むかしばなし
それでも彼は耐える
「その後死体は錬金術の素材に使われ、たくさんの王子擬きが生まれた。でも…全員狂ってたんだって」
「錬金術で生まれた……それはホムンクルス…の事ですか?」
「あぁそれだ、本当によく分かんないわ錬金術って、そこまでして『神から授かった』モノが欲しいんだから」
「…そんなお話と、この雨に打たれることの関連性が分かんないです」
「あぁ、私狂ってるから、それに貴方は化け物だし、そりゃ……理解、して、出来、ないよね……」
そう言ってシエラはベオの体に身を預けるように寄りかかってきた。
彼は慌ててシエラの肩を抱いて受け止めようとする。
瞬間、痛みが腹部に走る。
慣れた痛みにあまり表情も変えずに、ベオは自身の痛みを感じるところを右手で探る。
ドロリとしたものと硬い刃物の感触があった。
「…シエラさん、どうしたんですか?」
それでもベオはシエラの身を案じた。
シエラは限界だった。
「………もうさ、もうさ、もう嫌だ、あんたみたいな化け物に怯えたくない、私の今までを否定するあんたが嫌い、殺せない、死なない、本当に気持ちが悪い!!!」
ベオの胸元で顔を俯かしながら、何度も隠し持っていた刃物を刺す。
ザク
「私は死んでも生き返る人が怖い! 何考えてるのか分かんなくて怖い!」
ザク
「でもそれ以上に私は自分が怖い!自分の正体もわからずに過ごした二百年が怖い!!」
ザク
「えぇ私は化け物よ!!私は王子の死体の全てで出来た『化け物』よ!! 」
ザク
「御伽話の竜の呪いで狂ってイかれた、狂気の人間!何が自分、何が私だったのかすら分からない!!」
ザク
「なーーーーんにもない!!全部誰かからもらったものばかり!!剣の腕も、不死も、狂気も、あまつさえこの身体ですら!!!」
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク。
ベオから流れる血はどんどん足元から広がっていく。
水溜りはどんどん赤色になっていく。
しかし、それでも彼はシエラの肩から手をどかさない。
刺されることにただジッと耐えていた。
それから数十分、彼は刺され続けた。
バラバラにされないだけ、マシと思いながら。
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