とは正反対の存在だ。
「お母様……や、やめて下さい!わ…私は…ッ!」
あぁ聞きたくない。
私はリイナがその言葉の続きを言う前に彼女との間合いを一瞬で詰めてから腕を少しだけ切った。一瞬のことでリイナは理解できなかった。
痛みに気付いた時には大きい叫び声をあげ、床に倒れた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「…っ」
リイナの初めて聞く絶叫に近い叫び。
浅く切っただけだが、それでもこれ以上の痛みを体験したことのないリイナにとっては激痛なのだろう。
今すぐにでも駆け寄って痛みを和らげてあげたい。
思考をリイナ一色に染めたシエラだが、それでもダメだ。
だからこそ柄を握る力を強める。
「殺されたくなければ私を殺しなさい、それが嫌なら早くこの城から出て行きなさい」
私は『昔の私』と同じ気持ちになってリイナに言い放った。
それを聞いたリイナは怯えて退がるように床を這いずり、起き上がると私に背を向けて逃げ出す。
意気地無し。
自然に口から冷酷な言葉が出る。
私が一瞬だが昔に戻った。
私の娘を蔑んだ目で見下していた。
死にたい。
 森の奥の城に住む化け物。
 人の姿をした、人ではない化け物。
 作られた意図も私以外のものを手に入れようとした人間の欲望のみで、当然その欲望の中では私は必要ない存在だった。
 そんな運命。
 だからこそ、一つの村を壊滅させたあの時の狂気と蛮行には悔いと同時に感謝もあった。
 感謝があるということもおかしい。
 私は多くの人の命をこの手で奪ってきたのだ。
 その結果が城から出れない呪縛…いや、この顔のせいでもある。
 美貌が幽霊を縛り付ける。あの錬金術師がかけた呪いの要因はこの顔だ。
 多くの悲劇を起こしたのも、生き地獄を味わうことになったのもこの顔のせいだ。
 でも、あの時の狂気が救われることのない私の運命を変えたのだ。
 もし、呪いがなかったら。
 もし不死ではなかったら。
 今の私にはとても怖い未来だったろう。
  でも私は運命を変えたはずだ。
 その結果が2人の愛する人と大事な召使いとの生活なのだから。
 だから私は感謝する。
 たとえこの場で娘と相対してもだ。
 私は今、娘のリイナに対して剣を突き付けている。
 リイナも震えた手で私の愛剣を握って構える。
 その姿には怯えや恐怖、その他雑念や感情が混じっているのがわかる。
 私もそうだ。
今すぐこの手を引っ込めたい。
剣を落として私の娘を抱きしめたい。
ずっと一緒にいたい。
でも、それは出来ない。
リイナは不死じゃない。
彼女は普通の人間で、私達とは違って永遠の生を得ていない。そのような中で一緒に暮らし、老いて死ぬ姿を私や彼は見たくないはずだ。
だからこそ、リイナをこの城から追い出してもう二度と会わない為にも、私はこうするしかなかった。
彼はリイナに説明したほうがいいと言ったが、あの子は言っても聞かないはずだ。
あの子は良い子だ。
私の娘かと疑うほど、あの子は純粋だ。
世俗とは無縁だから仕方がないと思うけど、それでも私が見てきた人間以上に綺麗だ。
あの子の天性、私とは正反対の存在だ。
「お母様……や、やめて下さい!わ…私は…ッ!」
あぁ聞きたくない。
私はリイナがその言葉の続きを言う前に彼女との間合いを一瞬で詰めてから腕を少しだけ切った。一瞬のことでリイナは理解できなかった。
痛みに気付いた時には大きい叫び声をあげ、床に倒れた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「…っ」
リイナの初めて聞く絶叫に近い叫び。
浅く切っただけだが、それでもこれ以上の痛みを体験したことのないリイナにとっては激痛なのだろう。
今すぐにでも駆け寄って痛みを和らげてあげたい。
思考をリイナ一色に染めたシエラだが、それでもダメだ。
だからこそ柄を握る力を強める。
「殺されたくなければ私を殺しなさい、それが嫌なら早くこの城から出て行きなさい」
私は『昔の私』と同じ気持ちになってリイナに言い放った。
それを聞いたリイナは怯えて退がるように床を這いずり、起き上がると私に背を向けて逃げ出す。
意気地無し。
自然に口から冷酷な言葉が出る。
私が一瞬だが昔に戻った。
私の娘を蔑んだ目で見下していた。
死にたい。
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