むかしばなし

鬼怒川 ますず

充実した悪女

それは流れ去った時の中。
二百余年もの間、城に囚われながらも美女は案外規則正しい生活をしていた。

「ちょっとセイレン、この茶葉少し苦味があるわよ。摘むのが少し遅かったんじゃないの?」

「すみません、天候が良くなくてその影響かと思いマス」

「全く…!それにしてもパンはとても美味ね。何か秘訣でもあるのかしら」

「ハイ、天候が優れず痩せていたのでテンサイとい作物を使って甘味を入れたからデス。それだけでも味は違うでショウ」

「ん、悪くはないわ」

朝の光が古びた鉄製のテーブルでお茶を啜る麗しき女性を差し、その横で恭しく膝を折って女性に説明する喋る石像の姿が城の中庭にあった。

『悪女』シエラ嬢。

この城に縛られ誰からも忘れられた美女であり不死であり狂人。
石像の方は無名の錬金術師に造られ、今ではシエラ嬢のしもべとして嫌味もこぼさずに働いている。





シエラ嬢はこの城に閉じ込められ不死になった。
最初の頃はずっと喜んでいたが30年も経った頃には不死に飽き始めてなんども自殺を試みて失敗し、変わり映えしない光景に発狂していた。

だが石像、セイレンと名付けられたゴーレムがそんなシエラ嬢を支えたおかげで発狂から立ち直り、以後この時を充実するように生活していた。

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