僕の妹は死霊使い(ネクロマンサー)~お兄ちゃんは妹が心配です~

黒眼鏡 洸

8 妹は挫けそうです。

「この子が私のパートナーのストロングです」

 スレンダは馬小屋で餌を食べている馬、ストロングをユウたちに紹介する。
 何故か、スレンダはストロングから距離を取っている。

「強そうな馬ね」

『そうだね。この子なら普通より早くフィーロに着けそうだ』

「“いい馬ですね、レイお嬢様!”……そうね。レイも馬がほしい」

 ユウたちが感想を述べると、スレンダはお礼の言葉を返し早々に馬車へと案内を始める。
 ユウたちは特に気にかけることもなく、スレンダの後をついて行く。
 馬車のもとへ到着すると、スレンダは荷物の置き場所や注意事項を簡単に説明し、動かすための準備に取り掛かる。

「お兄ちゃん、フィーロまではどのくらいかかるの?」

『そうだなぁ、馬車でだいたい十日くらいかな?」

「うぅ……お兄ちゃん。レイ、冒険者はもういいかも……」

 レイは軽く絶望したような表情を見せる。
 ユウはレイの顔をジッと見て、黙ってしまう。
 そんなユウの反応に、レイは少しばつが悪そうな表情に変わってユウから視線をチラチラと外したり、戻したりしている。

 そして、ユウは話すべきことが決まったのか、ゆっくりと口を開き喋りだす。

『レイ。お兄ちゃんはレイが冒険者をやりたいって、自分から言ってくれてすごく嬉しかった。レイにもやりたいことが出来たんだってね』

 ユウは叱るのではなく、話すようにレイの目を見て気持ちを伝えていく。
 その声は優しく、だがその中には力強い想いが詰まっている。

「うん」

『確かに大変なことは沢山ある。でもね、僕はレイならどんなことでも出来ると思ってる。これは我が子可愛さとかじゃなくて、レイにはそれだけの可能性が秘められてると思っているからだ』

「お兄ちゃんっ」

 レイの頭にそっとユウの手がのる。

『レイ=ハーデスは僕の、自慢の妹だ!』

 それは励まし、そんな風に思われるかもしれない。
 しかし、この兄妹は分かっている。
 この言葉に込められた想いを、決して甘やかし何てことではないと。

「――うんっ!」

 一言だけでいい。
 それだけでいい。
 この兄妹には伝わっている。繋がっている。

「この兄妹は、ほんとにもう……少しは私も仲間に入れなさいよ」

 ミカは愚痴りながらも、その顔は言葉に反して微笑みを浮かべていた。
 そんなこんなで出発する準備が整ったらしく、スレンダが声を掛ける。

「み、みなさん、準備はよろしいですか?」

「大丈夫ですよ!」

『はい』

「うん」

 準備は完了。
 それではフィーロに向けて出発っ!

「出発しますっ!」

 スレンダが出発するべく手綱を引く――が、一向に馬車が動く気配がしない。

「あれ?」

 ミカは出発すると言ってから、全く動かない馬車に不審に思ったのか御者台にいるスレンダの様子を見る。
 ミカとスレンダの目が合う。
 スレンダは耐えきれず瞳を潤ませる。

「ご、ごめんなさいっ! 本当は私、馬車を動かせないんです! 黙っていてごめんなさいっ!!」

「そ、そうだったの……」

 言葉にはしないが、ミカは落胆の色を隠せないでいる。
 そんなミカの反応にスレンダはますます表情が暗くなっていく。

『あの、よろしければ事情を聞かせて貰えませんか?』

 ユウは優しく微笑みかけながら尋ねる。
 レイは先ほどのユウの言葉を繰り返し唱え、満足そんな顔をしていた。
 レイはもう少し他のことにも興味を示した方がいいと思う。

 ***

 これはまだ、スレンダが幼い時のこと。

「お父さん、お父さん! 私もやりたいっ!」

「ダメだ! お前にはまだ早い」

「うぅー、お父さんのケチっ」

「ケチで結構」

 御者台には二人の親子が座り、馬車を走らせていた。
 父の握る手綱を指差し、駄々をこねる少女がスレンダだ。

 スレンダはよく父の仕事について来ては、御者台にいる父の隣に座りアレは何、コレは何と話しかけたり、ただじーっと風景を眺めていたりして過ごす日々を送っていた。

「お父さんは何で、お馬さんを上手にあやつれるの?」

「それは秘密だ」

「ケチっ!」

 父はチラッとスレンダを見ると一言だけ呟き、また手綱へと意識を戻す。
 スレンダは頬を膨らませ、プンプンといった音が聞こえる気がする。

「はははっ、うそだよ。知りたいか? ……それはな、馬をビビらせるんだよ」

「びびらせる?」

「そうだ。ご主人に逆らったらダメだって思わせるということだな」

 そんな父の言葉に如何やら、スレンダはあまり納得がいっていないようだ。

「それじゃ、お馬さんがかわいそうだよ」

「そうだな。だから頑張ったら褒めて、ご褒美をあげるんだ。そして、何よりも大切なのは愛情をもって育てることだな。これは子育ても同じってな?」

「ふぅーん、分かんないけど分かった!」

「それはどっちなんだ? あはははっ」

 笑う父につられてスレンダも笑いだす。
 そして夕日が見えてくる頃、いつものようにガタガタ揺られながら二人は家に帰るのであった。

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