むかしばなし

鬼怒川 ますず

化物は何?

ベオがシエラを見つけたのは城内ではなかった。

シエラは何故か庭に、吹き荒れる嵐の中でずぶ濡れになりながら俯いていた。
彼女を探していたベオはそれを窓越しから見つけると急いで階段を降り、嵐が吹き荒れる庭に出る。

「ちょっとシエラ様! こんな嵐の中で何やってるんですか!?」

「……」

ベオはすぐにシエラを城内に入れようと手を握る。
しかし、シエラはその手をすぐに振りほどいてベオから数歩距離をとる。
何事だと思い、ベオはシエラに聞いた。

「一体どうしたんですかシエラ様、なんだか今日の貴方は…」

今日の貴方は少しおかしい。
こう言葉に出してしまいたかった。

だが、シエラはそれよりも先に言った。

「ねぇ、化け物って何だと思う?」

俯き、濡れた髪で表情も読めないシエラが、いつもと同じように強気な調子で語る。
ベオはその回答に一拍置いてから、慎重に答えを出す。

「それは……人や動物とは少し違うものでしょう、何も考えないで襲う獣も同じく、私も…私も化け物です」

「……そう」

「でも、シエラ様…シエラさんは化け物じゃないです。美しい容姿とその強さはまさに女神!この化け物が心惹かれる『美女』なのですから!」

ベオはそう言って笑顔を浮かべた。
何があったかは分からないが、いつものシエラに戻って欲しくて。
でもシエラは……。

「……私は化け物よ、狂人でも不死身でもない、造られた人よ」

「…何を言ってるんですか?」

「ねぇ『竜殺しの王子』の童話を聞いたことある?」

「えぇっと……竜を倒す話ですよね?」

強気な口調。
いつもと変わらないはずの彼女の声。
ベオはその美声が好きだった。

それなのに、何故か心臓がキュッと締まる。
まるで嫌な話をしているかのように。

「竜を倒した王子はそのまま死んだ、そう、死んだ。主からの力を持ったまま、彼は竜と一緒に死んだの」

「…それが一体なんなんですか」

「この御伽話にはいつも胸が躍った。笑った。懐かしかった。まるで、その場にいたかのように興奮した……懐かしい」

フフ、と小さく笑うシエラ。
ベオには自暴自棄に嗤ってるようにしか見えない。
彼女は続ける。

「どうして好きだったんだろ、如何してこんなにも想い出深いんだろう、いつもずーと思ってた。二百年前に無くした本の内容をどうして好きだったのかって…」

「あの、シエラさん。本当にどうしたんですか?」

「御伽話には続きがあった」

「いえ、だから早く城内に戻ってください」

「二百年前、かつて竜に殺された王子の死体が見つかったの」

「……え?」

淡々と、御伽話に出てくるはずの王子の死体が発見されたことを語るシエラ。
それには、5千年も生きたベオもシエラを連れようとした手を止めた。

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