むかしばなし

鬼怒川 ますず

働き始めて半年

働き始めたベオの朝は早い。



毎朝早くに城の庭にある野菜農園の世話をし、それが終わった頃にはシエラの朝食の準備に取り掛かる。

朝食が終われば食器洗いと洗濯、ベッドメイキングを各部屋で行う。
それが終わる頃には昼食の準備に取り掛かり、昼食が過ぎればシエラの為にお茶を淹れる。

シエラはお茶にうるさいようで、セイレンが趣味の範囲で自家栽培させた茶畑で採れた葉が不味ければ不機嫌に飲み、逆に美味ければ絶世の美人図のように佇んで優雅に飲み干してしまう。


それにウットリしてしまうベオだがその後も時間は敷き詰めてあり、全ての家事をセイレンと共にこなしていくのだ。

ベオは辛かった。
今まで自由気ままに旅をしてきた彼が急に時間に縛られた生活をするのだから無理はない。
だが、そういった時間…忙しい時間が今まで以上に楽しく、多忙の対価としてシエラの笑顔が見れた。
これ以上の幸福はない。



働き始めて半年が過ぎた頃だ。


「ベオさんはどうしてあの我儘なお嬢様に失望などしないのですか?」


一度だけ仕事の途中にセイレンから問いかけられたことがあった。
セイレンにそう聞かれたので最初ベオはふざけて「美しいから」と答えたが。


「真面目に答えてください。どうしてですか?」


あのセイレンからキツく聞かれた。
今までそういったこともなかったセイレンからの尋ね方にベオは少し黙り込む。
そして口を開いた。

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