僕の妹は死霊使い(ネクロマンサー)~お兄ちゃんは妹が心配です~

黒眼鏡 洸

1 妹は死霊使いに覚醒しました。

「レイのところに来て――お兄ちゃんっ!」

 レイの叫びが、願いが響く。

「レイちゃん……あなたに《死霊魔法》は……」

 ミカが弱々しく、そして悲痛の顔で呟く。
 そう、レイに【死霊使いネクロマンサー】の能力《死霊魔法》を使うことは出来ないはずだった。先ほどまでは……。

 杖の先から青紫色の光が発せられ、小さなこの部屋の天井、壁、床が照らされる。
 その光は色に反して、不気味さなんて微塵も感じない。むしろ、温かみさえあるのではないかと思う程に煌めいている。

「え? なんで……どうして?」

 ミカの疑問は至極当然だっただろう。
 しかし、その疑問は直ぐに解決される。光が少しずつ弱まるのと同時に、変化は訪れた。

 レイはベッドに杖を立て掛けると、溢れる想いがこぼれてしまったような微笑みを浮かべる。

「おかえり……お兄ちゃん」

 差し伸ばしたレイの両手に青い、蒼い、人魂が収まるように現れる。
 そばで見ていたミカは、まだ状況を理解できていないようだ。少し呆気にとられたような、おかしな顔をしている。
 対するレイは、なくしてしまった宝物をやっと取り戻したかのように喜び、頬擦りまでしてしまっている。

「いや、待ってレイちゃん。百歩譲って、《死霊魔法》を使えたことを受け入れたとしても、何でその人魂がユウだってわかるの?」

 ミカはパンク寸前といった様子になりながらも、何とか状況を理解するために努めている。

「……ミカさんはちょっと黙ってて」

「っな!」

 ミカの気持ちを代弁するならこうだろう。“やっと喋ったと思ったら、このガキっ!”
 実はこの二人、とても仲が悪かった。まさに犬猿の仲というやつだ。
 違う意味でパンク寸前のミカはさておき、この流れを意外な人物が一変する。

『怒らないで、ミカ。レイもそんな言い方をしたらダメだよ。ね?』

「人魂が喋った!? え? ゆ、ユウなの?」

「うん……わかった」

 流れが変わっても、ミカの混乱は続く模様。頑張れミカ。
 レイは渋々といった様子で頷く。兄であるユウの話は聞くらしい。

『うん、レイはいい子だね』

「うふふ。そうだよ、レイはいい子だもん」

 見ての通り、ユウはレイに甘い。それはたった一人の家族だからという理由もなくはないと思われるが、そうだとしても実に甘かった……。
 そんなことは当たり前だとばかりに育ってきたレイお嬢様は、ユウに褒められ上機嫌のようだ。
 レイは喜んでいない風に装うが、にやけた顔が見え隠れしてバレバレである。

『それにしても、如何して僕はここに……何かしらの《魔法》で呼び出されたのは分かったんだけど』

 ユウは自身の経緯について推察を始める。
 こんな状況でも冷静に対処できるのは、これまでの数々の経験あってのことだろう。
 魂で考えれば、この世界で生きてきた実年齢の二倍以上の歳となる。
 あくまで魂の話であって、精神年齢が伴うかと言ったらそうでもない。

『誰に頼んでくれたのかは分からないけど、僕を召喚してくれてありがとう。最後にレイとミカ、二人と話せて良かった』

 ユウは不明な点が多いといった様子だが、召喚を依頼してくれたことに対し素直に感謝の気持ちを伝える。
 泣くのを我慢しているのか、ユウの声は少し震えたように聞こえる。

「お兄ちゃん……」

「あのー。私、全然話せてないんだけど」

 残念ながら、この兄妹の世界にミカの入る余地はないらしい。諦めるなミカ!
 レイは納得がいかない! っといった表情で人魂であるユウを見つめる。

「だめ! 帰っちゃダメ。お兄ちゃんはレイのそばにずっといるの!」

『それは……むり、じゃない。え? あれ? 口が勝手に喋った……』

 顔をしかめ、駄々をこねる子供のような声でレイは言い放つ。
 そんなレイに諭すように話しかけたユウだが、如何やら自分が思っていたこととは違うことを言ってしまったらしい。
 ユウは焦りながらも、自分の不可思議な状態を理解しようしているようだ。

『そうか、召喚主はレイだったのか。でも確か、レイは【死霊使い】ではなかったよね?』

「うん、そうだよ。だけど、お兄ちゃんに会いたかったから真似したの。ゼロ様の真似を」

 ユウは自身の記憶を辿り、如何やらレイが【死霊使い】として覚醒したことを仮定するまでに至った。
 召喚主ネクロマンサーならば死霊――死者の霊魂――を命令し、従えることが可能だからだ。
 実はその推察は正しい。レイはユウの死が起因して【死霊使い】としての才能に目覚めたのだ。

 そしてレイの言うゼロ様というのは『最恐の死霊使いアブソリュート・ゼロ』の敬称だったりする。
 『最恐の死霊使いアブソリュート・ゼロ』を少女たちは決まってゼロ様と呼ぶ。それほど尊敬、憧れられる存在なのだ。

『そうだったんだね。正直、お兄ちゃんは驚いてる……でもね、心から祝福するよレイ。おめでとう』

「おにい、ちゃん……うわぁあああん!!」

 レイはユウの優しい言葉に思わず涙が溢れだし、その手に収まっている人魂ユウを抱きしめる。
 そんな二人の姿に、ムスッとしていたミカも顔がついつい綻んでしまう。
 そしてレイは泣き止むと、《うるうるな瞳》を使いユウにねだるように問いかける。

「じゃあ、レイのそばにいてくれる?」

『い、いや、それは……もちろん! って、また!?』

 そう、ユウに拒否権などない。
 ユウ的には別れの言葉を告げ、そのまま成仏したかったのだろうが神様レイがそれを許してくれないらしい。

「あのー、そろそろ私もお話しに混ぜて欲しいなぁーなんて。それと、人魂のままじゃ喋りにくいし、魂を肉体からだに戻したりとかって出来ないのかな?」

 ミカはあくまで控えめに、二人の邪魔はしたくないんですが、っといった感じで話しかける。
 そんなミカに対してレイは無残にも冷たい言葉をぶつける。

「無理。今、取り込み中だから。見ればわかるでしょ? 兄妹の再会だよ? ミカさんは、ほんと空気読めないよね」

「……」

『ちょっ、レイ! そんな言い方したらミカが可哀そうでしょ。空気読めないのは本当かもしれないけど……』

 ユウはフォローしたつもりだったのかもしれないが、しっかりと追い打ちがミカに炸裂したようだ。
 見事な兄妹コンビネーションを食らったミカのHPはレッドゾーンに到達していた。
 しかし、そんなことをこの兄妹たちは微塵も感じていない。それがまた、質が悪い……。

「でも、お兄ちゃんの魂を肉体からだに戻すのは聞いてあげる」

 どこまでも上からなレイ。
 ミカはツッコミをいれる余力もないのか、黙り込んでいる。

『それは僕的にも嬉しいかな。まだ、この姿でいるよりは肉体からだがあった方が何かと都合が良いからね』

「うん。任せて、お兄ちゃん」

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