スクールライフCREATORs

石原レノ

仲直り

「ゆかりちゃんっ!」
勢いよく開かれた屋上の扉。限界まで息を切らせた僕は屋上を慌てて見回す。
しかし、屋上には誰1人として人物らしき存在すらなかった。無言のまま手すりまで向かい、屋上からの景色を眺める。
昼を回った時刻から見える景色は、いたって普通で面白くないほどだった。その景色が、今はやけに心に染みる。
このままゆかりにけられたままになってしまうのだろうか。この祭りが終わるまでに仲直りしなければ、何の接点もないゆかりはきっと支援部の部室、それどころかすれ違っても無言のやりとりになってしまうだろう。
そんな事が嫌なのは当然である。それも自分の不注意が引き金になったのだからなお後味が悪い。
「はぁ…また振り出しかなーー」
折れそうな心を抱えながら、扉の方を振り返った……そして、目に映った光景。
「………え?」
驚きのあまり呆然としながらこちらを見つめているゆかりの姿が、僕の視界に映る。あまりに急な出来事で、僕は数秒黙ってしまったが、我に帰り、すぐさま口を開く。
「ゆかーー」
「っ!」
僕が名前を呼ぶよりも早く、ゆかりは扉を開けて逃げようとする。しかしーー
「あ、開かない!?」
いくらノブをひねっても、扉は固く閉ざされたまま開くことはなかった。
ーー今しかないーー
そう思い、僕は全身全霊を込めてゆかりの意識を引く。
「ゆかりちゃん!」
「は、ひゃいっ!」
名前を呼ばれたゆかりは、声を裏返しながらも、やっとの事で振り返ってくれた。
「この前はその…ごめん!ゆかりちゃんがあそこまで気にするなんて思わなかったから……本当にごめんっ!!」
「い、いや先輩は悪くないですよ!その…私が勝手に舞い上がってただけで…だから先輩はちっともーー」
「その引き金は明らかに僕だった。もっと他に方法があったかもしれなかったのに、あんな事しか出来なかった僕にも責任はある」
「〜〜っ!!」
意地を突き通す僕を前にして、ゆかりは言葉にできない感情を顕にしていた。やがて何を行っても無駄だと悟ったのか、落ち着いたように息を漏らす。
「ーー分かりました。先輩を許すです。こちらこそごめんなさいです。先輩の気遣いがあったのに逃げ出してしまって…」
ゆかりの言葉に
僕はほっと胸をなでおろす。
「僕は大丈夫だから気にしないで」
お互いに微笑み合いながら見つめ合う。その恥ずかしさに気づいたゆかりがボッと顔を赤くするが、僕は『?』のマークを頭に浮かべた。
真っ赤になった顔をこちらに向けたゆかりが、何やら唇を震わせながら何かを伝えようとしている。
「あ、あのーー」
「??」
僕は首をかしげるが、ゆかりは何故か言葉を放つことを拒む。
「こ、これから……わ、私とーー」
あぁそういう事か。ゆかりの言いたい事が、その時の僕には理解できたような気がした。恥ずかしがり屋なゆかりがそれを伝えることに苦労することも頷ける。
だから僕が、優しく手を差し伸べた。
「一緒に回ろっか」
ゆかりは一瞬きょとんとしていたが、恐る恐るこくんと頭を縦に振った。

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